ヘビ先輩のヨコシマ恋模様
古時計
第1話 ヘビ先輩
真冬に降り積もった雪が溶け、種子を散らせた裸木には、もう一度桜が咲き、またそれを舞い散らせる、新たな始まりの季節。
雀の鳴き声が聞こえる程静かな、吹き抜けの道場の中。
私は、大きく、しなやかな和弓を構え、正確に呼吸をする。
そしてゆっくりと矢をつがえ、弓の弦を引っ張る。
キリっと角を貼った弦は、私の指を離せば、一瞬にして元の一直線に戻り、直ぐにでも遠く離れた的の元へと矢を飛ばすだろう。
でも、私は直ぐには弦を離さず、数十秒、それ以上だろうか?
そのままの姿勢で、矢をつがえ続ける。
狙いを定めている訳でもなく、弓道のルールだからでもない。
私は、見せつけているのだ。
このしなやかな腕を、学校一大きな体躯を。
そして、的を真っ直ぐ睨む、この鋭い目つきを。
そんな、蛇の様に恐ろしくもある風貌だからか、いつしか私は「ヘビちゃん」や「ヘビ先輩」などというあだ名を付けられていた。
──私は、チラリと校舎の方に視線を向ける。
すると、美術室の窓から私の姿を書き写す、小さな青年の姿を見つける。
その人を一瞥すると、とうとう私は、的に向かって矢を放った。
ぴゅんという綺麗な音を奏でながら、弦から放たれた矢は、真っ直ぐに的へと向かう。
カン……的に突き刺さった矢の音を聞き、私は、幾つも矢が突き刺さった的を見て、ほくそ笑む。
「狙い通り……」
そう、狙い通り。
美術室の窓からよく見える、廃部寸前の弓道部に、最後の部員になるまで残った甲斐があったというものだ。
お陰で、窓から見える、彼の瞳を、私の姿で射止める事ができた。
恍惚とした笑みを浮かべながら、私は突き刺さった矢を、引き抜いた。
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