センジ編

怪奇現象、です


陽主ヒヌシって国です」















「ヒヌシ…なるほど、そのような国が」


「前話した通り、漫画が近年の文化として一番強いと感じますが…"神への信仰"もここと比べ印象としてあるかも。他国と比べ特別強い訳じゃないですが私も信仰してますし」


「………?すまない、なんて言った?聞こえない言葉が二つ程」

「ああ。前々からここの神とは一体どんなものかと思っていましたが…、神がいないんですね?神ってのは主に世界を創った者の名前です」

説明ながら机を借りて椅子に休まる。

やっぱりサンさんと二人の時間は落ち着くような気がする。

「ああ。それならばいるぞ」

本当ですかとその者の名を待ち侘びる。

……あれ?なんで、『それならばいる』のに神って言葉に翻訳が機能しなかったんだろ?

成り立ちの違いもあるのか?とその名をいよいよ耳に入れる―――


「女狐だ」


…………は?

「………は?」

「ん?だから女狐だと」

「何が言いたいんですか?あっいや…、いやいや整理できましたよ。」

いや全然まだ説明して欲しいんだけど。

翻訳がどうとかってのはちょっと分かった、てか半分はそれが要だったりするんだろう。なんで『女』と『狐』になったかはわからない。

もう少し説明を必死に乞うた時、

「ああ、女狐は女とあるんだが女性ではない」


ンンッそういうのじゃないし余計理解できなくなったよ!!

……一旦わかったのは、女狐の女狐ってのは女狐って意味の女狐じゃなくて女って意味の女と狐だったってこと?けれど女性じゃない。

「男でもないが」

ンソゥ…まっあるよねそんなこと!!!!陽主の神も性別なかったりするしい!!!


無理やり納得しているのを露知らずまた女狐…様?の話をする。

「狐って動物…あっ知ってるか?狐は女狐しかいないというか、女狐が止めたんだ」

山程疑問がこびりつく中、吐いても問題無い疑問を言う。

「…止めた?」

「ああ。正式には生命は止まっておらず別の生き物として生んだのだ。

生命を生む際自身が唯一無二である為に狐という個体を自身一人にした。女狐は生命の母であるが故の―」


…狐なの?うーんと……あっなるほど?

女狐って、だから『女狐』って女狐じゃなくて…

「あの…ゴメンナサイ。正直今までそれどころじゃなかったんですけど、今わかりました」

不思議そうな顔をするが私が今一番不思議だよ。


「その女狐様って方、誤訳されてます。

たまたま私の世界の言葉と被ってたんです、ようやく謎も解けました」


狐…キツネ、かあ。

狐って言えば宇迦之御魂神ウカノミタマノカミ様だな〜と思考放棄を何処かでしだす。

「そんな言葉があったのか…ふむ、様はつけなくていいぞ」

「えっ、信仰しんこうしてるんじゃないんですか?」

「誰の名前だ?女狐は古くから敬称を使うのを嫌がるし俺様は女狐も越えるべき相手だからな」

ええ…神でさえ…?もう一回世界作るってこと?神越えるって何?


まっ何は超ともあれ面白いことが知れた。

女狐、か。またフラッと調べてみるのも良いか。







「そういえば私ここの国の名前知りませんよね?」

先程は私が国の名を教えたが、そもそもここの国の名前を私は知らない。

というか、名前って概念はこの世界広い範囲で機能してるんだよな。よくよく考えたらかなり違いのできそうな点なのに。

「ああ…、国の名前はマカロンだ」

「へえ、美味しそうな名前ですね」

「そうか?」

あっマカロンこの世にないっていうか国の名前として起用されて…これさっきもありましたよ?

まあマカロンはこの世では食えないようだが米とかおにぎりとかこの世にないと保証されずよかった、感謝かんしゃ。


「あっもうこんな時間ですね」

窓の景色は切なく暗い色をしている。まだ寝る時間じゃあないけど。

しかし時間がもっと経ってるって思っていた自分もいる。

いや、なんていうか今日は色んなことありすぎて情報量で言うともっと夜と錯覚できると。

けど今日は嬉しいことが多い気がしたし、ここの人とよく喋れたような気がする。

満足はした。けどまだ少し続いて欲しいなとも考える。

「晩御飯を食べたらタルトを完食しよう」

「そうですね!お疲れでしょうし晩は私が作ります」

椅子から離れて踊るような音の皿を出す。

冷蔵庫―食物庫も見慣れてきたな。


…異世界も悪くないなんて思えるなんて、本当恵まれてるな。





昨日幸せだと実感したので、朝はいつもより爽やかに起きた。

昨日はラサさんについて知れた。

し、サンさんといれる時間も増えた。…この言い方は照れ臭いが。

ユイダさんとも、異世界でまた新たに関係性ができたのも嬉しいし。

あとタルト美味かった。

…いやサンさんは負けちゃったしラサさんの件も決して良い事ではないのだけど。

けれど密かになら、嬉しい気持ちになってもいいんじゃないか。

と、窓に目をやる。

まあ音から気づいてたけど…雨だ。

あれ?異世界での雨って初めてか。傘やレインコートってあるかな。

ダイヤ型の窓に身を乗り出してみる

うーん…わかりにくい。

この世界の窓ってダイヤ型の上、ふちが派手ではないが光ってて外を眺めんのに適してる物ではないかも。

光は消せるけどね、と光の中で誤魔化されていたボタンを押す。

この光は夜暗い時と寝てる時にしか使ってないんだよな…


「おはようございますー…ちょっと遅いですけど」

「十時半だな」

ん、いやでも早いんじゃないか?あっこれは時間の感覚バグってるから?

そして今日のメニューは目玉焼きといつものパン。

半熟の目玉焼きは非常に食欲を唆り、食パンもジャムが切れてしまったが滑らかな生地がなんとも…うんまそ。


頂きますと言わず食べるのは背徳感があるが…

郷に入っては郷に従え。

っていうのは基本的、習慣をなくすのではなく増やす時に使うのだが…ともかく静かに頂く。

入った塊を水で流し込み、思い切りコップを剥がすと…


…………ん?

私、こんなに飲んでないぞ?と、思いまじまじ眺める。

「? どうかしたか?」

本を片手で嗜んでいたサンさんがこちらを見つめる。

「んーと…はは。なんでもないでーす」

別に一気に飲んだ訳でもなし。

食事に必要な量ってくらい?しか飲んでないのにな…私があれくらい一気に飲んだのなら途中咳き込むくらいと思うけど。

サンさんのドッキリかな?きっとそうかな?

絶対違うけど大体そんなものかも。

こういうのに不審がる私じゃないし…もしかしたらただ飲みすぎちゃったのかも。食パンは齧っても減ってくれなかったし。


皿を台所に送ったまま洗っていると…なんか。

今日はよく泡立つな。泡だらけになってきたぞ。

…そんな訳ないと思うけど。

「サンさん、洗剤なんか変えました?」

「えっと…何の話だ?」

ですよねー。今日は私寝ぼけてるのかもしれない。寝起きと言えば寝起きだし、こんな時間に寝起きとか情けないけど。

泡まみれ過ぎて最初から泡の手を持つ女だったんじゃないかと思える手を洗い流して

「私も本読んでいいですか?」

「どうぞ」

なら、この前ヨツダ王が女好きであると判明した本を取らせて頂こう。これ最後まで読めてなかったんだよね。

物語的展開はないもののなんだかんだ面白いのがこういう本で、歴史ってものかな。

まあ前世界の歴史でさえあまり詳しくないんだけど。

………そうだ、

「女狐さんの伝説を書いた本!みたいなのはないんですか?」

「リンナにとって女狐も『さん』と呼ぶものなのか…なぜ俺様と女狐が一緒に呼ばれたのかと思ったが」

「そうでした、違和感があるならさっさと言えばいいんですよ?」

「リンナが思うよりあるぞ違和感、頻繁ではないが…で、女狐の本?」

サンさんの問いかけにコクコク頷く。

「あったら珍しい部類だし…悪いが俺様は買わないぞ」

「ああー…神話とか読むのでなんか残念です」

不思議そうな顔を見たあと共に本を再度見下ろした。


「っ!?」

あら〜なんということデショー…

その見下ろしたとやら頁がペラペラ動いてるじゃないですかー私がめくってないのにぃ!?


「それ、どうした」

いい加減サンさんも目をやり始める。

「き、聞いて下さいサンさん…私は、寝ぼけてますか?」


視線を集める本は恥ずかしげもなくまだまだ働く。

かと思えばピタリと私が読んだ迄の頁に戻り。

「…………」

「何処かの魔術師に目をつけられたんじゃないか?」

「なっ!?えーっと…嫉妬?」

「なんの?」

嫉妬を買った…何でかはわからないが異世界人ならあり得る!

そういえばサンさんと一緒に住んでるし、サンさんってモテるんだろうか?

こうして一緒に住んでるサンさんも誰かが必死に想ってる、そして想われてる人なのかも。

なんか心なしかズルい…なんでだろ、けど今はこの現象達の方がわからないので良いや。



皿がカタカタと揺れ、まずい!と思いきや直ぐ素直に居座る。…悪い人じゃないのかな。

 

「昼のご飯は悪戯ないんですね、もしかして魔術師の方もお食事中?」


サンさんが用意してくれたゼリー…のようなデザートを口に吸う。

「まだ魔術師と決まった訳じゃないし、理由がないからな」

「いやあるにはあるじゃないですか。よ〜く考えてください」

ゼリー(偽)の残った一口を食べきる。

ちなみに偽ゼリーの食感はゼリーより硬かった。


手紙を書こうとしたが、今日は雨って事で届けられないな。

雨の日はどの手段を取るか分からないし…どの手段にしても私はその用具持っていないだろう。

貸してもらえるかな?とか考えるけど必死に届けたい訳でもない、諦めて紙を部屋に放置する。

さてはて本でも読むかそれとも他の事するか…と思い窓を見た、束の間。


記号だよね?これは…文字だよね。

窓にはあの小さい頃よくやる露を利用した…前目に入れた時もここの文字ってこんな形だったような…

先程から多発する謎の怪奇から考えると。


一息つき、そんでまた息を張って


「イヤァァァァァ幽霊ぃッ!」



「声は抑えました」

「そうか?」

サンさんが窓を訝しげに見る。

サンさんは窓に書いたりしないタイプかなと判断したが、どうやら本当にサンさんはやってないらしい。せめて推測が外れて欲しかった。

「文字については『ここにいるよ』と…」

「ひいっ!怖っ窓に書かれる文字ベストワンに入選できるくらい怖い!!」

「よりによって男に抱きつくのはどうかと思うぞ」

「貴方がいいますか…」

キザとも言わしめた体からゆっくり手を離す。

「なぜ怖がるかわからないな。そちらの世界はそういう文化なのか?」

「文化っていうか…ホラー映画とかはありますけど」

聞いたところ。どうやらここは、幽霊?屁のが恐ろしいわ!…スタイルらしい。

「リンナは何を危惧してると言った?幽霊?そこがわからん」

幽霊は人の下位互換に過ぎないという考え方のそう。誰も私の恐怖を理解してくれんのか。

「ここにいるよ…か。流石に出てって欲しいな」

「いやあの、そういう実害がどうとかじゃなくて…私は怖いですけど」

というよりこういうのは元々怖がるタイプじゃないけど、明らかに何かが迫っていて異世界という舞台も込み青ざめるのだ。

「今日は私、なんもしちゃいけない日かな〜…流石に眠りは妨げらんないよね?」

寝てきます、と居間を出ていき布団の上で大人しくすると誓ったのだった。


































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