ニ 某名所の崖
便利な時代になったもので、ありとあらゆる情報がなんかどうかネットにUPされているため、しばらくスマホを弄っているとロケ地の断崖も特定することができた。
そこはよくロケに使われる断崖同様、景勝地として有名な某県にある場所だった。けれどもやはり、わたしにはそこへ旅行した記憶がまったくないし、何某かの理由で行かなければならないような関係性も皆無だ。
ならば、やっぱりわたしの勘違いなのだろうか? だが、この〝崖〟に対する既視感は、どうにもそんな記憶の混乱で解決できるような軽いものではないような気がする。
一つ、気になったのは、その景勝地としての〝崖〟が持つ裏側の顔だ……。
他の所でもこうした断崖や渓谷には往々にしてあることなのだが、そこもご多分に漏れず、多くの人々が訪れる観光地であるとともに、反面、
また、その延長線上として、その筋では名の知れた、若者達が肝試しに訪れる心霊スポットにもなっているようだ。
一目見ればわかる通り、あの高さの断崖絶壁ならば、そうなることもまあ、自然なことなのかもしれない……もし、わたしがその立場にいたならば、やはりその手の魅力的な場所として目に映ることであろう。
いや、それはともかくとして、その事実を合わせて考えると、わたさひある一つの可能性に思い至る。
この〝崖〟を見た時にわたしの中に湧き上がる、なんとも表現のしようのない恐怖心と物悲しさ……もしかしたら、わたしも前世にここから飛び降りたのではないだろうか?
前世なんて非科学的なもの、わたしはぜんぜん信じていなかったのであるが、そうとでも考えなければ、無意識に溢れ出した涙やこの感情を理解することができない。
確かめてみねば……わたしは次の休みの日を使って、その〝崖〟へ実際に行ってみることにした──。
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