夏への反比例、俺と君は死んだ
海央
第1話
蝉の声がじわじわと開いた窓から、響く。
「おーい今週の締め切り課題、これ出してないと点数ないぞ」
「やっべ」
ふと教室の入り口付近から、数学担当の松先がそういい、締め切り日時の書かれた紙をぺらりと、空中で揺らしている。
俺は急いで遅れた分の課題を、教科書でぎっちりつまったぐちゃぐちゃの机から、引っ張り出し走っていくと松先の前で息を切らしながら、提出することができた。
その後は安堵の息を漏らしつつ、落ち着いた状態で席に戻った。
窓側の一番隅っこの自分の席は、風の通りがよく、蝉の声を我慢すればどうってことない、むしろ快適だ。
窓から見える空の景色はいつも朝から夕方にかけて、紅い色調へと変えていき、日が落ちてゆく。
それを見るたびに、学校の終わりを実感できてなんとなく達成感を感じれる。
でももうすぐ夏休みが始まる、自分改め俺長尾理人は、それがどうしても愚問だった。
別に学校に毎日行きたいとか、そんな勉強大好き人間てほどでもないし、ちゃんとした自分なりの言い分がある。
それは彼だ。
俺の隣の教室にいる同級生の新山蒼穹、あれは一目ぼれに近い感覚だった。
一個前の学年の時たまたま学園祭で見た彼の演劇だった、衣装や姿までもが作りこまれており俺は一瞬にして目を奪われた。
それだけではない彼はその姿で完全に役になりきっており、美しいという言葉で表せないほどの表現力に俺は圧倒された。
だから好きになった。
それ以外の何物でもない、、ただその感情で俺の脳は溢れ出ていた。
でも夏休みとなると、毎週金曜にあった劇のお披露目会がなくなってしまう、それどころか彼と会うことすらできなくなってしまう。
そんな不満をどう解決するか、模索していた時だ。
「、、お願いですやめてください」
「ああ??」
帰り道校舎裏の方から何やら争う声が聞こえた、肝心の声も蝉の声で一気に搔き消される。
なぜだろう嫌な汗が頬を伝って、一滴地面へとゆっくりと落ちた。
途端に蝉の声は消え、真っ暗闇の自分の世界に入り込む。
「お願い、、や」
ドゴっ
鈍い音が聞こえる、手には部活で使用するために出された、金属バットがあり、先端には赤黒い血がべとりとついていて、自分は服を崩されぼろぼろにされ目の前に座り込んだ青年を見る。
彼だ。
横には俺が殴って倒した、犯人がいる。
血をながしているが、指がピクピクと反応するくらいで、起きる気配はない。
途端に力が抜けガタンと持っていた鉄バットを地面に転がした。
その足でよろよろと彼に近づき、見上げるような姿勢で口を開く。
「、、新山だよな?」
彼はそれに答えるようにこくんと首を縦に振った。
「なんで、、なにがあったんだよ」
俺はしゃがみ込むと彼の目を見つめ、肩を掴み揺すった。
「、、、、、、、、もう最悪だ」
そう震える声で彼は顔を下げ、顔を手で押さえる形で啜り泣き始めた。
「、、流出したんだよ、、俺の動画」
「動画?」
すると今度は何を思ったのか、犯人のそばに落ちた携帯を掴むと、ロックの解除された画面を俺に見せた。
「は?」
自分でも驚くほどのドスの聞いた声が出る、途端に怒りという感情が胸の中を渦巻く。
そこには服を脱がされ淫らな状態で顔を隠された、新山本人の写真があった。
おそらく掲示板らしきサイトで、胸糞悪いコメントが付け足されていた。
「どうゆうことだよ、、これ」
「、、劇の先輩にやられた、、、練習付き合えって言われて」
「なんで言わなかったんだよ親とか警察とか」
「言えるわけないじゃん、、黙ってないとその写真って脅されたんだよ」
「もうどうしようもなかったんだよ全部」
「、、だったら殺してやろうかソイツ」
「は?」
口から自然とでたその言葉に俺は一切の罪悪感すらなかった。
確か貯金もある、それに緊急時用の缶詰も家に幾らかある。
先輩というのは恐らく今年卒業した奴の事だ。
遠い場所で大学やらなにやらして、此奴を不幸にしておいてのうのうと今もそうやって生活してる。
だったらその犯人も彼自身を気づ付けたやつを、俺は殺す。
復讐して最後は死んでもいい。
それでいい。
だって俺に生きる意味が彼しかない。
「行こう、、全部俺が終わらせてあげる」
そう言って彼に手を伸ばす。
そしてこれが自分と彼の最初で最後の逃避行だった。
あの夏は蒸し暑くてやけに蝉の声がうるさかった。
夏への反比例、俺と君は死んだ 海央 @jdjdsjsdk825
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