第10話 ココ

 一人食堂に残されたココは、何をしようか考えていた。

 周りでは、給仕係がカチャカチャと忙しく後片付けをしている。

 食事を終えて頬杖をつきながら、レモンのスライス入りの水が入ったグラスを見つめていた。水滴がグラスの表面をつたって流れ落ちた。

 ココがテーブルの上に置いた右手の人差し指を、くるくると動かすと、どこからか漆黒の羽のアゲハ蝶がヒラヒラと舞ってきた。

「あら、どこから入って来たのかしら?」

 給仕係の女の人が食器を片付けながら、ココの右手の周りを舞う蝶を見て呟いた。

はっとしてココが、

「あそこの窓からじゃない?」

左の人差し指で空いている窓を指差した。

「その蝶は、ココ様がお好きなんですね。お外に出てってくれるかしら」

と微笑み、食器を持って出て行った。

 ココは、立ち上がり、さっき自分が指差した窓辺へ近寄った。眼下には、飾り付けが終わった正面広場が見渡せる。

 蝶は相変わらず、ココの周りをヒラリヒラリと飛んでいた。ココが右手を持ち上げ、窓の外に軽く降ると、蝶が窓の外に飛んでいった。

 結局、何をするか決まらず寝室に戻ってきた。ココは、ブーツを脱いでベッドに寝転んだ。

 兄たちには、自分の好きなことや夢中になれることがあって羨ましかった。もちろんココも、釣りも読書も剣術や舞の稽古も好きだった。兄たちのやることは、どれもやってみたかった。そのどれもそつなくこなせる。けれど、どれもこれと言って一番夢中になれるものはなかった。自分にも何か夢中になれるものがあるのだろうか。

 誕生祭まで、まだ時間があった。

 そう思い目を閉じると、いつの間にか眠りに落ちていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る