第4話 マスゴミの善悪
「これじゃあ、中を見られたくない」
という目的しかないと思えるほどである。
ただ、最初からスモークを貼っているのだから、
「放置というのは、まるで最初から考えていた確信犯ということではないか?」
ということになり、逆に、
「長谷川巡査が、三日経ってのこの判断は、適切だった」
ということになるだろう。
「山下刑事、何か不審な点でも?」
と長谷川巡査が聴くと、
「うん、やはり、フロンドガラスに貼られたこのスモークだろうね」
ということであった、
「だけど、これを中を見えなくするという目的だったと考えると、おかしいんだよ。ここに放置しておけば、誰かが不審に思うとは感じなかっただろうかね? 少なくとも、この土地の所有者である神社の方は、おかしいと思わないんだろうか? それとも、ここは、そんなにしょっちゅう、神社に関係のない人が、何日も止めておく場所なのかな?」
というのだった。
「いえいえ、そんなことはありません。まあ、一晩くらいであれば、近くに駐車場がないということを考慮し、駐車違反というわけでもないので、よほど、他の車や人の通行の邪魔にならない限りは、容認してきたんですが、さすがに、三日が経過していれば、検挙しないわけにはいかないということで、通用した次第です」
と、長谷川巡査は言った。
長谷川巡査も、スモークがフロントガラスに貼られているのを見て。
「これはおかしい」
とは感じていた。
ただ、普通にはがしてしまえばいいわけで、それだけのストックくらいは持っていたのかも知れない。
「実際に、フロントガラス用のスモークなど、販売されているのだろうか?」
ということが疑問であったが、敢えて考えようとはしなかった。
あくまでも、
「需要が少ない」
ということで、
「客がオーダーすれば、特注で作ってくれるのかも知れない」
と感じたのだ。
それも、普通に考えれば、
「ありではないか?」
と思い、あまり考えないようにしたのだ。
刑事であれば、
「だんだんと疑問が出てきた中で、一つ一つ潰していくのが仕事であろう」
ということであるが、警官であれば、
「そこまで考えることはなく、逆に、刑事の判断の邪魔にならないように、それでいて、補助的な立場になればそれでいい」
ということになるだろう。
長谷川巡査は、
「それが自分の立場であり、そのように立ち回ればいいんだ」
と考えていたのであった。
ただ、ここで鑑識を呼ぶということには、重大な意味があると、長谷川巡査は感じた。
「何も疑問点があったとしても、それは、レッカー移動させて、警察に持ち帰ってすればいいことではないか?」
と思ったからだ。
それをわざわざ移動させずにここでやるということは、
「何か、ここではないといけない」
という理由なのか、それとも、
「移動させてはいけない」
と考えたからなのだろうが。
長谷川巡査はそれを訊ねると、
「どっちもだといっていいだろうね」
と答え、そして、山下刑事はおもむろに右手の人差し指を足元に向かって刺したのであった。
その先に見えるのは、何か黒いものが、まるで、ウイルスの方に、水滴が床で弾んでいるかのような黒い痕が、そのアスファルトのところに落ちているのが見えたことだった。
「なんだこれは?」
と、長谷川巡査も不審には思ったが、次の瞬間、
「これってまさか……、血痕?」
と呟いて、つぶやいた自分がまるで他人事のように感じるという、一種異様な感覚に陥っていた。
山下刑事は、おもむろに頷いたのだが、その目線は、今までの落ち着いた視線というよりも、その血痕と思しき痕を凝視していて、視線をしばらく離すことがないように思われた。
実際に長く感じられたが、それは、この異常な雰囲気の中で、尋常ではない時間経過というものを、長谷川巡査が感じていたからではないだろうか。
それを感じている長谷川巡査は、急に足がしびれたかのようになり、身体が一気に重たくなるのを感じていたのだった。
「これでは、山下巡査が、鑑識をここで呼ぶと言い出したのは、十分に納得できる。山下刑事というのは、なかなかの切れ者なんだろうな」
と思ったのだ。
最初は、
「人懐っこそうだけど、実際に事件性を帯びてくるということを感じると、その表情は一編する。しかも、それは、まわりを不安にさせるものではなく、逆に自分に引き込むくらいの迫力に圧倒されることで、まわりは逆に、少なくとも不安というものを感じさせられるということはない」
と思うようになってきた。
それが、
「山下刑事という人間だ」
と思うと、
「前に当たったあいつに比べて、全然違う」
と思うのだった。
そんなことを考えていると、鑑識がやってきた。
「数名の県警の腕章をつけ、肩から、魚釣りに使うクーラーボックスくらいの大きさで、ジュラルミンケースを抱えている連中で、いわゆる刑事ドラマでおなじみの恰好といってもいいだろう」
鑑識が出てきたことで、それから少し遅れてではあったが、刑事が二人やってきた。
長谷川巡査には、その二人に見覚えがあった。
「桜井警部補と、清水刑事ではないか?」
と思ったのだ。
桜井警部補は、長谷川巡査に一瞥もくれなかったが、それは以前、事件現場で出会った時も同じことであり、
「桜井警部補は、いつもこんな感じだ」
ということが分かっていて、
「だけど、本当は気遣いのできる、理想の上司だ」
ということは周知のことであった。
その分、相棒である清水刑事は、本当に人懐っこく、
「やあ、ご苦労様」
といって、肩をポンと叩いてくれる。
これまでに数回一緒になったことがあったが、最初からそうだったので、長谷川巡査が、拍子抜けしたほどだった。
「山下君、これはどういうことなんだい?」
と桜井警部補に聴かれた山下刑事は、
「はい、ご覧の通りの不審な駐車車両なんですが、不思議なことがいくつかありましたので、気になって捜査をしてみたいと思ったんです。わざわざ出張ってもらって申し訳ないと思いますが、お立合いのほど、よろしくお願いします」
と、若干緊張した面持ちで、桜井警部補にお願いしているのであった。
桜井警部補は、相変わらずのポーカーフェイスで、
「まだ、事件性があるとはいえない」
というこの段階で、
「最初から感情を表に出すことをしない桜井警部補らしい」
というべきであろう。
「山下君は、これを事件性があると感じたんだね?」
と聞かれたので、軽くうなずいた山下刑事であった。
鑑識が、車をこじ開けるようにして中を開けた。
この車は、高級車には違いないが、
「時代遅れ」
といってもいいほどの車で、鍵がなくとも、こじ開けることが普通にできる車だった。
「何かを隠す」
ということであれば、
「もっと確実な車を使うんじゃないかな?」
と山下刑事は思った。
そもそも、こんなところに車を放置しておくような中途半端なこと自体からして、実に不自然なことだといえるのではないだろうか?
そして、山下刑事が、肝心な足元の血痕らしきものを指さした。
それを見て、桜井警部補は立ち上がり、自分でも、
「なるほど、鑑識や刑事課を動かそうと思った気持ちになったのは、これが原因ということになるだろうな」
ということであった。
まずは、車のキーの部分を壊し、何とか中を開けたが、運転席も助手席も、さらには、後部座席にも、不審なものは見つからなかった。
血糊のように見えるその痕が付着しているのは、運転席からであった。ハッキリと見えるのは一つだけであったが、中止てみれば、あと三つくらい見つかったのだ。
そして。色は完全に真っ黒になっていて、
「時間がだいぶ経っている」
ということは一目瞭然だった。
「運転手がけがをしたんですかね?」
ということで、あったが、桜井警部補が、
「これが血痕だとすれば、血液型まで分かりますか?」
ということだったので、
「そうですね、分からなくもないでしょうが、精密には分かりかねるでしょうね」
ということであった。
そして、鑑識が今度は車のトランクを開けてみると。
「うーむ」
という押し殺したような声が、重低音で聞こえてきた。
さすがに刑事であれば、その声が意味するものは分かったようで、そそくさと桜井警部補は、しかめ面になって、トランクの方に行って。覗き込んだ。
そこには、若い女がトランクの中に、まるで、胎児が、母体の羊水の中にいる時のように、丸まる形で、横向きに入っていた。
その胸部にはナイフが刺さっていて、トランクの中は、血の池のようになっていた。
といっても、凶器は胸に刺さったままだったので、そこまで噴き出したというわけではない。
ということは、
「凶器が抜き取られていれば、もっと悲惨な地獄絵図だったに違いない」
と、桜井警部補は感じていた。
「なるほど、もし、これが、凶器が持ち出されていれば、もっと早く発見されたかも知れないわけだな」
ということであった。
この時だって、山下刑事が不審に感じたから、ここで鑑識を呼ぶことになったわけで、もし、不審な点がなかったとすれば、警察に車がレッカーで運ばれ、持ち主の捜索が行われるという手順になるので、死体の発見は相当遅れていただろう。
しかし、いずれは、死体が腐乱していき、悪臭が漂ってくるだろうから、発見するには、かなり時間が掛かってしまうということになっただろう。
しかも、死体もかなり腐乱しているということになり、捜査ということでは、そもそもの身元の確認から、難航したことだろう。
それを考えると、今回の山下刑事の着眼点は素晴らしかったといえるだろう。
少なくとも、レッカー移動することなく、ここで死体が発見できたのだから、それも当然だといえる。
実は。犯人とすれば、
「この場所で、鑑識に捜査してもらうということが狙いだった」
ということである。
それでも、ここでの発見が、
「事件が解決してみれば、ファインプレーだった」
ということになるのだ。
これは、もっと先の話だるが、これも、
「事件のターニングポイントであった」
といってもいいだろう。
とにかく、
「車の中のトランクから、死体が発見された」
ということは、センセーショナルな事件ということで、マスゴミが大々的に発表した。
しかも、その少し前に、
「近くのキャンプ場の川に流れついた死体」
というのとの関連があるのかどうか?
ということも、マスゴミは、面白おかしく書き立てたのであった。
マスゴミは、
「新聞がうれればいい」
というやつらが多いことと、
「新聞社の質」
というものもあって、完全に、
「二つの事件は関連がある」
という書き方をしていた。
というのも、警察の記者会見で、警察が、
「今のところ分かっていないことが多く」
という言い方をしたものだから、
「書く記事の材料が少ない」
ということで、
「少し読者の感情を煽ることで、興味を掻き立てるような記事にしないといけない」
ということから、その路線で各社があおり記事を書いたから、事件の関連性が騒がれるのは当たり前のことだった。
河原で発見された被害者の身元は分かっていたが、今回の事件の被害者の身元も、簡単に分かった。
「車に押し込んで死体を隠しているかのように見えるが、別に身元を隠そうという意図は感じられない」
ということであった。
というのは、逆にトランクの中には、被害者と一緒に被害者の持ち物と思しきハンドバックがあり、そこには、定期入れ、財布などが残っていて。原田佐和子の時と同じように、その中から、運転免許証であったり、名刺、健康保険証など、普通に発見された。
運転免許証があれば、それが決め手ということであり、被害者の名前は、
「篠原ゆかり」
という30歳の女性だということが分かった。
しかも、驚いたことに彼女の名刺入れから発見された彼女の名刺の肩書は、
「秋月出版」
というマスコミ関係の女であるということは、記者会見で明らかになったことで、さらに、騒ぎを大きくすることになったのだ。
かといって、
「分かったことを隠し立てするわけにもいかない」
どうせ分かることであるのは間違いないことであるし、犯人も隠そうとするどころか、わざわざ抜き取ることをしなかったのだから、
「知られてもいい」
と思っていた。
というよりも、むしろ、
「公表したい」
という思いが、犯人側にあったのではないか?
と思えるのであった。
もちろん、秋月出版には、
「社員が殺された」
ということは知らされ、実際に、出張っていったのはもちろんのことだった。
編集長という人に話を聴くことができたのだが、
「社員が殺された」
というのに、そんなに慌てている様子もなかった。
むしろ、
「うちの社員が殺されたんだから、同業者に上米を跳ねられるようなことになっちゃいけない」
といって、それで躍起になっているようだった。
要するに、同業者を完全に、
「火事場泥棒扱いだ」
ということである。
「気持ちは分からないでもないが、少なくとも殺されたのは、自分たちの同僚じゃないか?」
ということで、彼らの露骨な態度に、業を煮やすということになるであろうか。
「弔い合戦というのであれば、分からなくはないが」
ということで、
「つくづくマスコミに対しては、苦虫を噛み潰したかのような気分にさせられる」
というものであった。
「警察を舐めてるんじゃないか?」
と、若い捜査員は、マスゴミに対して、挑戦的に感じているのだが、実際にはどうなのか分からないと思うと、複雑な気分だ。
「そもそも、警察という組織だって、決して褒められる組織というわけではない」
ということで、
「なるべく、自分たちが警察だという意識を持たないようにしよう」
とすら思っているほどで、
「感情を入れると、その理不尽さに押しつぶされる」
というのが嫌だと感じているのだろう。
それを思えば、
「警察も、マスゴミと一蓮托生ではないか?」
と思うのだった。
「大日本帝国の時代のマスゴミと警察を見れば分かるというもの」
ということで、
「治安維持法」
というものに支配された時代などでは、警察は、
「特高警察」
などと言われ、スパイを摘発したり、軍の諜報活動などに関与したりと、あくまでも、
「政府であったり、軍の犬」
ということで、国民は二の次だったといってもいい。
マスゴミに至っては、
「政府や軍の言う通りの記事を書かなければ、検閲で引っかかる」
というものであった。
ただ、それならまだいいのだが、
「そもそもの大東亜戦争の時代」
というと、
「政府や軍による、報道の抑制」
ということで、
「被害者だ」
と言われてきたと思われているようだが、
「実際には、それは、戦争が泥沼に入ってからのこと」
ということである。
もし、戦争犯罪を裁いた。
「極東国際軍事裁判」
において、
「マスゴミ:
というものが注目されれば、
「一番の戦犯だった」
といってもいいかも知れない。
「訴追に対しては、中国との戦争にさかのぼる」
ということであったわけで、実際に、
「シナ事変から大東亜戦争が始まって、情報統制が行われるようになるまで」
というものの、
「マスゴミの戦争責任」
というものは、
「拭うことのできないもの」
ということであっただろう。
裁判で問題とされなかったのは、
「占領下によっての、マスゴミの利用価値」
というものを考えると、
「戦争責任を問う」
ということよりも、問題にすることなく、
「傀儡のように利用する」
というのが、得策だと考えたのだろう。
それこそ、やり方としては、
「731同様」
といってもいいかも知れない。
それだけ、
「局牢国際軍事裁判」
というものが、
「勝者の理屈」
ということで成立したといってもいいだろう。
だからこそ、
「世界的なパンデミック」
の時に、その責任とやっていることから、世間から、
「マスコミではなく、マスゴミだ」
と言われたが、これは、
「パンデミックの時代に始まったわけではなく、マスコミというものが成立した時点から、くすぶっていたものなのかも知れない」
といってもいいだろう。
特に今の時代のマスゴミは実際にひどいもので、
「露骨に、中立ではない」
というところもある。
それが、新聞社を中心とした。放送業界にも蔓延っているグループ企業ということであり、
「もっとも、そんなことは、国民は皆分かっている」
ということで、実際に、
「一部の国民からは、完全に毛嫌いされている」
というところもある。
そんなところは、
「一部の国民に嫌われてもいいから、自分たちを支援してくれているところの犬になっても構わない」
と考えているのかも知れない。
だから、
「マスゴミというのは、その表裏がハッキリしていて、分かりやすいものなのかも知れない」
といえるのかも知れず、
「それが、政府と同等で、むしろ、政府よりも、もっとひどいところなのかも知れない」
といえるだろう。
政府は
「行政」
ということ、
マスゴミは、
「情報」
ということで、国民を翻弄し、
「国家を亡国として誘っている」
といえるのではないだろうか?
そんなマスゴミで仕事をしているジャーナリストが、
「殺害された」
ということになれば、本来であれば、
「その当事者である出版社は特に、襟を正さなければいけない」
ということになるのだろうが、逆に、
「この時とばかりに、他の同業者に負けない」
ということしか考えていないように見えるのだ。
つまりは、
「マスゴミというのは、報道するということを仕事ということで、ただ、事務的に仕事をしている」
としか見えない。
それは、忙しさからマヒしてしまった感覚が、そうさせるのかも知れないが、それこそ、
「上層部の中で、感覚をわざとマヒさせ、まるで社員を洗脳することで、何か一つの方向に、誘っているのではないか?」
と思えるのだ。
それが、
「身内が死のうがどうしようが関係ない」
つまりは、
「兵隊が何人死のうと、兵隊なんだから、しょうがない」
と思っているのだろう。
それは、
「戦争を仕事とする軍」
であったり。
「君主国の臣民」
ということであったりすれば、それは、
「国家元首のために、命を捨てるのは当たり前」
ということで、教育も受けていて、
「義務なんだ」
と言われてしまうと、民主国家としての
「国民」
というものとは、考え方に、
「まったくの違いがある」
といってもいいだろう。
それが、今の時代において、
「国家というものの成り立ち」
と、
「国民なのか、臣民なのか?」
ということの違いにより、実際には大きな問題として解釈されることになるのであろう。
もっとも、
「大日本帝国」
というものが滅んでから、70年以上が経っている。
果たして。今の国家は、亡国に向かっているのだろうか?」
というのは、国民は、間違いなく、
「亡国だ」
と答えるに違いない。
今の世の中というものを、
「マスゴミを見ることと、その情報統制に騙されないようにしないといけない」
という、
「マインドコントロール」
というものを、
「いかにうまく扱うか?」
ということを意識しないといけないといえるだろう。
今回の被害者である篠原ゆかりのことを調べていた刑事は、
「自他ともに、ろくでもない言われ方をしていない」
ということが、調べれば調べるほど分かるのだった。
「あの女は、取材の際には、その強引さなどはひどいもので、結構いろんなところから恨みを買っているのはないのか?」
というのを、同業者である、
「マスゴミ仲間」
から、同じ返答しか返ってこなかった。
さらに、同じ会社の人からは、
「あの人が変なウワサになるような態度を我が者顔でやってくれるから、こっちは、仕事がやりにくくてかなわない」
ということであった。
要するに、
「あなたが勝手なことをしてくれるから、私たちも皆から、同じ穴の狢と呼ばれるのよ」
と言わんばかりであった。
口の悪い人などは、
「ここだけの話、死んでくれて助かったわ」
とまでいう人もいた。
実際に、その人は、彼女の横暴のせいで、せっかくの仕事をふいにしたどころか、取材先からクレームを受けて、会社を辞めざるをえなくなってしまったのだ。今は、マスコミの仕事を請け負う形で、ちゃんとした定期的な収入が得られず、借金も抱えているということで、恨みを持つというのも分かるというもの。
彼女には、これから、マスコミにおいて、
「自分にできる夢」
というものをキチンと持っていて、それを完全に打ち砕かれたことから、
「私が何をしたというの?」
とばかりに、口での悪口くらい構わないと思っていたのだ。
「言っとくけど、同じような思いを抱いている人は、たくさんいるわよ。私以上のひとだって、結構いると思う」
ということで、
「彼女くらいの遍歴を考えると、人生を狂わされたなどという人は本当に少なくはないだろう」
「ペンは剣より強し」
というが、悪い意味で、まさにその通りである。
下手をすれば、
「やろうと思えば、完全犯罪だって、できなくもない」
というくらいであった。
だが、中には、
「彼女はそんな人ではない」
といっている人も若干名いる。
しかし、彼女を擁護するということは、まわりから、
「あいつらも、同じ穴のムジナ」
ということになると思われるどころか、
「完全に敵だ」
と思われて、普通に生活することすら不可能になるといってもいいくらいになfるのではないだろうか?
それを考えると、
「ゆかりを取り巻く人間関係というものが、どのようになっているのかということは、誰が本当のことを知っているのか?」
と言われたとしても、過言ではないだろう。
そんなことを考えていると、
「世の中が信じられない」
と考える人も少なくはないだろう。
そんな風なウワサヲ聞いていると、警察としても、
「容疑者は、無限にいるのではないか?」
と思えても仕方がない。
精神疾患の中の一つの症候群として、
「自分の、恋人や家族のような親しい人間が、悪の秘密結社によって、替え玉と入れ替わっていて、自分を殺そうとしている」
という感情があるという。
それを、
「カプグラ症候群」
というそうであるが、それこそ、
「被害妄想の頂点」
といってもいいかも知れない。
もし、精神病に、段階であったり、進化というものがあれば、この、
「カプグラ症候群」
というのは、その段階の最高峰であり、進化系の最終段階というものだといえるのではないだろうか?
それを考えると、
「篠原ゆかりという女性は、何かまわりが自分を狙っているというような被害妄想というものが発展していき、それが、行き過ぎた仕事のやり方になっているのではないか?」
ともいえるだろう。
しかし、実際に被害に受けた人たちは、
「そんな理屈でだまされるものか」
と考えていたとすれば、それこそ、
「彼女の妄想が、伝染していく形になり、彼女の被害者は、さらに、今度は自分が加害者となり、まるでネズミ算方式で増えていくというものではないか?」
といえるだろう。
それは、それこそ、昔に流行った、
「不幸の手紙」
なる都市伝説のようなものだといえるのではないだろうか?
「この手紙の同じ文面を、5人に送らないと、あなたは不幸になります」
ということを言われると、
「送り付けた相手はまずは5人であり、その5人が5人に送るということになり、最初は5人が次には25人となり、さらには、125人ということになる」
ということで
「5の倍数」
というわけではなく、
「5の二乗分ごとに増えていくということになり、数回で10000人を超えるということになる」
ということである。
つまり、
「人間の弱い部分を攻撃すれば、疑心暗鬼や猜疑心から、思わぬ行動を起こすということで、自分が手を下さなくとも、人にやらせる」
ということで、
「人を洗脳する」
ということは、自分の手を下さずとも、自分が隠れ蓑となって、他の人に犯罪をやらせる。
それが、
「一番楽ではあるが、一番卑怯な方法」
といってもいいだろう。
だからこそ、
「人に犯罪をやらせる」
ということほど、卑劣な犯罪はないということである。
そういう意味で、
「脅迫」
などというのもそうであり、だからこそ、
「営利誘拐」
などというのは、罪が重かったりするのである。
まるで、ゆかりという女は、まわりからは、そんな極悪な人間という裁定の評価しかないようだった。
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