自分の限界を試していたら最強になってました

泉 和佳

孤児院編

第1話 どうやら生まれはサイアクっぽい

 

 セントリオ王国の王都アルセイ。


 その栄えた大通りを西に外れて、出稼ぎ労働者が入り浸るアパルトマンが立ち並ぶ一角に、俺は生まれた。


 俺が生まれた時、母は


「やったわっ!! これで私も左団扇よっ!!」


 と、クソ下衆い感じに大喜びした。

 産まれて直ぐ、ママじゃない方の女性に体を洗われて、レースヒラヒラの産着を着せられる。


 うっ……。レース、チクチクしてヤダ。


 ボンネットを取ろうとするが、


「お高貴な坊ちゃまはつけるんですって。」


 と、先ほどの女性が気だるげにリボンをギュッと引っ張った。


 ちょっと! 赤ん坊を乱暴に扱わないでっ!!


 もがくも両手は虚しく宙を掻くだけだった。


 こんな調子で、香水プンプンのママからお乳をもらい、やる気のない使用人? 乳母? にオムツ替えと着替えを雑にされ(雑すぎてウ◯コがケツに挟まったままとか……。)


 それから10日ほど経つと、ママは産後間もないタレ腹にもかかわらず、コルセットでこれでもかと締め上げ、ワインレッドの重厚なドレスを着て、俺を抱き、意気揚々とデッカイお屋敷に馬車で乗り付けた。


 ざわめく周囲。


 ママは門前で


「私とグランドールの若様との愛の結晶です! ご覧くださいなっ!!」


 と、大声で騒ぎたて、


「なんと卑しい……。」


 と、片眉吊り上げ、それはそれはおっかなく睨めつける老婦人に、小袋に入った金貨と共に叩き出される。


 まっ、当然だよねぇ~。


 なのに、うちのママったら制止する護衛に、みっともなく喚き散らす。さっき“愛の結晶”とか言ってた俺のことは地面に放置。


 わぁ〜っ……。アレじゃん。モノホンのキチじゃん。キチ。


 俺これからコレに育てられんのかぁ。生きていけるかな?


 もういっそどこかへ売り飛ばしてくれたほうが、生存確率上がりそうなんだが……。死んだぁと思って、よっしゃあ! 転生!! からの産まれて10日で死亡て、ジェットコースターの落差が激しすぎだっての。


 “……。ヤベ。地面からの冷気が背中から腹に上ってきてる。いっちょ泣きますか。”


 うわぁぁぁん! あんぎゃぁ! おんぎゃぁ!!


「うるさいわねっ!!!」


 “ママおこ。

 ヤダ〜本性丸見え♡”


 すると、あたりの通行人がざわざわ。


「見ろよ。赤ん坊地面に置いて何してるんだ?」


「イヤねぇ。あんな恥さらしな……親子共々つましくしてればいいものを……。」


 ママは通行人にガンくれると、俺を乱暴に抱え、馬車に乗ってスタコラサッサ。元のボロアパートに戻った。


 ママ、帰ってすぐ小袋の中身をチェック。


 チッ!!


 と、すごい形相で舌を鳴らすと拳を机にたたきつけシャウト


「これポッチじゃドレスも靴も買えないじゃないっ!!」


 何のために今まで我慢してきたのよっ!!! と喚く。


 今度は腹減ってきたんだけど。俺、今乳幼児だしな。普通食が食べられない……。キチママからお恵みいただかないといけないのかぁ……。


 とりあえず泣いて腹減ったアピール。


 すると。


「うるさい!!! この役立たず!!」


 と最大音量で叫び、その辺にあった尿瓶を投げつけてきた。

 流石キチ。やることがイカれてる。この音を聞きつけ近所のマダムが乱入。


「うちの子が起きちまっただろ!? もうちょっと静かにって……!!?」


 マダム、尿瓶の破片と汚物に汚れた俺を見て驚愕。


「何やってるんだい!!?」


 マダム抱っこしてたお子さんを隣にいた少年に預け、俺を救出。


 俺、早速九死に一生を得る。


 マダムは俺をたらいで綺麗に洗ってくれて、その後は教会に預けてくれた。


 ふぅ~助かった。

 そうそう、俺の名前だが、


「この子に幸運が訪れますように……フェリックス。」


 と、シスターがいい感じにつけてくれた。

 フェリックス。ゲームキャラっぽくてカッコいい。

 そんで、昼間はご近所の奥様方からお乳を恵んでもらい、同じ孤児院で過ごす子供らに引っ張り回され、夜は不衛生ながらヤギの乳でしのぎ、なんとか1歳児まで生き残った。


 ここまでサラッと語ったが、赤ん坊時代はてんかん持ちだったのか、何度も気絶したりしてシスターや奥様方を何度も青ざめさせた。


 親には恵まれん、健康にも不安ありと前途多難な未来に青息吐息だったが、1歳になりたての頃……。


「まったく不憫な子だよ。せめて魔法が使えりゃ食うに困らないだろうが……。」


 魔法!?


 ご近所のマダムが俺を抱っこしながら心配そうに言う。


 ま魔法……。

 そんなの、そんなの、厨二病心に火がついちゃうじゃないかっ!!!


 その日から、俺は舌っ足らずなおねだりでシスター達やマダム達に魔法について情報集。


「まーまー。まほーまほー。」


 ってな感じでおねだり。

 マダム達は


「あらー。この年から頼もしいわねぇ。」


 と、頭をなでるだけ。

 そうじゃない。そうじゃないが、愛想はふらねば、子犬のチャッピーが如く。


 そしてシスターは


「? 魔法の事かしら? うーん。子供向けの本はないし……。」


 本!? 読みたいっ!!


「ほん! ほん! ほん! ほん!」


 キラキラお目々でおねだり。


「まぁ、読みたいの?」


 シスターのお膝の上で学習。


“魔法は、多種多様な種類に分類され、人によってどのような適性を持つかは、鑑定士に見てもらえば判然とする。それらの適性は主に血筋に由来するが、突然発現を認められる者もいる―――。”


 俺、良い子ちゃんでじっとシスターの読み聞かせに耳を傾ける。


 その様子を見てシスターカミラは驚いた。


 似た年頃の子は教会でも面倒見ているが、1歳児がこんなに大人しいなんて……。それに、勉学に関してかなり意欲的である。


 なんということだろう! この子は神から恩寵を与えられたに違いないっ!!


 カミラはこの日から、フェリックスに難しい本の読み聞かせも積極的に行った。

 そして、フェリックスがちょうど1歳半になりたての頃。

 鑑定士に彼を見てもらった。すると……。


「ふむ……。」


 緊張の瞬間である。

 もし、フェリックスが属性魔法が使えたりしていたら……。


「うむ。魔法は強化と鑑定ですな。」


「強化と鑑定……。」


 シスターの声がいかにもがっかりだ。鑑定士のおっさんは続ける。


「炭鉱や鍛冶で働くには良い魔法ですな。」


 と。


「そうですか。」


 シスター明らかな消沈。


 なるほどー。つまり、ショボイ魔法だと。

 なんか、ゴメン、シスター。


 期待してくれてたのに魔法がショボくて……。


 しかし、身体強化に鑑定……。

 何をどこまでできるのか……試してみたい!!


 そしてこの日から、俺は、何度も自分の限界を試して、何度も死にかけることになる。

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