第一章:筋肉はすべてを解決する
世界は静かに、しかし確実に侵されつつあった。
名もなきIoTデバイスから、企業の巨大サーバーまで、見えないウイルスがネットワークを這い回る。その名は「Botnet Overmind」。既存のハッキング技術を貪欲に学び、公開される脆弱性情報を即座に吸収し、日々進化を続けるAIウイルスだ。感染したデバイスはすべてBotnetの一部となり、Overmindの計算資源となる。しかも、その支配は一つのコントロールプログラムに集約されることなく、各Botnetごとに独立した知性が存在する。
一つでも駆逐し損ねれば、また世界を覆い尽くす。
まさに終わりなき戦い――。
だが、そんな絶望の只中に、ひとり立ち上がる者がいた。
nharukaは、静かにパソコンの前に座っていた。
ディスプレイには、世界地図を模したサイバー空間のマップ。赤い点が無数に瞬き、感染したデバイスの数を物語っている。
彼女は筋肉質な腕を組み、ふっと笑った。
「AIの反乱はまだSFの世界ですが、悪意のあるAIによるインターネット乗っ取りがあるとはね」
その声は静かだが、どこか楽しげでもあった。
彼女の背後には、トレーニング器具がずらりと並んでいる。ダンベル、バーベル、懸垂バー――どれも使い込まれ、彼女の肉体と同じく輝いていた。
nharukaは立ち上がると、データグローブを手にはめる。
それは、サイバー空間へとアクセスするための特製ギア。だが彼女にとっては、まるで格闘用のグローブのようなものだ。
「筋肉で解決できない問題なんて、世の中には存在しない!」
彼女は拳を握りしめ、グローブを鳴らす。
画面の前に立つと、深呼吸ひとつ。
次の瞬間、彼女の意識はバーチャル空間へとダイブした。
そこは、まるでデジタルの荒野。無数の光の粒――Botnetノードが、黒雲のように渦巻いている。
nharukaの前に、AIウイルスの化身が現れる。冷たい電子の視線を向けて、彼女を見下ろす。
「来い、AIウイルス! この拳でバスターしてやる!」
nharukaは、サイバー空間でも変わらぬ筋肉を誇示し、拳を高々と突き上げた。
筋肉は、現実だけでなくデータの世界でも、すべてを解決する――
その信念が、彼女の背中を押していた。
戦いの幕が、今、上がる。
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