戦時調整規定第60号(最新)

【戦時調整規定 第六十号】


―三月蝕協定―

施行年月:凍季第十六年・幽月新月期

管轄:魔王府戦時管理局・討魔任戦庁

文書番号:魔政-戦規-0060



---


第一条 総則


本規定は、魔族および人間間の恒常的敵対を制限し、

霊天暦に則した周期的な交戦をもって、

相互文化の共存および秩序ある存続を確保することを目的とする。

これにより、戦争を儀礼とし、犠牲と混乱の最小化を図る。


---


第二条 交戦期日の定義


交戦は年三回を限度とし、

黎月・紅月・幽月が天文軌上にて蝕を伴い並列する

「月縛の刻」に限り実施される。

月縛の刻は、魔族に伝わる古暦において、

最も霊脈が中立化し力が均衡に至る時節とされており、

戦争における公正性を担保するため、この刻を基準とする。


---


第三条 参戦資格および制限事項


1. 魔族側の出陣は、現役魔王一名に限る。

他の魔族個体による同行・支援・遠隔指示・召喚等は一切を禁ず。



2. 魔王は例外的に、従属存在を一体召喚できる。



3. 人間側は、討魔任戦庁の定める規約に従い、

正式登録済の志願者のみに出陣資格を与える。



4. 参加人数は上限を設けないが、編成は事前通達し、

開戦十五日前までに軍構成一覧を提出する義務を負う。



---


第四条 召喚師に関する特例


1. 召喚師は戦場への出陣を許されるが、

携行可能な召喚石は最大五十個とする。



2. 同時に帯同可能な召喚獣は最大三体までとし、

召喚獣は自律性のある存在に限る。



3. 次元歪曲・精神具現・霊位越え等の危険召喚は禁止とする。

---


第五条 勝敗裁定および褒賞制度


1. 魔族側が戦線より離脱、または魔王の戦意消失を明示した時点で、

人間側の勝利と見做される。



2. 勝利の決定後、指揮官または功績をあげた者に対し、

人間王家より「連座位」が授与される場合がある。



3. 連座位は貴族籍とは異なる栄誉称号とし、

後世の記録において名を記され、

王家式典・霊堂祭典に参列可能となる。


---


第六条 戦後の処置および慰霊


1. 戦死者の遺体は、名札・家紋札を添えて速やかに遺族へ返還する。



2. 身元不明の戦死者については、戦後三日以内に月守の庵へ移送し、

翌月の幽月満月夜に弔いの式典を行う。



3. 戦場の清掃・霊脈の調整・残響記録の処理については、

魔王府が責任を持って遂行するものとする。



---


第七条 違反規定および記録処分


1. 本協定に反する行為が認められた場合、

その者は魔族・人間の別を問わず「月蝕録」に記録され、

裁定者および精霊問答の場に召喚される。



2. 魔王府は、状況に応じて戦闘記録の封印・削除・演出編集の権限を有する。

また、過剰な暴力・見せしめ・拷問の類は全て禁忌行為とし、

協定とは別に魔王府法規による処罰が科されることがある。



---


附則 天候・霊脈変動への対応


交戦時、霊脈の乱れ・天候異常・精霊圏障害が発生した場合は、

魔族側が速やかに調整および復旧にあたるものとし、

必要に応じて精律庁および天文観測所と連携すること。



---


【終文】


> 雪の下に在るは静寂、

三月並びし夜に、剣は語らず。

剣なき時にも、裁きは生まれず。


よって、戦は儀と為し、

祈りを持ちて閉じられるべし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る