第17話 なっちゃん
数日後、生徒会長の久遠奈津美とデートすることになった。ゲーム内屈指の美人と連れ歩くのは面倒事に巻き込まれそうで正直気が乗らなかったが、約束してしまったので仕方ない。
待ち合わせ場所は駅前の銅像の前ということになった。
「……色々とおかしいよな」
銅像の前で待ち合わせをするのはデートでも定番のイベントだと思う。が、その銅像がよく言えば変わっている。悪く言えば頭が悪い。
なんだよ、ペンギンの銅像の前って。聞いたことねぇよ。どんな逸話があれば、ペンギンの銅像とかいうトンキチな代物を作ろうと思うんだ。
周りに疑問を抱いてる者はいない。彼らはこの世界の人間だから、俺の持つこの疑問に違和感に共感できないのだろう。
心の中でモヤモヤとした気持ちを抱えていると、遠くの方から待ち人が駆け寄ってきた。通行人達の視線が自然とそちらへ引き寄せられ、時間が止まったように動きが停止する。
そのせいで危うく青信号になっても車が動き出すまでに少し時間がかかった。影響力が大きすぎて、外を出歩かない方がいいんじゃないか、と不謹慎ながらそう思ってしまった。
「すまない、遅れた!」
主人公のような台詞と共に颯爽と現れたのは学生服を纏う久遠奈津美。私服でも見て、退屈しのぎをしようかと思っていた俺のアテはどうやら外れたらしい。
ただ何となく、納得している自分もいた。彼女は生徒会長であり、生徒の規範。なら、休日といえど変な私服を着てたり、露出度の高い格好をしていたりしていないだけマシだ。
「ん? 何か変なところでもあっただろうか?」
俺の視線に気付いた久遠奈津美が顔を近づけてくる。顔面国宝と言われるだけあって、相当整っている。多分画素数が他のキャラと桁違いだ。それくらいに差がある。
他が醜いわけじゃないけど、ゲー⚪︎キューブとS⚪︎itchくらいの差は絶対にある。それだけ原作者に優遇されたキャラってことなんだろう。
「いや、ありませんよ。それより待ち合わせ時間まであと十分近くはあるけど、来るの早いですね」
「ああ、それはだな! 私がアラームの時間を間違えてしまって、早く起きて、着替えて来てしまったんだ」
ドジっ娘スキルが発動したわけだ……時間をちゃんと確認しとけば、起きるはずのないミスなのにな。
「時間は確認しなかったんですか?」
「確認はした。だが、よく見なかったせいで1時間も間違えた」
ドジが過ぎる。こうなってくると、最早原作者の
ちょっと哀れに見えてきた俺は性格が悪いのか。悪くてもいいので可哀想だと言わせてくれ。いや口にはしないが。
「どうした? 私の顔に何かついてるか……きゃっ」
「……大丈夫────」
咄嗟に受け止めようとしたが、変に踏み止まろうとしたせいで俺の顎に久遠奈津美の頭がクリーンヒット。一瞬視界がチカチカした。
「あ、大丈夫────」
それだけで終わらない。俺の顎の下にあった顔を上げたせいで、後頭部が再び顎を直撃。
……最早意図的な攻撃だろこれ。原作者は俺に恨みでもあるのか。
「……大丈夫ですか?」
「いや、こちらこそ済まない! というか君の方こそ大丈夫なのか!?」
「舌を噛み切りかけましたけど、ギリギリ大丈夫です」
「本当にすまない!」
勢いよく俺に頭を下げる久遠奈津美。彼女の誠心誠意の謝罪に、俺への非難の視線が集まる。
何でだよ、今の一連の流れ見てなかったのか? それに俺は謝ってくれとは一言も言ってないし、別に責めたりとかもしてない。事実を言ったまでだ。実際、舌を噛みかけた。
「謝らなくていいですよ。それより久遠……」
久遠先輩と言いかけ、やめる。声をかけようとしても、全然反応しないのが見えたからだ。今も必死に頭を下げ、その度に周りから俺へと向けられる視線の温度が下がっているのを体感している。
まずは謝るのをやめてもらわないと。このままだと俺は犯罪者扱いだ。
久遠奈津美との会話を思い出し、ある可能性に賭けることにした。十中八九反応するだろう。
「なっちゃん」
「何だ、しゅーくん! ……あ、今私のことをなっちゃんって呼んでくれたのか?」
神速の反応速度だった。しかも、驚いてる辺り、無意識かよ。
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