第23話 襲撃



『―――― 通信、転移妨害電波起動。予定通り、問題なし』

「了解。作戦を開始する」

『武運を祈る』


 バルバドス宇宙海賊団本船。地球に設置したアンカーへの転送部屋。そこにドバス、シェリルと部下たちが集まっていた。

 情報部が作戦第一段階の実行を告げる。

 武運を祈る、と情報部の長はよく言う。そういえば彼は海賊団に所属する前はどこぞの国防軍所属だったか。本当に、この海賊団はいろいろな経歴の持ち主がいる。


「行くぜ野郎ども!」


 ドバスの号令に部下たちが思い思いの声をあげる。転送装置を起動。ふわりと体の浮く感覚。

 転送先はレンジャー部隊、東京の本部ビル前。

 突如現れた海賊団に、通行人たちが驚き立ち止まる。それを尻目に、正面エントランスから全員で堂々と建物内へ入っていく。


「抵抗しなけりゃ何もしねぇ。大人しくしとけ」


 コンコースにドバスの声が響き渡る。駆けつけた警備員を部下がおさえつけ、その間にセキュリティゲートを飛び越える。

 応援を呼ぼうと無線に怒鳴っている者がいたが、こちらの予定通りどこにも通じてはいないようだ。


 ドバス、シェリルの両班が目指すのはレンジャー部隊の司令部。そこまでのルートは把握済み。念の為二手に別れて行動。エレベータは使用せず、階段でのぼっていく。通りかかった事務員が驚いて固まっている。

 途中のセキュリティゲートはことごとく無視。ドアなど吹き飛ばして進む。


「止まれ!!」


 通路の奥、叫ぶ声。こちらに向かって銃を構える男。

 発砲。ここでやっと開戦だ。正直遅すぎる。治安部隊を名乗っておきながら、危機感はどうなっているのか。

 シェリルの横を部下の戦闘員が追い越して行く。銃弾をかいくぐり制圧。


 シェリルたち幹部やその直下の部隊長は別として、バルバドス宇宙海賊団の戦闘員は、皆同じデザインのシャツを着用している。乱戦になった時、味方が一目でわかるようにだ。

 鮮やかなオレンジ色の防護・強化服が指示を出すまでもなく廊下の先に向かって駆けてゆく。


 曲がり角。オレンジの服が曲がった瞬間に被弾し飛び退いた。すかさずこちらも数人が角から腕を伸ばして銃で反撃する。


「防火扉、閉まります!」

「進行方向だけでいい」

「了解!」


 廊下に設置されている防火扉が降りてくる。前方、そして後方も。閉じ込めるつもりだろう。

 シェリルは部下に短く指示を出す。魔神型の巨体が廊下を一気に駆け抜けて、閉まりかけたシャッターを破壊した。


 シェリルの部隊は主に機動力に重きを置いている。実際の戦闘時における破壊力はドバス班よりは低いが、小回りがきいて素早く動ける者を多く起用している。その中に、少しのパワー系を混ぜておく。こういう時のためだ。


 破壊された防火扉の残骸を飛び越える。怯んだ敵を制圧。

 その先に、目当ての部屋がある。


「突入から三分。予定通り」

「シェリルからザバシュ。今から突入する」

『――オッケ〜! こっちもいくよ〜!』


 ザバシュへ短い通信を送って、部下に合図する。

 大きな音とともに扉が蹴破られる。戦闘員と部隊長たちが部屋になだれ込んでいく。その後に続き、シェリルはゆったりと扉をくぐった。


「御機嫌よう、駒犬ども」

「お前は……!」


 その部屋、広いフロアの半分以上をぶち抜いた司令本部。そこをシェリルは見渡した。ドバスたちはまだ来ていない。

 壁にかかる無数のモニター、その前を陣取る司令部員たちは全員がこちらに注目している。そこの一つに映る、武器技術の別棟へと侵入していくザバシュたちには誰も気づいていない。


 中央の円卓に座っていた若者たちが立ち上がる。いつものカラフルな強化スーツはまだ着用してないが、あれがヒーロー部隊の赤、青、黄色、ピンクで間違いないだろう。それから、隼斗。


 ヒーロー部隊、そして司令部の者たちを一箇所に集めておく。そしてシェリルたちがエントランス突入からここにたどり着くまで、それら全員を足止めしておくこと。それが今回、隼斗に課せられた仕事だった。

 結果、予定通り。いや、


「何をしに来た!」

「私たちは海賊。奪うために決まっているでしょう」


 シェリルや多数の戦闘員に囲まれ、気を取られている彼らは気づいていないらしい。円卓の上に置かれた五色の強化スーツの変身装置、それを隼斗がすべて手に取った。

 

「―――― ねぇ、ハヤト?」


 カツン、踏み出した隼斗の靴音がやけに響いた。レンジャー部隊の驚いた顔には目もくれず、ただシェリルだけを見つめている。

 生命線ともいえる変身装置をどうやってテーブルの上に置かせたのかは知らないが、まさかそんなに簡単に彼らを無力化するとは。

 予定通りなんかではない。その遥か上をいく成果。

 その手土産をシェリルへと渡す。


「上々よ。よくやったわ」


 そうして反対側の手を取って、恭しくキスを落とした。

 思わず見惚れてしまいそうになるほどの完璧な仕草で、組織への裏切りを示した隼斗には後でご褒美をあげなくては。


「隼斗ッ! お前、裏切ったのか!!」

「ああ。悪いな」

「い、いつからですか……」

「さて、いつからだったかな。でもイエロー光輝は気づいてただろ?」

「そんなの、本気で言ってたわけじゃ……っ!」


 隼斗は組織のロゴが入ったブルゾンをバサリと脱ぎ捨てた。その下から出てくるオレンジ色のシャツ。バルバドス海賊団の色。


「お、なんだ。まだ始めてねぇのかよ」

「ドバス」


 そこへ、ドバス班が合流した。倍増した人数に、レンジャー組織の顔色が悪くなる。さっきからこっそりと外部と連絡をとろうと試みている者もいるようだが、無駄な努力だ。

 これ以上は可哀想なので、さっさと終わらせるとしようか。


「お前らには借りを返さねぇとな!」


 ドバスの大声に、部隊長や戦闘員が武器を抜く。全員の闘気で部屋の空気が揺らめいた。

 

「この私にすべてを奪われること、光栄に思いなさい」


 シェリルも、そして隼斗も剣を抜いた。






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