第15話 必殺技が欲しいと言うので
「待ってたよセンセ! 大丈夫だった!?」
「ああ、何も問題無かったよ。待たせてしまってすまなかったな」
帰ってきて早々、ミーミルが慌てるように駆け寄ってきた。
いつも座学を楽しみにしてくれているからな、その時間を奪ってしまって悪く思う。
でも屋内に入ってみると、なぜか俺の席にエルデが座っていた。
ふてぶてしく背もたれに腕をかけ、子どもたちの前で得意げに指を振っている。
「やっと帰ってきたかリアンよ。だがこの時間は既に私がいただいたぞ? 今まさに我が眷属のことを熱ぅ~~~く語っていた所だ」
「フフン」と鼻を鳴らして得意げなエルデ。
しかし対する子どもたちはゲンナリ気味、ウトウトと寝ている子までいる始末だ。
よほど退屈な話を聞かされたに違いない。
「あの人、センセがいない間に好き勝手でサ……」
「……ほんとすまん」
緊急事態とはいえ、あまりにも放り投げし過ぎたようだ。
肩を落とすミーミルに、詫びと励ましのつもりで頭をポンポンと撫でてあげた。
エルデに教師役はまだ早かったかな。
自主的に替わってくれたのだろうから責められはしないが。
だからと、なぜかふくれっ面なエルデにも手だけで詫びの気持ちを示しておく。
「さて皆、退屈させてしまったお詫びに、この後は一緒にパンを作ろう! 好きな形にして焼くと、きっともーっと美味しくなるかもしれないぞ?」
「「「わーっ!」」」
俺の提案で、沈んでいた場が一気に息を吹き返した。
やはり食事が一番の原動力になるな、この子たちにとっては。
騒ぐ子どもたちを誘導し、まずは手洗い。
それで予め作っておいた生地の塊を作業台の上に置き、子どもたちに千切って渡していった。
「形ができたら石窯の鉄板の上に並べていこう。自分の置いた場所を忘れないでな!」
「「「はーい!」」」
生地を渡しながらも説明を続け、ミーミルにも大きな塊を渡しておく。
そうすると今度は満面の笑みを浮かべたボルクの番がやってきた。
「嬉しそうだな、ボルク?」
「そりゃあもう! なんせ最年長なんだから一番でっかいの貰えるっしょお!」
どうやらミーミルが貰った生地を見て期待を膨らませていたようだ。
仕方ない、そんな純粋なボルク君には俺からピッタリのプレゼントをあげよう。
「エルデ、この残りを適当に千切っておいてくれないか?」
「フハハハッ! 任せるがいい、その程度なら私でもできよう!」
「え? えっ? オレの分は……?」
「ははは、安心してくれボルク。君にはもっと相応しい役割をあげるつもりだ」
「マジすか!? なんだろなぁ~~~!?」
両手を握り締めて嬉しそうなボルクを、手招きで外へと連れ出す。
それで拾っておいた木剣を手渡し、笑顔で頷いて見せる。
「パンが焼き上がるまで、ここで俺の真似をしようか」
「……え?」
「なぁに簡単だ。こう全身を捻るようにして右足を踏み出す、それだけでいい」
木剣を両手で受けたまま、ボルクが唖然と立ち尽くす。
そんな彼の前で一歩下がり、右足の先を地面に擦らしながら一歩を踏み出した。
そしてズンッと土にめり込むほどに踵を落とす。
少し中腰になる程度の深い踏み込み。
しかし必要以上に力を入れることも無く、同じことを繰り返して見せる。
「さぁ、やってみよう!」
「ちょ、ちょっと待って!? 俺専用パンは!?」
「大丈夫だ安心しろ。エルデが代わりに愛情を込めて握ってくれるよ!」
「いいぃ!?」
「それに、ボルクは必殺技が欲しいのだろう? だったら言うことを聞いておいた方がきっといいぞ?」
「これが必殺技ぁ……!?」
実に地味な作業だ。
故にボルクも半信半疑のまま真似をし始める。
しかし腰に力が入っていないな。やり直しだ。
すかさず彼の腰を叩いて気合いを注入してやる。
「なんだそのへっぴり腰はぁ! 必殺技が欲しくないのかぁ~~~!」
「ほ、欲しいっすぅーーー!!!」
「ならパンが焼き上がるまでにあと300セット行ってみよう! 終わらないと食べられないぞおっ!」
「ひいいい!!!??」
ボルクが慌てて繰り返し前進運動を始めると、準備を終えた子どもたちが楽しそうに屋内から眺めてくる。
中には真似をし始める子もいて、予想外の盛況っぷりだ。
ミーミルもボルクをからかって遊んでいるし、いい気分転換になったようで俺も嬉しい。
……その後パンも焼き上がると食事を済ませ、子どもたちの帰りを見送った。
エルデも食べてすぐにいなくなってしまったし、途端に静かになってしまったな。
聞こえてくるのはせいぜい、息を上げたボルクの吐息くらいだ。
「ヒィヒィ、ヒドイっすよぉリアン先生~……なんで俺だけ、こんな仕打ち、なんすかぁ」
「いやいや、必殺技が欲しいっていうボルク君の望みを叶えてあげようと思ったまでだよ!」
「その割には、めっちゃ嬉しそうだし……ハァ、ハァ」
さすがにやり過ぎたのか、すぐには息が整わなかった。
おかげでパンも食べられないままボルクの分だけが傍に置かれている。
「そうだな、人が成長するのを見るのはやはり楽しいよ。冒険者だった頃から仲間や友人が成長する様子を見てきて、それが当たり前になってしまったからかな」
「……リアン先生は、どれくらいの、冒険者だったんすか?」
「どれくらいと言われても、俺からは一概には言えないな。まぁ人並みに役立てたとは思うが」
「へぇ……」
ボルクもなかなか難しい質問をしてくれる。
冒険者なんてものは成果こそ評価されても、強さなんて指標にしかならない。
せいぜいランク付けがされる程度で、それでも成果が伴わなければ軽く見られてしまう。
だが俺は勇者となったことによって、全ての成果が「当たり前」になった。
だから以降は成果すら評価されることはなくなった。
ただ人のためにやれることをやる、それだけで周りが満ち足りたから。
その過程で、成果よりも仲間の成長の方が重要となっていったのかもしれないな。
シウスに俺の全てを注いだのもまたその一環だったのだろう。
「とはいえ、経験なら誰にも負けないつもりだ。そこは信じてくれていい」
「じゃあ、これを凌いだら、必殺技、使えますかねぇ?」
「きちんと繰り返せるようになったらな」
人の成長に余念のない俺だからこそ、嘘を教えるつもりは無い。
この特別訓練を乗り越えればボルクは一つ皮が剥けるだろう。
「でもさ、なんでいきなり、教えてくれるようになったんすか?」
「色々想うことがあってなぁ。ま、今は何も考えずに教えたことをやろう。てなわけで今日はあと300セットやるように。畑仕事が終わった後で構わないからな」
「うっげえ、冗談キツいっすよぉ~~~!」
「代わりにとっておきのパンを焼いて持ってってあげるから、それを励みにしてくれ!」
「気持ち悪くてメシどころじゃねーっすわ……」
途端にボルクが背中から地面へとゴロンと倒れ込む。
未だ息は上がったままだし、しばらく復帰は厳しそうだ。
……とはいえ、ボルクなら言えばやってくれると信じている。
兵士や冒険者になりたいとも零していたし、夢が原動力になっているのだろうな。
だったら、七日後までには仕上げられるはずだ。
そう信じ、俺はボルクを労るように家まで背負って連れて帰った。
暇でもあったので、彼の家の畑仕事を少しだけ手伝う。
今は少しでも強くなるためも、今は支えてみよう。
密かな思惑を胸に、俺はしばらく集中的にボルクの面倒を見ることにした。
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