希少性依存症
ちびまるフォイ
欲しいものは特別な自分
「抽選、あたっちゃった……」
周りの人気に合わせて応募した高倍率の抽選。
まさか当たるとは思っていなかった。
後日、自分の元には最新型のハイテクなーー……。
よくわからない立方体が届いた。
「これどうやって使うんだ?」
使い方もわからない。
なにを楽しむのかもわからない。
まあでもとにかく今一番アツいものらしい。
カバンへこれ見よがしにぶら下げて街を歩くと、
立方体を見た人が思わず声をあげる。
「見てあれ。最新のハコじゃない?」
「すごい! 始めてみた!」
「あの! ちょっと近くで見てもいいですか!?」
「ぬっふっふ。もちろんいいですよ」
すごく気分がいい。
これが正しい使い道なのかわからないが、
とにかくぶら下げているだけで羨望の的になれるのなら御の字。
「よく抽選当てましたね。
こういう珍しいものよく集めてるんですか?」
「え? あ……あぁーー……そうね」
いい格好したくてとっさにウソが出てしまった。
「すごい! レアコレクターなんですね!」
「はは、ははは。まあね」
自分の持っている珍しいものなんて立方体だけ。
ただその1点があるだけで自分の人生は一気にスターダム。
これは自分の人生の転機かもしれない。
「この調子でどんどん珍しいものを集めて、
ますますみんなが憧れる人になるぞ!!」
その後もさまざまな抽選や予約戦争に参加。
神の加護でもあろうかという豪運により、珍しいものを手に入れる。
まだ一般販売されていない珍しい三角形。
まだ流通前のレアな最新の平行四辺形。
一度開発が頓挫した限定の……よくわからん台形。
「使い方わかんないけど、
とにかくいっぱい珍しいものを集めたぜ!! 勝った!!」
誰と競っているわけでもないけれど、
こんなに珍しいものを集められた自分は他の人よりすごいんだろう。
体にさまざまな珍品をぶら下げて、
わざわざ人通りの多いところを歩いて見せつける。
気分はすでに芸能人。
みんなが自分に見とれて、指を指し、憧れる。
カリスマと言ってもいいかもしれない。
「ねえ、見てあの人!」
ほうらまた。
レアものを持っているオーラに当てられた人がいる。
まいったな。今は彼女募集してないのに。
「あの人の台形、旧バージョンじゃない?」
「あほんとだ」
「型落ちのやつだよね」
「うん。まだ持ってる人いたんだ」
2人組の人の会話が聞こえると、
急にめちゃくちゃ恥ずかしくなり耳まで真っ赤になった。
「きゅ、旧バージョン……!?」
ダッシュで家に帰ってからすぐに調べる。
すると自分の手に入れた最新と思っていた台形は、
どうやらすでに古いバージョンらしい。
最新の台形はもっとシュッとしているデザイン。
「なんてこった……。
俺は得意げに古臭い台形を身に着けていたのか……」
使い方もわからないし、用途も不明。
だが珍しいけりゃ、とにかく手に入れちゃえば満足だった。
日が経って最新バージョンが売り出されても、
そもそも興味がないので気づきやしなかった。
「ああ、クソ。めっちゃ恥ずかしい……!
他のも旧バージョンになってたりしないよな!?」
自分の身につけていたもののすべてを確認する。
調べてよかった。やっぱり古くなっていた。
「危ない。レア物に踊らされた滑稽な男になるところだった。
すぐに全部最新に切り替えよう!」
最新型が出ているものは全部最新に切り替えた。
旧バージョンと何が違うのかわからないし、
そもそも用途すら不明だが最新であればそれでいい。
最新にすると三角形にはスパンコールがついたり、
平行四辺形の四隅に鈴がついてたりするが意味はわからない。
だが、これが最新という証拠ならばそれでいい。
すべてを最新にバージョンアップができた。
時間とお金と労力を大量に注ぎ込むことになったが後悔はない。
「これでもう誰からも笑われないぞ!!」
気を取り直して人通りの多い都市部に出かける。
希少性の高い最新型で武装した自分への熱い視線を感じる。
(どうだ。この最新型、持っていないだろう。
君たちは違うのだよ。せいぜい指をくわえて憧れろ!)
嫌というほど自己肯定感に包まれていたとき、
スーツの男がふいに声をかけた。
「あの、ちょっとお時間よろしいですか?」
「いえ。私はこれを見せつけるのに忙しいので」
「ちょうどあなたに見せたいレア物があるんです」
「……レア物?」
「限定品です」
「話を聞きましょう。どれだけ珍しいんです?
どれだけ入手困難なんです? どれだけ最新なんです?」
どうにも限定という言葉を聞くと体が吸い寄せられる。
これでまた自分にハクがつくと思うと黙っちゃいられない。
「実は……コレなんです」
「これは……なんです?」
男が見せたのはよくわからない物体。
いつものように使い道も全くわからない。
「今、これを所持すればあなただけのもの。
あなた以外はまだ誰も手にしていないんです」
「おお……。これそんなに珍しいんですか」
「そりゃもう。自然に生まれるものなので、人工で作ることはできません」
「欲しいと他の人が思っても、
そうそう簡単には手に入らないんですね……!」
「ええそうです。そして、これを世界で初めて手に入れるのは……」
「もちろん俺です!!!」
用途はわからないが、自分だけが所持しているもの。
もはやそれだけで大いに価値がある。
これだけ珍しいものを手に入れた自分は特別なんだ。
それに世界で自分しか手に入れていないということは、
この点においては自分が世界で一番すぐれているということ。
「さあどうぞ」
「ありがとうございます。ちょっと街にでも出かけてきますわ」
使い方がわからないものの、一番目立たせたい。
頭のうえにソレを置いて大通りを練り歩く。
世界で自分しかまだ手に入れていない。
そんなタスキを肩から下げたいほど誇らしい気分。
さあ、俺を見てくれ。
誰よりも珍しいものを所持している特別な俺を。
「ねえ、見てあの人」
ほうら来た。
わずかに歩みをスローダウンさせて耳を傾ける。
自分に注がれる視線はもちろん頭上。
世界で自分だけしか持っていないものを見ている。
二人のうら若き通行人は俺の頭の物体を指さして言った。
「なんであの人、ロボットが出したウンチを頭に置いてるの?」
ソレは世界で自分だけが持っている。
そうではない。
自分以外みんな手を付けなかっただけだった。
希少性依存症 ちびまるフォイ @firestorage
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