真白き蝶

第1話

夜な夜な、夢の中で現れる蝶。


その蝶は、薄くて繊細な羽根と、長い触覚をゆらゆらと揺らしながら、私を過去へと誘う。


夢の中で私は幼な児となり


頼りない小さな魂は、朽ち果てた庭の草むらにしゃがみ込み、静かに泣いている。


その庭を光に透き通る白い蝶が舞っている。蝶は 私の心の奥底に眠る記憶の断片のように、ゆらゆらひらひら……


不確かで儚い動きで、私の周りを飛び回る。


夢の中なの?

それとも現(うつつ)?


夜な夜な現れて

失われた記憶の迷宮へとわたしを誘う蝶_


記憶の奥底_


それは、かつて私が愛した、しかし、今は失われてしまった、大切な何かへの切ない憧憬。


私は長い時間、泣き続けた。


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真白き蝶 @oboto

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