環状線の証人
ゆずこ
小手先 辻西区三丁目
1
辻東区三丁目。
国道沿いに建つ雑居ビルの二階、その目立ちたがりな看板には、場違いなほど大きな文字で『笹塚探偵事務所』と掲げられていた。
俺は、そこの雇われ助手をやっている。
事務所の主、
少なくとも俺にとっては。
いつものようにビル横の外階段を登る。
外階段は古びた鉄骨製で、踏み出すたびにギシギシと頼りない音を立てた。
階段脇には誰が育てているのか、錆びた植木鉢に背の高い雑草が伸びている。
けばけばしい看板とは裏腹に、二階のドアは塗装の剥げた鉄製だ。
手をかけると、冷たさが掌にじわりと沁みた。
扉を押し開けると、すぐに軋んだ音が返ってきた。
中ではアンティーク調の椅子がギィと頼りない声をあげている。
「おはよう」と声をかけると、椅子の主、笹塚が笑みもなく言った。
「やあ、
「は? なんだよ急に」
唐突な質問に、思わず素っ頓狂な声が漏れた。
こいつは、いつもこうだ。
要点だけ言えば済む話を、わざわざ回りくどく持ち出してくる。
性格の悪さにかけては右に出る者がいない。
イラつきつつ、一週間前から記憶を手繰る俺を、笹塚は呆れ顔で覗き込んできた。
「心当たりがないのかい? 二週間と二日前、と言えばどうだろう」
「二週間と二日? 回りくどいな。一週間分思い出すだけで手一杯だよ」
「……キミはつくづくだらしないな。貸したろう? 資料用に私の本を、数冊。返却期限は、いつまでだったかな?」
ウッ、と喉の奥で情けない声が漏れる。
ここまで言われれば、流石の俺でも思い出した。
たしか一週間――それを、すっかり忘れていた。
「す、すまん……。数日で読んだんだ。でも……その、忘れてて」
両手を合わせ、必死に謝る。
だがその態度がさらに彼を逆撫でたらしい。
不機嫌さは怒りに変わり、鋭い視線がじりじりと俺を追い詰めてくる。
「そんなことだろうと思ったよ。延滞料金でも取るべきかな? ん?」
「あ、明日には持ってくる! 本当にすまん!」
「明日、ねぇ……」
まずい、完全に長い説教モードだ。
笹塚の説教は、理詰めの小刃で皮膚を削がれるような辛さがある。
本人は笑顔ですらあるのが、余計にタチが悪い。
……いや、この場合悪いのは俺なんだけど。
必死に言い訳を考えていると――
ガンガンガンガン!
事務所の扉が、まるで借金取りでも来たかのように激しく叩かれた。
空気が凍りつく。
思わず体が硬直し、目が扉に釘付けになる。
笹塚も流石に驚いたらしく、わずかに表情をこわばらせた。
俺は小声で問う。
「……なあ、今日って誰か来る予定あったか?」
「ないね。だが急な依頼かもしれない。出てみたまえ」
指先で扉を示す。
当然のように俺に行かせる気らしい。
――お前が出ろよ、と思ったが、さっきの負い目もあり逆らえない。
意を決して、扉を開けた。
次の瞬間、怒鳴るような声が飛び込んできた。
「あの! 殺人事件を解決してほしいんです!」
そこには、乱れた黒髪に、顔面蒼白の女が立っていた。
*
とりあえず、来客用のソファへ彼女を案内した。
座ったはいいが、落ち着かない様子で何度も手を組み替え、視線はずっと足元に落ちたままだ。
――只事じゃなさそうだ。
彼女は、笹塚が出した紅茶をずっ、と一口流し込むと、ぽつりぽつりと話し始めた。
「……あの、今から二週間前に……
「婚約者が……?」
聞き返すと、彼女は小さく頷き、慌てたように付け加えた。
「あ、ごめんなさい、私……
話す順番が滅茶苦茶だ。
まだ、心が追いついていないのだろう。
ここで急かしても逆効果だ。
俺はそう自分に言い聞かせ、根気強く一つ一つ訊くことにした。
「それで……婚約者さんが殺されたという件、詳しくお聞かせ願えますか?」
「はい……えっと、今から二週間くらい前に、岡本が……その……ヤクザ事務所の前で、死体で見つかったんです。すごく、酷い状態で……」
掠れた声で話す彼女を見ていると、胸が締め付けられる。
目の下には墨を落としたかのような黒く深い隈。
何日もまともに眠れていないことは明らかだった。
横目で笹塚を見ると、彼はまるで冷たい研究者のように、無表情で彼女を見つめていた。
同情も、興味も、そこにはない。
仕方ない、まだ俺が主導で話を進めるしかない。
「ヤクザ事務所の前に捨てられていた……って、かなり異様ですね。警察も動いたんじゃないですか?」
「……はい。でも、場所が場所で……怖くて」
「場所、というと?」
思わず問い返す。
彼女はおそるおそる言った。
「“辻西で起こった事件は必ず未解決になる”って……そんな噂、聞いたことありませんか?」
その言葉に、横で黙っていた笹塚が急に動いた。
ソファにもたれていた体をすっと起こし、依頼人を鋭い目で見据える。
「聞いたことありますよ」
低い声だった。
「過去に辻西のヤクザの組長が殺されたが犯人は捕まらない、深夜に起きた親子殺人事件も迷宮入り――そういう話ですよね?」
いきなり饒舌になった笹塚に、俺も依頼人も少し引いてしまった。
横目で睨むが、本人は気にも留めず続ける。
「それで? 辻西で起きた事件を、私に解決してほしいと?」
依頼人は戸惑いながらも、強く頷いた。
「はい、そうです。このままじゃ……絶対に、犯人は見つからない気がするんです」
「……ふむ。しかし、そこまで確信できる理由は?」
噂だけで警察が手を抜くとは思えない。
そう思いながら訊ねると、彼女は両手を固く握りしめ、震える声で言った。
「岡本の……小指が、切り取られてたんです」
「小指が……?」
思わず声が漏れた。
そんなもの、見せしめ以外の何物でもない。
だが、当然疑問も湧く。
「すみません。岡本さんは……ヤクザ関係の人だったのですか?」
俺は咄嗟に聞いてから、しまったと思った。
だが彼女は力強く首を振る。
「違います。絶対に。私、大学時代から岡本を知ってます。もし、万が一何かあったとしても……私は真実を知りたいんです。どうか、お願いします」
最初の震えていた態度が嘘のように、今度はまっすぐ俺たちを見据えていた。
その気迫に思わず押されそうになる。
だが、笹塚はぴくりとも表情を変えず――
「お引き受けしましょう」
と、静かだが確かな声で答えた。
契約書にサインを済ませ、いくつかの質問に答えたあと、依頼人は「お願いしますね」と何度も頭を下げながら事務所を去っていった。
俺はその背中を見送りつつ、改めて依頼内容を整理する。
被害者――岡本裕司、三十歳。
有名大企業だ。
依頼人曰く、営業部のエースだったらしい。
自宅は辻西区三丁目のマンション。
結婚を控え、新居を探している最中で、まだ依頼人とは同居していなかった。
依頼人が見せた写真では、がっしりした筋肉質の身体に、鋭く突き出た鷲鼻。
日焼けした肌もあいまって、いかにもスポーツマンといった風貌だ。
「周囲で恨んでいる人間はいないか?」という問いに、依頼人は「心当たりはありません」と答えていたが――
まあ、依頼人の言うことを鵜呑みにするほど俺たちは楽観的じゃない。
そこは自分たちで確かめる他ない。
「なあ、これからどうするんだ?」
机に書類をまとめている笹塚に声をかけると、くるりと振り向いて、場違いなほどの満面の笑みを向けてきた。
「決まってるだろう? まずは現場での聞き込みだよ、もう片付けられてるとはいえ、住民に聞けば何か出てくるだろうからね」
……気味が悪い。
最近暇だったとはいえ、ここまで機嫌が良くなるなんて、天変地異でも起きる前触れか?
だが、いちいちツッコんだところで、まともな返事が返ってくる相手じゃない。
俺は黙って、心の中でため息をついた。
「お前も来るのか? いつもは俺に丸投げするくせに」
「今回は千歳クンじゃ頼りないからね。従順な助手よろしく、私の背中にぴったりついて来たまえ」
さらっと嫌味を混ぜるあたり、本当にイラつかせる天才だ。
俺が露骨にムッとするのを楽しんでいるのか、笹塚は鼻歌交じりに事務所の戸締りを始めた。
……まったく、気楽なもんだ。
そんなことを思いながら、俺は笹塚の後ろを追った。
2
「被害者は、ヤクザに殺されたと思うか?」
移動の最中、頭の隅でずっと渦巻いていた疑問を、俺は笹塚にぶつけた。
被害者がカタギだったとしても、知らぬ間に関わりを持って巻き込まれた可能性はある。
あるいは、依頼人が知らなかっただけで、実際には深い関係があったのかもしれない。
どちらにせよ、否定しきれる話じゃない。
「……キミ、ちゃんと話を聞いていたかい?」
笹塚は肩越しに振り返ると、鼻で笑った。
「わざわざ小指を切り取った死体を、事務所の前に放り投げておくような真似、ヤクザがすると思うかね?」
「なんでだよ?」
思わず声を荒げる。
軽くあしらわれたようで、胸に小さな苛立ちが灯った。
「なんでだって?」
笹塚は肩をすくめると、淡々と続けた。
「近年はさらに取り締まりも厳しくなっているんだぜ? ただでさえ肩身の狭い組織が、“見つけてください”とばかりの殺しをやらかすと思うかい?もし手を汚すなら、もっと目立たぬように死体を隠すだろうさ」
もっともらしい理屈だ。
だが、だからといって可能性をゼロと決めつけるのは早計だ。
何より、まだ事件の全貌すら見えていない。
笹塚の自信たっぷりな態度に、言い知れない違和感が残った。
そんな俺の表情を読み取ったのか、笹塚はくるりと華麗に振り返り、びしりと人差し指を突きつける。
「いいかい、千歳クン。私は――名探偵だ。私の自信には、必ず理由がある」
「さっき話してたこと以外にか?」
「もちろん」
笹塚はにやりと笑うと、またすたすたと歩き始めた。
いつの間にか、道は閑静な住宅街へと入り込んでいた。
背の低い生垣に囲まれた一軒家が続き、塀の上にはツバメの巣がかろうじて残っている。
足元には枯れ葉が堆積し、冷たい風がカサカサと乾いた音を立てた。
俺は少し遅れて歩きながら、ふと不安に駆られる。
……一体、どこへ向かっているんだ?
大人しく黙って着いて来たが、行き先を聞いていなかった。
依頼人から聞いたのは、「この辺り」という、やけにざっくりとした情報だけだ。
地図を見ている様子もない。
それでも、笹塚は迷いなく歩き続けていた。
まるで、最初から答えを知っているかのように――。
*
しばらく歩いたところで、笹塚が不意に立ち止まった。
慌ててブレーキをかけた俺は、危うく背中にぶつかりそうになり、舌打ちを飲み込む。
代わりに、笹塚が振り向きもせず、トンと肩を小突いてきた。
「ほら、着いたよ」
短く告げた彼は、何の変哲もない地面を指さす。
「着いた……? まさか、ここが遺棄現場なのか?」
やや緊張を帯びた声で尋ねると、笹塚はふふんと鼻を鳴らし、得意げに頷いた。
そのまましゃがみこみ、じっと地面を見つめ始める。
俺は訳がわからず、周囲を見渡した。
さっきまで賑わっていた住宅街とは違い、この一帯は閑散としている。
古びた家屋が数軒、それから、笹塚が見つめる地面のそばに、シャッターの下りた大きな建物が一つ。
電柱に貼られた風化したチラシが風に揺れ、路地には紙屑が散らばっている。
ここだけ時間が止まってしまったかのように、静けさが支配していた。
「なあ、笹塚。ヤクザ事務所の前って言ってたけど、事務所なんて見当たらないぞ?」
しゃがんだまま動かず、一点をじっと見つめている笹塚に声をかける。
シャッターは閉まり、出入りの気配もない。
ヤクザ事務所なら、もっと威圧感のある看板でも出しているはずだ――金文字で組の名前を掲げたり、そんなイメージだ。
やがて、地面との睨めっこを終えた笹塚は、小さな溜息をつきながら立ち上がった。
「間違いないよ。キミが見てるその建物が事務所さ。ただ、もう引っ越した後だけどね」
「は? 引っ越した?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
よく見れば、確かに建物は使い古された感じはない。
横開きの扉は埃ひとつなく、駐車場だったらしい広場も雑草が綺麗に刈り取られている。
納得はできないが、状況は確かに彼の言葉を裏付けている。
それにしても、よくそんな情報を嗅ぎつけたものだ。
これまで何度も事件に巻き込まれてきたが、笹塚が“知りすぎている”のは、いつものことだ。
理由は毎回バラバラだが――今回は、どんな裏があるのやら。
「疑うほどのことじゃないよ。ここにあった
しかしそうは言っても、淡々と語るその様子は、やたらと事件に詳しい。
今回は妙に知りすぎている気がした。
一瞬、馬鹿げた考えが頭をよぎる――
「笹塚が犯人だったりして」
……すぐに自分で鼻で笑った。
「それ、確かな情報なんだよな? お前、今回やたら詳しいけど」
俺が探るように問うと、笹塚は肩をすくめて答えた。
「間違いないさ、裏も取れてる。まあ、こんなの事件とは関係ないけどね。気にしなくていいよ」
わざとらしく軽い調子だ。
やはり、やたら詳しい理由を話す気はないらしい。
「それより、この現場状況が、さっき言ってた“ヤクザが岡本を殺したかどうか”の答えにならないかい?」
「事務所がもうないってことが?」
「そうだよ。キミは本当に察しが悪いね。いいかい? 拠点を移す予定だったヤクザが、こんな場所に死体を放置するわけないだろう。そんなことしたら、引っ越しどころじゃなくなる。商売も立ち行かなくなるし、組の顔にも泥を塗る。そんな無駄なリスク、負うわけがないだろ?」
笹塚は、得意げな笑みをこちらに向けた。
心底ムカつくが、反論する余地はない。
それに、ここで食いついても後が面倒だ。
……これまでの経験上。
「はいはい、納得しました。捜査を進めてください」
わざとらしくそっぽを向いて言うと、笹塚は満足げに笑い、「分かればよろしい」と言いながら、くるりと背を向けた。
その時だった――
「おや? こんなところで、なんの用かねぇ?」
笹塚に今後の動きを尋ねようとした瞬間、背後から声が飛び込んできた。
思わず驚き、勢いよく振り向くと、そこには八十歳ほどに見える老婆が立っていた。
白髪はきちんと結い上げられ、身なりも整った、上品なご婦人といった印象だ。
俺が返事を考えていると、横から笹塚が割り込む。
「こんにちは。最近ここで殺人事件があったそうですね?」
「いきなりなんだい? あんたら、警察のもんかい?」
あまりにも単刀直入な問いに、老婆は片眉をぴくりと動かし、警戒する様子を見せた。
焦った俺は慌てて笹塚の言葉を遮る。
「す、すみません。私たちは探偵でして、ちょっとした調査を……。ご近所の方でしょうか?」
急な対応にぎこちなさを感じつつも、営業スマイルで話しかける。
それを見た笹塚は、冷ややかな視線を向けた。
老婆は「ふぅん」と気のない返事をして、顎で示す。
「ここより手前の家じゃよ。ほれ、あそこの瓦屋根の古い家さ」
指差した先には、年季の入った日本家屋が見えた。
他の空き家より手入れがされているようだ。
「ここらはもう、ほとんど誰も住んどらんからねぇ。今じゃ、うちくらいなもんじゃ」
「そうなんですか。普段は静かな場所なんですね」
俺は世間話を挟みつつ、事件当時の様子を探る。
笹塚のような直球のやり方では、警戒されて話が止まることもある。
こうしてじわじわ引き出すのが、俺のやり方だった。
「そうさねぇ。静かなもんじゃよ。あのヤクザが居なくなってからは、なおさらじゃ」
老婆はちらりと元事務所の方向を見やる。
「ヤクザがいた頃は、やっぱり騒がしかったんですか?」
「……そりゃあ、出入りも多かったしねぇ。でも、あんたたちが聞いとる事件の日が、一番騒がしかったかねぇ」
「なるほど。もしよろしければ、そのときの状況を詳しく教えていただけますか?」
俺は頭を下げるような気持ちで頼み込む。
「詳しく言うてもねぇ、朝っぱらから、なんか騒がしいなと思うて外へ出たんじゃ。そしたら、道ばたに男が倒れとったよ。救急車を呼べ、警察を呼べ、てなもんで、大騒ぎじゃった」
老婆は、あっけらかんとした調子で語った。
詳しくないと言いながら、意外としっかり見ている。
「それは何時ごろのお話ですか?」
「なんぼかねぇ……たしか、朝の七時頃じゃったと思うが……。細かいこたぁ覚えとらんよ」
「十分です。ありがとうございます」
俺の低姿勢に、老婆は満足そうに微笑んだ。
そして「ああ、そうじゃ」と思い出したように手を打つ。
「夜中にな、車の音がしとったんよ。滅多に通らんけぇ、よう覚えとるわい」
「そうなんですか! ちなみに何時頃かは……?」
「時計は見とらんがのぅ……でも、夜中じゃったのは間違いないさ」
老婆は、目を細めるようにしてそう言った。
これは重要な証言だ。
車で遺体を運び込んだ可能性が高い――だが、焦るのは禁物だ。
「貴重なお話、本当にありがとうございました」
俺が礼を述べると、老婆はにっこり笑って、
「まぁ、話せるのはこれくらいじゃ。あんたら、調査がんばりなされや」
と言い残して、ゆっくりと去っていった。
「……千歳クン、今の話、どう思う?」
去っていく老婆の背中を見送りながら、笹塚が声をひそめて問いかけてきた。
「どうもなにも、貴重な証言だろ? 警察にも話したって言ってたし、“犯人は夜中に車でここまで遺体を運んできた”って。それで大体、確定ってことでいいんじゃないか?」
「そうかい。まあ、ひとまずはそういうことにしておこう」
妙なことを言うやつだ。
確かに、証言は時間も曖昧で完全とは言い難い。
だが、そこまで引っかかるほどのものか?
笹塚は何やら考え込んでいる様子で、俺は気になって声をかけた。
「なんだよ、引っかかることでもあるのか?」
笹塚は俺を横目でちらりと見やり、ふうっと大きなため息をつくと、
「いや、今の違和感はうまく説明できない。分かれば、そのとき話すさ」
そう言い残し、元来た道を戻り始めた。
どうにも、今回のこいつの態度は腑に落ちない。
ここで問い詰めても、どうせまたうまくかわされるだけだろう。
「そのうち言う」なんて言葉も、当てにはならない。
戻る道すがら、笹塚は先ほど老婆が入っていった住宅をしばらく見つめ、それから何事もなかったかのように歩き出した。
*
歩き始めてからというもの、笹塚は顎に手を当て、何やら考え込んでいた。
先ほどの“違和感”について思案しているのだろうが、俺には見当もつかない。
声をかけるのもためらわれるほど真剣な様子だったので、ひとまず黙って歩きながらその様子を眺めていた。
こうして黙っていれば絵になる男だが、普段は嫌味が多く態度も傲慢だ。
ずっと黙っていればいいのに……などと考えていたところで、再び笹塚が不意に立ち止まった。
今回は彼の様子を見ながら歩いていたので、咄嗟に身を引いてよけた。
「今度はなんだよ?」
俺がぶっきらぼうに声をかけると、笹塚は振り返りもせずに答えた。
「……人がいる。ちょっと聞き込みをしてくるよ」
言うが早いか、彼はすたすたと早足で歩き出した。
ずっと笹塚の背中ばかり見ていたせいで気づかなかったが、前方には小柄な少女が立っていた。
買い物帰りなのか、片手に袋を提げている。
その姿を確認した瞬間、またあの調子で単刀直入に聞き出そうとするんじゃないかと不安になり、慌てて後を追った。
「こんにちは、お嬢さん」
「こんにちは?」
今度は「殺人事件があったそうですね?」とは聞かず、軽い挨拶から入っていた。
……まさか、さっきの対応を反省したのか?
笹塚の辞書に“反省”なんて単語は載っていないと思っていたので、意外な対応に思わず驚く。
彼はいつも以上に柔らかい営業スマイルを浮かべて、少女に声をかけた。
「楽しそうだね? 買い物帰り?」
「え? あ、うん。そんな感じ! えっと……なにか用?」
まるで知り合いの子どもに話しかけるような調子だ。
少女は十六歳ぐらいに見えるが、話し方はずっと幼い。
大きな黄色い瞳に、顔まわりを包むグレーのくせ毛。
幼さと美しさが同居する、不思議な魅力を持った少女だった。
「私は探偵でね。後ろのは助手だよ。ここらで事件があったろう? その調査をしているんだ」
そう言って笹塚は、後ろにいる俺を親指で指し示した。
ついでに紹介された形になり、少しムッとする。
「探偵!?」
少女はぐいっと歩み寄り、目を輝かせて声を上げた。
「探偵ってホントにいるんだ!? すごい! 分かることならなんでも聞いて!」
ふんふんと鼻息荒く、やたらと嬉しそうだ。
この手の反応は初めてだった。
たいてい探偵と名乗ると、警戒されるか、気のない返事をされる。
純粋に興味を持たれるのは、悪い気がしない。
そんな俺の気分の良さを察したのか、笹塚が肘で俺を軽く小突き、質問を続けた。
「それは頼もしいねえ。二週間くらい前に起きた出来事でね。何か見たり聞いたりしてないかい?」
少女は「うーん」と唸りながら目を閉じ、しばし考え込む。
やがて首を横に振って、申し訳なさそうに答えた。
「朝からパトカーと救急車が通ったのは見た……かな……でも、それくらい」
さっきまでの元気な様子が一変し、どこか悲しげな表情になっていた。
気持ちが表情に出やすい子だ。
まあ、近所とはいえ現場は入り組んだ場所にある。
この少女が関係者でもなければ、知っていることなど限られているだろう。
「気にしなくていいよ」
笹塚は優しい声でそう言った。
それにしても、彼の対応がやけに丁寧すぎる気がする。
知り合いではないのは確かだが、どこか見知っているような雰囲気があった。
あとで問いただすとしても……気になる。
「あの、お嬢に何か用ですか」
背後から低く落ち着いた声が飛んできた。
今日は妙に声をかけられる日だな、なんて呑気に振り向くと、そこには青年が立っていた。
「あっ、
さっきまで悲しそうな顔をしていた少女は、一転してぱっと表情を明るくし、青年のもとへ駆け寄った。
知り合い……だろうか?
日玖くんと呼ばれたその青年は、少し大きめの丸眼鏡をかけていて、レンズ越しの眼光は驚くほど鋭かった。
おまけに長身で、黒い中華っぽい服を身にまとい、雰囲気が恐ろしい。
その圧に思わず身をすくませていると、笹塚が一歩前に出て、間に割って入った。
「すみません。最近この辺りで殺人事件があったでしょう? その調査でお邪魔しています」
「そ! 探偵なんだって! 怪しい人たちじゃないよ!」
笹塚の説明に、少女が明るい調子で補足する。
その能天気さに呆れたのか、青年は少し困ったような顔をしたが、すぐに表情を引き締め、俺たちを見据えた。
「……そうですか」
と、ぶっきらぼうな声が返ってくる。
笹塚はしばらく黙ったまま青年を見つめていたが、やがて静かに息をつき、落ち着いた口調で問いかけた。
「その殺人事件のことなんですが……遺体の“小指”が切り取られていたんですよ。今から二週間ほど前、何か気になることはありませんでしたか?」
「その件なら、もう警察に話しました。あれのせいで疑われてるんでしょうけど……小指を切るなんて、今どきやりませんよ」
青年の声には、はっきりとした苛立ちがにじんでいた。
だが――遺体の“小指”が失われていたことと、この青年が疑われる理由に、どうにも腑に落ちないものがある。
俺がその違和感に思考を巡らせていると、笹塚がわざとらしく「いえいえ!」と手を振り、困ったような笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ。疑っているわけじゃありません。貴重なお話、ありがとうございました」
そう言って軽く会釈すると、踵を返して歩き出した。
俺も慌てて一礼し、笹塚の後を追う。
後ろでは少女と青年が何やら会話をしていたが、もう距離がありすぎて声は届かなかった。
「おい、笹塚。さっきの二人、知ってるのか?」
先ほどの場所から少し離れたところで、ようやく口を開く。
どうせ適当にかわされるかと思っていたが、笹塚はあっさりと答えた。
「あの二人は、楠組と昔やり合っていたヤクザ――
「はあ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げる。
先程の違和感の正体が、こうもあっさりと解決されたのだ。
しかし、あの二人がヤクザの跡取り……?
たしかに青年の眼光は鋭かったし、少し怖気づいたけれど、ヤクザってほどには見えなかった。
「ってことは、お前、あの二人がヤクザだったから、やけに丁寧だったのか?」
「ふぅ……まあ、そういうことだね」
笹塚は肩をすくめて、どこか芝居がかった口調で続ける。
「私は別に構わないが、キミがヤクザに睨まれて命を落とすのは嫌だからね。優しい私は、キミのために気を使ったってわけさ。感謝したまえ」
わざとらしく胸を張る笹塚に、苦笑が漏れた。
笹塚の言う通り、ヤクザに殺されるなんてゴメンだ。
色々引っかかるところはあるが、今回ばかりは素直に感謝しておこう。
「ま、とりあえず見るべきものは見れたし、続きはまた明日だな」
「……ああ、わかった」
こうして、短かったような、いや意外と長かったような――調査初日が終わった。
3
調査二日目。
「千歳クン、今からヴェラに行く。そこで待ちたまえ」
俺が事務所の扉をくぐった瞬間、笹塚がそう言い放った。
ヴェラ――喫茶ヴェラのことだ。
笹塚お気に入りの店で、事務所から歩いて五分ほどの距離にある。
アンティークな調度と落ち着いた照明が特徴の、昔ながらの喫茶店だ。
「
俺が聞くと、笹塚は頷いた。
「そうだよ。昨夜、電話を入れておいた」
この道二十年のベテラン刑事で、笹塚とは長いつき合いだ。
まだ笹塚が探偵になりたての頃、『警察官連続通り魔事件』の捜査中に命を救われて以来、交流がある。
長沼は笹塚を“先生”と呼び、同じ“マコト”という名前もあってか、妙に親近感を抱いている様子だった。
長沼が関わっている事件に限り、捜査状況を聞くときは、決まってヴェラで会うのが通例となっている。
俺も助手として何度か同席した経験があり、「ヴェラ」と聞くだけでピンとくるようになっていた。
「でもさ、長沼さんに聞くなら、昨日の調査はいらなかったんじゃないのか?」
少し冗談めかして口にしたが、本音も混じっていた。
無駄とは言わないが、俺たちが掴んだ程度の情報なら、警察のほうが早く押さえているに決まってる。
戸締まりをしていた笹塚が、少しぶっきらぼうな口調で返す。
「はあ……キミは愚かだね。長沼さんとの関係は、信頼と尊敬の上に成り立っているんだよ。自分の目で現場も見ず、最初から頼りきりの探偵を、彼がいつまでも“先生”と見てくれると思うかい?」
「そ、そうか……それもそうだな」
探偵という職業柄、警察とは基本的に反りが合わない。
敵視まではいかなくても、鬱陶しがられることのほうが多い。
だからこそ、笹塚と長沼の関係は異例だし、大切にしているのかもしれない。
……本心はどうだか知らないが。
戸締まりを終えた笹塚が、俺の立つ入口まで歩み寄ると、
「ほら、くだらないこと言ってないで行くよ」
そう言って、俺の腕をつかみ、事務所の外へと引っ張り出した。
*
ヴェラに着くと、笹塚は慣れた手つきで扉に手をかけた。
取り付けられた鈴が、くぐもった音を立てて揺れる。
湿った空気を背にして一歩踏み込むと、古いコーヒー豆と焦げたパンの匂いが鼻をついた。
笹塚は迷わずミルクティーを、俺はカフェオレを注文した。
ふたりで、いつもの窓際の席に腰を下ろす。
本当はケーキも頼みたいところだったが、仕事中だ。
ここは我慢しておく。
「長沼さん、まだ来てないんだな」
「……みたいだね。まあ、彼は忙しい人だから。のんびり待とう」
そう言いながら、笹塚は窓の外へ視線を向けた。
長沼のために向かいの席は空けてあるので、俺と笹塚は横並びで座っている。
何も知らない人間が見たら、少し滑稽な構図かもしれないが、幸いこの時間の店内は空いている。
ただ、黙って並んで座っていると、妙に落ち着かない。
その空気を打ち消すように、俺は昨日の現場で笹塚が口にした“違和感”について改めて聞いてみることにした。
「なあ、お前が昨日言ってた“違和感”って、何かわかったのか?」
「……ああ、そうだね。厳密に言えば違和感というより“引っかかり”だね。大したことじゃないかもしれないが、聞くかい?」
いかにも勿体ぶった口調。
俺の反応を楽しんでいるのが見え見えだ。
少し苛立ちながら口を開く。
「なんだよ。いつもは言いたい放題なくせに、肝心なときに限って渋るよな。さっさと話せ」
言い方が気に入らなかったのか、笹塚は横目で俺を睨み、大げさなため息をついた。
だが構わず、軽く肩を小突いて急かすと、ようやく重い口を開く。
「……気になったのは、遺体があった場所の近くに“青い塗料”の擦れた跡があったことだ。乾き具合からして、何日かは経ってるようだった」
「青い塗料? ペンキ……とかか?」
「多分そうだろうね。キミは周囲を見るのに夢中で気がつかなかったみたいだね?」
皮肉交じりの言い方に、言い返したくなったが無視することにした。
その態度に満足したのか、笹塚は小さく鼻を鳴らして話を続ける。
「そして、キミが気にしていた“違和感”についてだが……証言していたあの老婆、どうも“嘘”をついている可能性がある」
「嘘? なんでそんなことを?」
「理由はまだ分からない。ただ、話しているときにやたら瞬きが多くてね。しかも、左手の“小指”を何度も触っていた。あれは無意識の癖だろう」
……全く気づかなかった。
あれだけ近くで話していたのに、俺は話の内容を追うことに集中しすぎていたらしい。
なるほど、だから笹塚はあのとき、わざわざ問いかけてきたのか。
こいつの観察眼にはいつも舌を巻く。
「たしかに気になるな。もしかして、あの老婆が犯人だったりして」
冗談めかして言うと、笹塚は呆れたように肩を落とした。
「あのね……キミは思いついたことを何でも口に出す癖があるけど、少しは考えてから話してくれないか。馬鹿に見えるよ?」
「はあ? んだとコラ、お前だって考えが硬ぇんだよ。だいたい、そんな話なら昨日の時点で――」
「お待たせしました」
俺の怒りが盛り上がりかけたタイミングで、おさげ髪の店員が注文をテーブルに置いていった。
俺たちの小競り合いなど日常茶飯事と知っているのか、何も気にしていない様子だ。
気まずさもあって、それ以上言い合う気も失せる。
黙ってカフェオレに角砂糖を三つ入れる。
笹塚は何か言いたげだったが、短いため息をつき、再び窓の外へ視線をやった。
「お待たせして、すみません」
沈黙が続き、雑談でも振ろうかと考えていた矢先、長沼が現れた。
申し訳なさそうに頬を掻きながら、空いていた向かいの席に腰を下ろす。
注文を取りに来た店員にホットコーヒーを頼むと、ようやく俺たちに向き直った。
「ご無沙汰しております、先生。それに千歳さんも」
「お久しぶりですね。急に呼び出してしまって、すみません」
さっきまでの不機嫌はどこへやら、笹塚はやけに明るい口調だ。
普段は部下を容赦なく指導する“鉄の鬼刑事”と噂される長沼だが、笹塚には妙に腰が低い。
「いえいえ、お気になさらず。先生のご活躍は、署内でもよく話題になります。最近では、辻北の難事件も解決されたそうですね」
「ええ、なかなか面白い事件でしたよ。でも、それはまた今度にしましょう」
笹塚が軽く受け流すと、長沼は苦笑しながら言葉を継いだ。
「そうですね。しかし、本当に毎度惚れ惚れしますよ、先生の手際には」
「そういうのを解決するのが、私の役目ですから」
笹塚はあくまで淡々と答えるが、俺はつい口を挟んでしまう。
「……出たよ、“私の役目”。そうやってすぐ格好つける」
「千歳クン、それは事実だよ。格好良く聞こえたのなら、受け取り方の問題だね」
「あー、はいはい、そうですか」
つい口調が荒くなる。
先ほどまでの苛立ちを、まだ少し引きずっていた。
笹塚の冷ややかな視線が横から突き刺さり、内心で小さく舌を巻く。
――少し、大人気なかったか。
「……まったく、お二人は相変わらずですね」
長沼は呆れたように息をつきながらも、どこか楽しげに鞄を開けた。
中から取り出したのは、使い込まれた一冊の手帳。
几帳面な長沼らしく、ページの隅々までびっしりと書き込まれている。
数ページ捲ると、ピタリと手を止め話し始めた。
「辻西三丁目の遺体損壊・遺棄事件の件ですね。被害者は岡本裕司、三十歳。亘株式会社の辻西支社に勤務。一人暮らしで、住所は辻西区三丁目三の二。婚約者の彩里里来と、来年には辻東へ引っ越す予定だったようです。周囲の評判は、まあ……良くも悪くもというところ。いくつか、トラブルも抱えていたようですね」
「トラブル、ですか」
ずっと黙って話を聞いていた笹塚が、そこで口を開いた。
「ええ、まず一人目は、会社の先輩・
長沼は手帳を見つめながら、言葉を選ぶように続けた。
「そして三人目が、
話の途中、注文していたホットコーヒーが運ばれてきた。
長沼は一口すすると、再び落ち着いた声で話し始める。
「事件当夜の岡本の行動ですが……五月十二日、午後十時半に会社最寄り駅の防犯カメラに映っています。そして午後十一時二十八分、マンションに帰宅する姿が確認されています。特に不審な点はありません。それ以降、マンションから出た記録はなく、監視カメラにも映っていません」
長沼は手帳から数枚の写真を取り出し、テーブルの上に並べた。
事件の現場写真だ。
「翌朝、七時十五分。散歩中の住民により、遺体が発見されました。死亡推定時刻は、午後十一時二十八分から翌朝七時の間と見られています」
写真をのぞき込むと、遺体の奇妙な姿勢が目に飛び込んできた。
身体はL字型に曲がり、膝は不自然に折れ曲がっている。
顔面は地面に押し付けられ、腕は足元に投げ出されている。
まるで三角形のようなシルエットだ。
「死因は、鈍器による後頭部の打撲の後、背中を複数箇所刺されたことによる失血死。肺まで達するほどの深い傷でした。被害者には抵抗した痕跡はなく、背を向けた隙に殺害されています」
「なるほど。それで……“小指”は、いつ切り取られたんです?」
笹塚の問いに、長沼はわずかに表情を曇らせる。
「死後に切断された可能性が高いです。“左手”の小指が第二関節から切り取られていました」
「左手の小指、ですか……」
笹塚の視線が宙を彷徨う。
先程言っていた、老婆の無意識の癖を思い出しているのだろう。
「これは、まだ警察内部でしか共有されていない情報ですが、小指の行方と凶器の両方が未だ見つかっていません。殺害現場と思われる岡本の部屋には血痕が残っていましたが、不自然なほど丁寧に掃除されていて……。捜査は難航しています」
長沼の表情に、焦りの色が浮かぶ。
事件発生からすでに二週間が経っている。
焦るのも無理はない。
「怪しい人物は、先ほどの三人で間違いないですか?」
笹塚が、遺体写真をじっと見つめながら問いかける。
「はい。すでに事情聴取は済ませています。犬山は犯行時刻に友人と通話していたそうですが、四十分ほど風呂で離席していたとのこと。谷口は恋人が家に来ていて、二十三時には一緒に就寝したと言っています。ただし、どちらもアリバイの確証は薄いですね。そして真宮は、一人で自宅にいたと話しています。証明してくれる人物はなし。三人とも決定的な証拠には欠けています」
「ふむ……。でも、防犯カメラには映っていないんですよね?」
「ええ。岡本のマンションには出入りの記録がなく、真宮や犬山の自宅アパートも裏口にはカメラがありません。変装して侵入した可能性も、否定はできませんが」
事件は想像以上に複雑だ。
自分なりに考えてはみるが、犯人の見当もつかない。
つい先ほど、思いつきで口を挟んで笹塚と揉めたばかりなので、俺は大人しく二人の会話に耳を傾けることにした。
「……話は変わりますが、遺体の遺棄について。近所のご老人が何か証言していませんでしたか?」
笹塚の問いに、長沼は「ああ、はい」と短く頷いた。
「深夜、車の音を聞いたという証言があります。警察でも、遺体は車で運ばれた可能性が高いと見ています。先生、昨日現場に行かれたそうですが、そのときに何か?」
「ええ、同じ話を伺いました」
“違和感”については口にしない。
まだ確証があるわけでもないし、軽々しく話して長沼の信頼を損ねるようなことは避けたいのだろう。
「そうですか。そして、この証言をもとに調べたところ、三人とも自家用車を所有していました。遺体を運んだ形跡がないかも確認しましたが、いずれの車からもそれらしい痕跡は見つかりませんでした」
「なるほど。つまり、現時点では確たる証拠は何もない……ということですね」
笹塚はぽつりと呟き、すっかり冷めたミルクティーに口をつけた。
ひと息つくと、視線を長沼の方へと向け直す。
「……よろしければ、三人の親族に“
「乃木、ですか……。先生が言うなら、事件に関係があるんですね」
そう言って長沼は、手帳にメモを取る。
「分かりました。調べておきます」
「ありがとうございます」
笹塚は丁寧に頭を下げた。
「事件の概要は、以上でよろしいでしょうか? 他に気になる点はありますか?」
「そうですね……」と笹塚は一瞬考え込むように沈黙し、やがて静かに答えた。
「いいえ、今のところは十分です」
「分かりました。来たばかりで申し訳ありませんが、私はこれで。何かあれば、またご連絡ください」
長沼は写真と手帳を鞄にしまい、立ち上がった。
そして軽く頭を下げながら言った。
「それでは、失礼します」
そう言い残し、彼は喫茶店をあとにした。
その背中を見送りながら、俺はカフェオレを飲み干し、笹塚に尋ねた。
「なあ、あの“乃木”って名前……やっぱり、あの老婆のことか?」
笹塚が、老婆が帰っていった住居を見つめていたのを思い出す。
おそらくその際に表札を見たのだろう。
「そうだよ。調べておくに越したことはないだろ?」
そう言ってひと息つくと、笹塚は立ち上がりながら言った。
「さてと、これからまた現場に行くよ。ほら、立って」
「いだっ! 引っ張るなバカ! ……って、昨日の今日でまた行くのか?」
「善は急げだよ。引っかかりを調査しない探偵なんて居ないだろう」
鼻で笑いながら、笹塚はさっさとレジへ向かう。
先ほどの言い合いの仕返しだろう。
痛む左腕をさすりながら、俺はしぶしぶその後を追った。
*
俺たちは再び、昨日の路地へ足を踏み入れていた。
偽証疑惑のある老婆に出会い、ヤクザに絡まれ……と、ろくでもない記憶ばかりが蘇る。
いや、そもそもここは遺体遺棄現場なのだ。
散々どころではない。
例の現場を通りかかると、笹塚は老婆の家をじっと見つめていた。
しかし、彼女が姿を現すことはなかった。
出てきたところで「証言は真実ですか?」などと問いただせるはずもない。
そもそも、確たる証拠があるわけでもないのだ。
いずれ長沼から連絡があれば、疑惑の答えも見えてくるだろう。
そんなことを考えていた矢先、不意に笹塚が立ち止まった。
すっとしゃがみ込むと、昨日と同じように地面とにらめっこを始める。
「どうしたんだ?」
考えごとをしながら歩いていたせいで距離が空いていたため、今日はぶつかることはなかった。
「……今朝キミに話した“青い塗料の跡”のことを覚えているかい?」
「ああ、覚えてるよ。なんだ? 消えたりでもしたのか?」
地面をさらりと撫でながら、笹塚はため息まじりに答えた。
「キミにしては勘がいいじゃないか。そうなんだよ、跡がなくなっている。だが代わりに、車輪の跡が残っているんだ」
「車輪の跡?」
俺もしゃがみ込み、地面を覗き込む。
確かに、黒く細い線が数メートル続いていた。
触れてみると泥が乾いてカサついている。
「昨日の時点では簡単に落ちるものじゃなかった。わざわざ拭き取りに来たんだろうね」
「まあ、そうだろうな。でも、この車輪の跡は?」
俺の問いに、笹塚は立ち上がり、しばし跡の先を見つめる。
「自動車ではないね。昨日の雨のあとについたようだ。自転車か、あるいは台車の跡だろう」
「自転車か台車? でも拭き取った人物と関係あるのかは分からないだろ。ただの通りすがりかもしれない」
「その可能性もある。ただ、そもそもここは人通りが少ない。どこまで続いているか、確認しておくに越したことはないさ」
そう言って跡を追い始める笹塚。
慌てて立ち上がり、その後を追う。
数メートル先、路地がT字に分かれる地点で笹塚は立ち止まり、振り返った。
「ここで途切れているね」
指差す先を見ると、確かに跡は途切れていた。
カーブを曲がるようにして、跡は消えている。
「そうみたいだな。このまま続いていたら、跡の主まで辿り着けそうなのにな」
「そう簡単にはいかないさ。まあ、跡があっただけでも収穫だよ」
期待などしていなかったかのように、つまらなさそうな声で言い放つ笹塚。
収穫だよと言っておきながら、それ以上深くは触れず、そのまま歩き出した。
「おい、次はどこへ行くんだ?」
「決まってるだろう? 被害者の自宅さ。遺体が運ばれてきた以上、生活圏から切り離して考えるのは早計だよ」
「自宅って……辻西のマンションか?」
「そう。幸い、依頼人から鍵も預かっているしね」
思わず足を止める。
「……いつの間に」
「契約書と一緒に、だよ。またしてもキミは気付かなかったようだね?」
笹塚は肩を竦め、からかうように笑った。
――まただ。
こいつはいつも当然のように、一歩も二歩も先を読んでいる。
わざとか天然かは知らないが、置いていかれる身としてはたまったものじゃない。
結局押し切られる形で、俺たちはマンションへ向かうことになった。
*
被害者のマンションは、外観こそ新しく洒落て見えたが、どこか空気が重かった。
灰色の外壁は曇天に溶け込み、住人の気配は薄い。
玄関脇の植木鉢は乾ききり、管理が行き届いているとは言い難い。
笹塚は迷いなくエントランスの鍵を開け、エレベーターへと進んだ。
俺も黙って同乗したが、途中で耐えきれず問いかける。
「なあ……もし、部屋に何もなかったらどうするつもりなんだ?」
「何もないことは、ないさ」
断言する声に、背筋が冷たくなった。
やがて静かな廊下に辿り着く。
笹塚が鍵を差し込み、ドアを開けると、まだ人の生活の気配が濃く残っていた。
食器棚に並ぶ皿、壁際の本棚、テーブルの上には未開封の結婚情報誌。
依頼人が言っていた「新居探しの途中」という話は、確かに本当らしい。
どこもかしこもきっちりと閉め切られていて、家主がもうここにはいないことを静かに物語っていた。
だが笹塚は、そんな背景など一顧だにせず、玄関から真っすぐ奥のベランダへと向かう。
まるで最初から目星をつけていたかのように。
「ちょっと待て。なんでいきなりベランダなんだよ」
「決まっているだろう。遺体を運ぶには“道具”が要る。大きなバッグか、あるいは――」
ガラリ、と扉を勢いよく開けた瞬間、笹塚がしゃがみ込んだ。
埃っぽい床に、重そうな台車が転がっている。
金属の縁には、まだ鮮やかな青い塗料がこびりついていた。
思わず息を呑む。
「……これって」
「そう。遺体を運ぶのに使われた“証拠”だ」
笹塚は塗料を指先でつまみ取り、淡く笑う。
「決まりだな。犯人は――被害者のすぐ隣に住む人物だ」
「隣に……?」
「そう、
その名を告げる声音は、静かに、しかし揺るぎなく響いた。
“乃木三葉”。
初めて聞く名に、俺は戸惑った。
“乃木”――あの老婆と同じ姓だ。
だが、いつ笹塚はその情報を知ったのか。
疑問が一気に押し寄せ、思考が追いつかない。
ぽかんとしている俺を見て、笹塚が笑った。
「随分な間抜け面だね? 驚いたかい?」
邪悪な笑みを浮かべながら、そう言い放つ笹塚。
思えば、今回の事件でこいつの行動は最初からどこかおかしかった。
常に一歩先を行き、まるで全てを見通しているかのように――不自然なほど用意周到だった。
そして、俺はようやく一つの答えに行き着く。
「お前、最初からこの事件の犯人を知っていたのか?」
待ってましたと言わんばかりに、笹塚は自信満々に口を開いた。
「ああ、そうだよ」
「なっ……それは、つまり、依頼を受ける前から知っていたとでも言うのか?」
「アハハ、信じられないといった顔だね。その通り。私はこの事件が報道された時から興味があったんだ。そこからは単独で調べていたというわけだよ」
あまりにも当然のように言うその口調に、頭がクラクラする。
笹塚が自ら事件に興味を持つなど、滅多にないことだ。
依頼人が訪ねてきた時のあの驚きよう――あれは、演技ではなかったはずだ。
だとすれば、どうやってこの依頼を得たのか。
「単独で調べていた……って言っても、依頼がなければ勝手に調べても意味ないだろ? あの依頼人はどうしたんだよ、仕込みなのか?」
驚愕に慄きながらも、冷静に問い詰める自分に少し感心すら覚える。
笹塚はニンマリと、実に嬉しそうな笑みを浮かべた。
「それに関しては、“賭け”に出たんだよ。私の探偵としての運と、キミの“事件を呼び込む体質”にね」
「は、はあ? 賭け!? そんな不確かなものにお前が頼ったってのか!?」
俺の今日一番の驚きに、笹塚は心底楽しそうに笑った。
「そう、私は賭けに勝ったんだよ、千歳クン。――まあ、そんなことより、キミはこの事件の真相を知りたくないかい?」
「えっ、まあ、知りたいけども……。お前それも分かってるのかよ」
「ああ、もちろんだとも。私を誰だと思っているんだい? 調べ始めて二、三日もしないうちに分かったよ。にしても、こんな簡単なことも分からないなんて、まだまだ未熟者だね、キミは」
「お前は余計なこと言わねえと気が済まないのかよ……。いいから、早く話してくれ」
今まで俺なりに考えてきたことが、全て無駄だったような気がして、もはやどうでもよくなっていた。
とにかく、早く真相を聞き出したかった。
これ以上質問しても、どうせまたバカにされるだけだ。
笹塚は、わずかに不満そうな顔を見せたあと、淡々と語り始めた。
「被害者が殺害されたのは、帰宅後しばらくしてのことだ。隣人――乃木三葉は、何かしらの用事で被害者の部屋を訪れ、その後に被害者を殺害。“左手の小指”を切り取って、台車であの場所まで運んだというわけさ」
「おい、待て。あまりにもサラッとしすぎていないか。犯人の動機は? それに、現場にあったはずのあの塗料はどうしたんだよ?」
「キミは質問ばかりだね。少しは考えてほしいものだよ。――まず、あの塗料だけれど、乃木三葉は画家なんだ。このマンションの近くにアトリエがあって、絵や画材を台車で運搬している。これは、一人で聞き取りを行った時に住人から聞いたから間違いないよ。そして、今日訪れた時に塗料が消えていたのは、老婆――乃木の祖母か乃木自身が拭き取ったんだろう。私たちが現場を調べていたとき、あの老婆は一部始終を眺めていたしね」
一気に話すと、彼はふうっとため息をついた。
そのとき、何故か左側の襖をちらりと見た気がしたが――気のせいかもしれない。
すぐにこちらへ向き直ると、さらに続けた。
「で、動機だね。――これが、この事件に私が興味を持った“理由”だよ。私はそれを知りたいんだ」
「……は? お前、動機は分かっていないのか?」
「随分と心外な言い方をするね。これに関しては分からない。彼女が被害者の幼馴染だということは分かっているが、目立った接触はない。何より被害者は、周りがうんざりするほど婚約者の話ばかりしていたらしい。浮気をするような人物でもないんだがね」
「じゃあ、どうするんだよ。その台車が証拠にはなるだろうけど、ここまで来てその推理披露で終わりか?」
「そんなわけないだろう。聞けばいいんだよ、本人にね」
「は? そんなものどうやって――」
笹塚はビシリと、先ほど視線を向けていた襖を指さした。
「そこに居るのは分かっているよ、乃木三葉さん。出てきたまえ」
その言葉を合図に、襖がスッと開かれる。
――そこには、黒髪の女が、青ざめた顔で立っていた。
4
「どうして……私がここにいるって分かったんですか」
襖の陰から現れた黒髪の女――乃木三葉は、静かにそう問いかけた。
両腕には、瓶のようなものを大事そうに抱えている。
不意の出現に、思考が止まる。
俺はただ、その光景を見つめるしかなかった。
ちらりと隣を見ると、笹塚の口元が、楽しげにわずかに吊り上がっていた。
「そろそろ証拠隠滅に動き出す頃合いかと思いましてね。ベランダの鍵くらいは、きっちりかけておかないと。隠れているのがバレてしまいますよ」
その一言で、ハッとした。
そういえば、他の部屋の鍵はすべて閉まっていたのに、ベランダの扉だけは開いていたのだ。
「……なるほど。私も詰めが甘いのね」
「貴方も聞いていたでしょう。先ほどの話を。――犯人は貴方です、乃木三葉さん。ご希望なら、犯行の一部始終を丁寧に説明して差し上げましょうか?」
笹塚は淡々と、だがどこか愉しむように言った。
獲物を追い詰める捕食者のような口調だった。
彼が推理を披露するのは珍しい。
これまで幾度も事件を共にしてきたが、彼はいつも結果だけを静かに告げるタイプだ。
――余程、この事件が気に入っているらしい。
その証拠に、彼の口元はずっと微かに笑っている。
「いいえ、結構です。その通りです、探偵さん。私が岡本裕司を殺しました」
乃木三葉の声は、静かで、どこか壊れたようだった。
その瞳からは光が消えている。
彼女はずっと部屋の隅を見つめたまま、微動だにしない。
犯人に同情する気はないが――それでも、その姿には胸がざらつく。
「ずいぶんあっさりと認めましたね。それで? 動機は? ――何故、彼の“小指”を切り取ったのですか。本来、そんな必要はないはずですが」
「あの人が約束を破ったからですよ。……許せなかったんです。私以外と結婚を約束する、あの“小指”が」
そう言って、彼女は瓶を抱きしめるように強く握りしめた。
その仕草が、まるで恋人を抱くように見えて――背筋が凍る。
その瓶の中に、何が入っているのか。
想像しただけで、胃の奥が冷たくなる。
「しかし、貴方は被害者のただの幼馴染では? 私が聞いた限り、彼の交友関係に貴方の名前は一度も出てこなかった」
「うるさい!」
怒号が響く。
その声には、長年の執着と絶望が混じっていた。
「私たちは結婚を約束したんです! なのに、それなのに……くだらないことだなんて! おまけに私に似てる婚約者まで……!永遠に約束なんて、させない……させないから……!」
叫び終えると同時に、彼女は膝から崩れ落ちた。
腕の中の瓶が転がり、床に当たって鈍い音を立てる。
ガラスが鈍く鳴り、部屋の空気が凍りついた。
そして、中身は――案の定だった。
瓶の中には、被害者の“左手の小指”が沈んでいた。
*
「なあ、本当に運なんて不確かなものに頼ったのかよ? やっぱり、依頼人もあの犯人も仕込みじゃないだろうな?」
事件解決から三日後。
日常は戻りつつあるが、どうにも腑に落ちない部分が俺の中に残っていた。
笹塚が“賭けに出た”あの瞬間。
なぜ、あの男がそんな真似をしたのか――それがずっと引っかかっていた。
そもそも笹塚は、不確かなものを何より嫌う人間だ。
そんな男が“運”に頼るなんて、おかしい。
いくら興味があったとしても、あんなピンポイントな依頼が舞い込むなんて、出来すぎている。
しかも、絶好のタイミングで被害者のマンションを訪れ、たまたま犯人の潜む場所を見抜いた――?
無理があるにもほどがある。
当の本人はというと、あれほど熱心だった事件を、動機が気に入らなかったのか、あっさり片付けてしまった。
書類整理の手を止め、笹塚は俺をちらりと見て、深いため息をついた。
「キミもしつこいね。そもそもあの二人が仕込みだったら、私が犯人じゃないか」
「お前なら退屈がてら殺人ぐらいやりそうだけどな」
「心外だな。そんなくだらないことをするわけないだろう。――あのね、千歳クン。私は名探偵には“運を手繰り寄せる力”も必要だと思っているんだよ」
「はあ?」
「まあ、キミのハチドリほどの脳みそでは分からないか。いいかい、どんなに能力があっても、発揮できなければ意味がない。目立たない名探偵より、目立つ探偵だ。私は運と能力、どちらも兼ね備えているがね」
やれやれと、当たり前のことを教えるような口ぶり。
いちいち嫌味を挟まないと気が済まないらしい。
ツッコミたいが、面倒なので「はいはい」と流しておく。
しかし、思い返してみれば、こいつはどこにいても目立つ。
見た目の派手さもあるが、それ以上に“わざと”目立とうとしている節がある。
「どこからそこまでの自信が湧いてくるんだか。あれが仕込みでないにしろ、お前は動機までは分からなかったわけだし」
「アハハ、あんなの分かるわけないだろう。いざ聞いてみればくだらなかったが、実際そんなもんだからね。……ま、今回は私の探偵としての“運”を確かめられたのと、依頼料でヨシとしておくよ」
「……お前はもう少し、人の気持ちってもんを考えられるようになった方がいいよ」
あれを“くだらない”と笑えるこいつは、やはりどこか人間味に欠けている。
あの動機には、少なくとも本人なりの激情があったはずだ。
俺の胸中を見透かしたように、笹塚がハハッと乾いた笑いを漏らす。
「私ほど心優しい人間はいないと思うけどなあ。ところで、千歳クン」
お前のどこが優しいんだよ――そう言いかけた瞬間、笹塚が貼りつけたような笑みを浮かべて俺を見た。
「な、なんだよ、急に」
「貸した本、返却してなかったね。約束を守れない千歳クンの“小指”は切り落としてしまおうか」
ヒッ――と思わず左手の小指を握る。
冗談とはいえ、こいつは言葉通りのことをやりかねない。
……そういえば、あの本を借りたのは二週間前。
“いい本が手に入ったんだ”――そう言って貸してきた、あの日。
そして、事件が起きたのも、ちょうど二週間前。
「まさか、お前……」
言いかけた俺の言葉に、笹塚が薄く笑った。
「それに“運”ってのはね、千歳クン。
使い方次第で“必然”にもなるんだよ」
ぞくりと背筋が冷える。
冗談めかして言っているのか、本気なのか。
こいつの笑いはどちらにも見える。
……こいつの“運”は信じられない。
というか、信じたくない。
でも、次の事件でも、きっとまたその“運”に振り回されるんだろうな。
そう思うと、少しだけ背筋が冷えたまま、俺はため息をついた。
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