第2話

井上が朝倉に出会ったのは「アップシフト・フォーラム20XX」だった。


「自分にしかできないビジネスで社会の役に立ちたい」新卒後6年勤めた大手商社を退職した井上は資本金と希望に満ちた20代終盤の2年半を「ソーシャルグッドベンチャー起業」にすり減らし、どん底と言っていい状況にあった。

個人宅食、不登校支援、オーガニック食品販売…社会の役に立ちたくて始めた事業はどれも初手から頓挫し、自社が何屋なのかも定かでない。


「ここで折れてはいけない、もっとインプットを、自分をアップデートして再起に備えるんだ。ピンチはチャンスなんだ。」30代を目前に、井上の向上心は行き場を失いつつあった。


「アップシフトフォーラム20XX」は、その頃井上が虱潰しに参加していたビジネスセミナーの1つだった。

登壇した朝倉は仕立てのいいスーツを洒脱に着こなし、小太りの体は活力に漲って見えた。


そして優しく響く中性的な声で語り出したのだ。


「僕はね、ビジネスというのは、社会貢献であると確信しています…」

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