花道

部屋の中の、いろんなものとさよならして、僕は小さな幸福の中に、不幸を見ました。僕がどこまで幸せになったとしても、彼が、彼が追いかけてくるのです。あの笑顔、あのやさしさ、あの吐息、全てが僕の生活の中に根ざしてしまっているから、僕は彼のことを忘れられないどころか、至る所に種を蒔いてしまうのです。彼のいたという証拠みたいなものを、スーパーマーケットや、ベランダや、海などに、撒き散らしてしまうのです。そんな僕を、どうか許してください。君のことを忘れたいと願いながら、君に見つけてもらえるように花を咲かせようとする、この卑しい僕を許してください。そして、もっともっともっと許してもらえるなら、僕のことを忘れないでください。たとえ幸せになったとしても、少しだけ思い出してください。僕の心が君のそばにあったことを、呪いのように君になすりつける僕は、神様なんかに、許されなくてもいいから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る