胎み鳥

小紫-こむらさきー

闇バイト

半戸 満

闇バイト1

「バイト、ホント楽勝だったのさいこー! よいちょー」


 繁華街の一角、地べたに座って私たちはチューハイの缶をぶつけ合う。なんで「よいちょ」なんて馬鹿らしい言葉を言うのかなんてわからないけど、みんなが乾杯するときはそういうのでとりあえず付けている。

 パサパサの痛んだ金髪で涙袋を強調するメイクをして、大きなパステルカラーのモノグラムが目立つ鞄を持って灰色のスウェットを着た子、プリン頭の茶髪でドンキに売ってそうな着ぐるみパジャマを着た子、ピンクの髪でペラペラのジャージを着た子、それに全身真っ黒でゴテゴテした服を着ている私……いわゆる「普通」から浮いている女子の一団は繁華街の片隅なら浮かないで済んでいる。


「みちるがいると仕事が早く終わるからまぢ助かる」


 大きな鞄を持った子がそう言った。自称ヴィトンちゃん。ルイ・ヴィトンから獲ってるらしいけど持っているバッグはルイ・ヴィトン風の偽物。名前も偽物なら持ち物も偽物なのがすごい馬鹿っぽい。だから一緒にいて少し安心する。私より出来ない子がいてくれると私が可哀想な子じゃなくなるから。


「この前の猫屋敷、来月まで近寄ったらだめなんだっけ? ほんとダルいよね」


「かわいい猫を虐待してるやつなんて呪われて当然っしょ!」


 ジャージちゃんとぬいちゃんも何か話している。最近したバイトの話だった。私たちがしているのは多分『闇バイト』というやつだけれど、そのことに三人は気付いていないと思う。馬鹿な子たちだし、多分学校も行ってないんだろうな。この子たちの私生活なんて知らないし興味も無いけれど。きっとあっちも普段の私に何て興味はないはずだ。

 こんな馬鹿で可哀想な子たちと関わってしまったのは、見た目だけが取り柄っぽい妙な人に声をかけられたのがきっかけだった。

獣の形をした影をゆらゆらさせてこちらへ近付いて来た人が「君、視える人だよね?」と話しかけてきて、それから「割のいいバイトがあるんだ」と話を持ちかけてきた。どうせ暇だったし、断る理由もないから引き受けたけど……こんな馬鹿な子たちと自分を同じように見られたのかと思うと少しだけムカつく。

 思い出しムカつきをしてたけど、さっさとこんな場所離れよう。


「じゃあ、私は帰る。補導されないようにね―」


 缶チューハイを数口飲んでから、適当に缶を地べたにおいて立ち上がる。いつまでもここにいて補導なんてされたらめんどくさいし、未成年飲酒もバレたら不味い。


「ばいちょー」


 ひらひらとこちらに手を振ってくれるヴィトンちゃんたちに背を向けて、私は駅へ向かって歩き出した。

 繁華街の街角を通り過ぎると、一気に私が「普通ではない」ことを突きつけられる気がする。

 このバイトを始めてから三ヶ月。三人とは今も上辺だけの付き合いだ。

 こんなバイトを始めることになった理由は、私の体質が関係しているし、体質を活かすだけでうさんくさいバイトを始めるような馬鹿じゃ無い。ちゃんとした理由がある。それを話すためには三ヶ月前のことから話さないといけない。

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