第26話 反撃法令、おかわり

「あ、あああ……」


 驚愕の事実を前にして、ダンダルト候の震えがもう止まらない。

 なんたって事実上の爵位剥奪勧告文だからな。


 今回の契約はいくら侯爵とはいえ無茶の過ぎる注文だった。

 相手が元冒険者だからと舐めてかかったのが運の尽きだったんだよ。


「こ、こんなの嘘だ! 捏造だあっ!」


「そう思うならば是非その書状を持って皇帝陛下に直訴してください。侯爵殿なら可能でしょう?」


「そ、それは……!?」


 そして自分でも吹っ掛けている自覚があるからこそ、皇帝陛下にも言えない。

 もし直訴なんてすれば、その時点で首を刎ねられかねないのだから。


 全て自業自得だ。


「では我々はこれで。ダンダルト候はこれから身の振り方を考えた方がいいですよ」


 どちらにせよ、吹っ掛けられた俺から同情する余地はない。

 だからこう伝えると、そっけなく椅子から立ち上がってミーミルを手招く。


 それがどうやら気に食わなかったらしい。

 途端にダンダルト候が腰の剣を掴み、もはや怒りの形相だ。


「くっ! 貴様、不敬だぞ! この私の前でそんな不遜な態度を!」


「おや、書状を最後まで読まれなかったのですか? もっと重要なことが書かれていたはずですが」


「何ッ!?」


 しかしこう言われ、即座に再び書状を見るダンダルト候。

 その顔が再び驚愕に染まっていく様子がなんだか面白く思えてきた。


「バ、バカな!? 貴様に〝特授爵位〟を与える、だとぉ……!?」


「そういう訳です。俺はル=メギア皇族お墨付きで特授爵位――公爵級の立場を一時的に得たことになる。それもこの契約が成立した時点で。つまり今のあなたよりも立場が上になる訳だ」


「あ、ありえぬ……そんな……」


「ならば無礼なのは剣を取ったあなたの方になるはず。では改めて、失礼しますよ」


「うぐぐ……ま、待てぇい!」


 これだけ打ちのめされたのにまだ本人は何とかなると思っているらしい。

 途端に剣を抜き、俺たちを威嚇してくるとは。


「きゃあああああ!!?」


「こうなったら貴様をここで始末して全て無かったことにしてやるわあ!」


「……はぁ、そんなことが出来る訳もないだろうに」


 ダンダルト候は剣にも自信があるのだろう。

 迷いなく構えを見せ、鋭い斬撃を俺へ見舞おうとしてくる。


 だが俺は瞬時に手刀を振り切り、彼の剣を根本から「パキンッ」とへし折ってさしあげた。


「え? あ……」


「いい加減、現実を認めたらいかがでしょう? 全ては自分が蒔いた種なのだと」


 ここまでやってようやく理解したのか、ダンダルト候が膝から崩れ落ちる。

 情けない姿だが、処断されるよりはずっとマシだろうさ。


「今の出来事は俺たちだけの事に留めておきますが、以後おなじようなことをすれば、次は無いと思ってください」


「あ、うう……」


「それとサシェですが、彼をあなたの没落に付き合わせたくはない。ですので彼はコナリア村で引き取ります。よろしいですね?」


「もう、勝手に、しろ……」


 よし、言質も取れた。

 これでサシェは本当の意味で自由だ。

 俺の密かな目標もこれで達成となる。


 晴れ晴れとした気分で書類に拇印を押し、契約はきっちりと成立。

 放心状態のダンダルト候を放っておいて屋敷を出た。


「さぁて、やることは全て済んだし、後は皇都の観光でもして帰るかぁ」


 これで俺たちは後腐れなくコナリア村を発展させられる。

 物事も落ち着いたし、後はミーミルの要望に応えるのも吝かじゃあないさ。


 ……と思っていたのだが、ミーミルの顔が妙に浮かない。


「ん……今はもう帰りたい、かな」


「お? いつも都会都会って言っているミーミルが珍しいな?」


「それよりも今日までの出来事を皆に話したいくらいですよぉ~……あー疲れた」


 話し合いが終わった後のミーミルはまるで憑き物が落ちたかのように大人しい。

 やはりこの数日で移動だなんだと付き合わせたのが不味かったかな?


「でもね、もっと気になることがあるんです」


「なんだなんだぁ?」


「センセって、いったい何者?」


「うん??? うーん、引退適齢を迎えて冒険者を退いたロートル、かなぁ?」


「それって、冒険者がメッチャ儲かるってことだよネ……」


「まぁその理屈は間違い無いかもしれないな」


 確かに、勇者にもなればあるいは。

 ランクが低い時は生活もギリギリだが、その経験があると無駄遣いを避けるマインドも育まれるだろうし。

 まぁ命のやりとりもあるから国家兵士並みには貰えているはずだ。


 他の職についてはよくは知らないがきっとそうに違いない。うん。

 考えるのも面倒だからそういうことにしておこう。


 ミーミルの質問の意図はわからないが、帰りたいというのは本当なようだ。

 街中を眺めるでもなく、退屈そうに両腕を裏に回してどこか上の空で。


 とはいえ希望には沿いたいと思う。

 そこで俺たちはドレスを店に返却すると、そのまますぐに帰路へと就いた。


 しかし高速移動が三度目ともあり、ミーミルはすっかり慣れてしまったようだ。

 最後にはもう掲げ上げられても楽しそうに鳥の真似事をしていた。

 子どもの順応性には恐れ入る。


 だけどそのおかげで、俺たちはこの日の内に無事コナリア村へと帰還を果たすことができた。

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