第15話 おじさん、健康診断後に初めて毒をくらう
「ゲギャ!?」
俺の投げた石が一匹のゴブリンを貫き、その向こうの壁に轟音をあげながら突き刺さったことで破片が飛び散る。向こうにとっては運の悪い事に俺が牽制していた正面のゴブリンにその破片が命中し、かなりの深手をおってしまう。その隙を逃さないせこいおっさん。すぐさま魔法使いのサリーさんにお願いし、火魔法で焼いてもらう。
一方、呆然としていたゆうとりますけれどもーでお馴染みユート君は、俺のサリーさんへの指示でハッと我に返り、同じく茫然としていたゴブリンと戦闘再開。そして、見事勝利。そこそこ時間はかかったけどほぼ無傷の勝利。素晴らしい。
戦闘終了を確認した俺は、自分の手をぐっぱぐっぱと握っては開いてを繰り返す。
「ふむ……困ったなあ……」
身の程を知れ、という言葉があるがそれは冒険者にとって心に刻んでおくべき言葉だ。
弱いものは弱いなりにどう振舞うべきかを分かっておくべきだし、強いものも何が出来るのかをしっかりと把握しておくべきだ。でなければ、例えば、さっきの投石の破片が二人に当たる可能性だってある。勿論、俺が把握できてない前提の陣形でお願いしたので何か起きても大丈夫なように、俺の背中ほぼ一直線に並ぶように動かした。だが、どんどん難易度が上がっていったり、魔物の強さが上がっていけば戦闘の次元が変わってくるだろう。
S級のダンジョン配信を見たが、地形が変わるレベルの戦いだ。そんなところに何も追いついていない若者を連れていくなんて愚行の極み。無駄に若い命を落とさせるわけにはいかない。
「だからこそ、自分の力を把握できなきゃいけないんだけどなあ……」
今朝、ユリエラさんをお迎えに上がる前に身体は動かし、自分の剣の振りの早さは確認したし身体の動き方も無理しない程度で動いて相当な速さに変わっていた。外で出来る確認には限界がある。さっきみたいな投石なら借りている宿の壁なら5枚くらい突き破ってしまうかもしれない。それは同時に俺の胃袋も突き破っちゃう。
というわけで、ダンジョンだからこそ出来る確認をしていかねばならない。迷惑をかけないようにしながら!
「あ、あの……カイエンさん? その……今のは?」
サリーさんが遠慮がちに聞いてくる。遠くで俺を警戒しているユート君。
ま、そりゃそうだ。
「あ、えーと、その、投石、かな」
「はあ、投石……」
サリーさんが信じられないものを見る目で俺を見ている。そりゃそうだ、昨日までG級おっさんで有名だった俺が急にこんな力を発揮しているのだから。おじさんだって信じられないもの。
「えーと、まぐれまぐれ……ははは」
こんな時、配信をしているS級冒険者なら気の利いたコメントが言えるんだろうけど、生憎俺は人が見るように撮影精霊を使った事がない。なので、場をおさめるために思い付いた言葉がまぐれである。よくないなあ。まぐれという言葉で済ませるのは一番危険だと分かっているのに使ってしまい俺は慌てて訂正を入れようとするが……
「あ、じゃなくて……」
「なーんだまぐれか! そうだよな!」
【いやいや】
【いやいや】
【いやいや】
いやいや。
配信を見ている人たちの言葉を見てもまぐれだとは思っていないが、若者冒険者ユート君は何故かまぐれという言葉に納得。まあ、若いし、さっきまで馬鹿にしていたおっさんが強いなんて認めたくないよね。男の子だもんね。元、男の子の現おっさんだから分かるよ、うんうん。
一人納得したようなユート君と一人納得してないようなサリーさんと共に【小鬼の塒】を進んでいく。先頭を行くのは俺。【小鬼の塒】は悪質なトラップが多い為、少し慣れてきた冒険者が次のステップに行く前にしっかりトラップに慣れていこうというF級でもE手前ダンジョンなのだが、どうやらユート君。サリーさんと視聴者にいいところが見せたかったようで此処を選んだご様子。うーん、若い男の子。
ま、若い男の子だから仕方ないし、御しやすくもあった。
『ユート君には戦闘に集中してもらいたいからね、トラップ探索はおっさんに任せてくれ』
『そうだな! 任せた! おっさん!』
御しやすすぎる若さだった。そして、先頭に。まだ五感にかかった呪いは全て解けたわけではないがマシにはなっている。その上、元々【小鬼の塒】は何度も来た事のあるダンジョンな上に、ゴミ掃除やらの雑用で浅い層にはGランクでも入る必要がある為、配信映像もよく見たので、大体の想像がつく。
よりランクが上になれば魔法トラップや幻覚系魔法をかけて分かりにくくしたトラップもあるが、所詮はゴブリンのお手製トラップ。丁寧に進めば、大丈夫。
なんだけれども……
「おお! あれはゴブリンの溜め込んだ財宝、ゆーとりますけれどもー!」
「ちょっと、ユート君! まだカイエンさんが調べてないっ……!」
分かりやすく餌にされた金ぴかに誘われたユートくん飛びつく飛びつく。
とてつもなく分かりやすい罠紐に足を引っかける。そして、その紐が引っ張られたことで発動したのが飛矢の罠。恐らくゴブリンの事。毒でも塗っているはず。
そんな飛矢の飛んでくる方向にあたりをつけた俺は射線を遮るように飛び出したユートくんとサリーさんの前に立ちはだかる俺。
ぶすりといやな音を立て右肩に命中。
「おっさん!」
「カイエンさんっ!!!」
【ゴブリンの毒矢か】
【毒はキツイ】
【投石おじーーーーー!】
目の前だったので二人の心配する叫び声もはっきり聞き取れる。撮影精霊も近いから意外と心配してくれている視聴者の声も見える。うん、よかった……若者たちをまも、れて……。
「……って、あれ?」
一瞬じわりと嫌な毒の感触があったけど、すぐに消えてしまった。
「???」
「お、おっさん?」
「カイエンさん、その……毒は?」
【ん?】
【ん?】
【ん?】
一応、魔水晶のタブレットにも目を通してみるが、毒の表示はない。もしかして……
「あー、なんか、おれ……今までずっとひどい毒状態だったから抗体が出来て、多少の毒じゃきかない、ゆうとりますけれどもー……なんちゃって」
「は?」
「は?」
【は?】
【は?】
【は?】
いや、だって、多分そうとしか思えないだからそうとしか言えない。
一先ず、罠が発動してチャンスだと飛び出してきたゴブリン4匹は投石で倒した。ちょっとさっきの一投で肩があげるのが痛くなったのでいわゆる回さずにソフトボールみたいな下から投げて、投石おじドパンしちゃいました。
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