浦島ッチョ太郎
矢魂
浦島ッチョ太郎①
むかーしむかし。あるところに浦島ッチョ太郎という青年が暮らしておりました。
その青年、身の丈185センチ。体重は100キロを超え、体脂肪率に至っては常に一桁をキープしていました。その秘密は、魚介類から摂取することのできる良質なたんぱく質と脂質にありました。
漁師である浦島ッチョは、この高たんぱく食材を継続的に入手することができ、尚且つ日々の鍛練を欠かさない真面目さを持ち合わせていたのです。故に地元では知らぬ者がいないほどの怪力を有していました。
そんなある日、浦島ッチョがいつものように浜辺にサーキットトレーニングをしに行くと、なんと子供達がブーメランパンツを履いた亀っぽいオッサンの大胸筋を虐めているではありませんか!
「オラオラ!腕立て伏せあと300回だ!」
「インターバルは10秒な!」
「甲羅なんて背負いやがって!どうせこの下の背筋も小せぇに決まってらぁ!」
それを見た浦島ッチョ。思わず子供達を叱りつけました。
「コラァ!お前たち!!過度な筋力トレーニングは筋肥大の妨げになるぞ!!」
その迫力に子供達の三角筋は縮みあがり、全体のシルエットが若干小さくなってしまいます。
「これ以上その大胸筋を虐めるなら、俺が容赦しない!わかったか!」
「ひ、ひえ~~!」
「ごめんなさーい!」
「バランスのとれた食事と充分な休息を心がけまーす!」
浦島ッチョはすぐさま亀っぽいオッサンに駆け寄ると、懐から蒸した大豆を取り出しました。
「大丈夫ですか?今はこんなものしかありませんが、筋肉の足しにしてください」
畑の肉とも呼ばれる大豆には筋肉の元となるたんぱく質が豊富に含まれています。また、柔らかく蒸してあることで炒ってある大豆よりも消化吸収がしやすくなっているのです。
「ありがとうございます。なんとお礼を言ったら良いのか……」
亀っぽいオッサンは大豆をむしゃむしゃと頬張りながら頭を下げました。
「いえ、気にしないでください。当然のことをしたまでです」
「しかし、それではワタクシの気が収まりません。……そうだ!」
大胸筋を左右交互に、ピクピクと動かしながら亀っぽいオッサンは手を叩きました。その肥大っぷりに浦島ッチョも目を見張ります。
「あなたを竜宮城へとご招待致します」
「竜宮城?」
「はい。ワタクシが住む海の中にある楽園でございます」
「楽園か。そいつは興味があるな」
「そうでしょうそうでしょう。それでは早速向かいましょうか。……えーと」
「俺の名は浦島ッチョ太郎だ」
「浦島ッチョ様ですね。では、ワタクシの背に掴まってください」
そう言って亀っぽいオッサンは背中を浦島ッチョの方に向けました。しかし、浦島ッチョは亀っぽいオッサンの背にある甲羅を二、三度触ると首を横に振ったのです。
「掴まれと言われても……。握力には自信があるんだが、こうも取っ掛かりがないと難しいな」
それを聞いた亀っぽいオッサンは笑いながら頭を掻きました。
「あっ!そうでしたそうでした。忘れてましたよ。少々お待ちくださいね。……憤っ!!」
いうが早いが、亀っぽいオッサンは勢いよく力みました。その瞬間、甲羅は弾け飛び亀っぽいオッサンはただのオッサンになったのです。唯一のアイデンティティを失ったオッサンは少しだけはにかむと、再び広大な背中を向けました。
「これで掴みやすくなったでしょう?では、ワタクシの背筋に掴まってください」
まるで岩肌の様に隆起したオッサンの背筋を、浦島ッチョはしっかりと掴みました。一説によると、この一連の流れから着想を得たのがロッククライミングの起源だと言われているとかいないとか。
「では浦島ッチョ様!竜宮城へまいりますよ?」
「ああ、よろしく頼む」
こうして二つの筋肉の塊は、海の底へと向かって発進したのでした。
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