第25話 佳那ちゃんの専用武器
そういいながら佳那ちゃんが地面に手をつくと地面から職種のようなものがいくつか這えてきたかと思うと床に転がっている棚の破片い触れ、どんどん吸収していく。
「この隠れ家全体が佳那ちゃんの専用武器だから棚も傷もすぐに直るよ」
じゃあ、漫画本だけであそこまで落ち込んでたんだ。
いや、確かに申しわけないとは思ってるけど。
変わった子だ。
「か、佳那ちゃん」
さすがに武器を作ってもらってご飯も食べさせてもらった相手をここまで落ち込ませたんだ。
申し訳なさから恐る恐る話しかけてしまう。
「…………」
さすがに無視されれてしまう。
「ヤマキ西さんってわかる?少女漫画家なんだけど」
「……しってる。出てるシリーズ全部そろえてる」
さすがに興味のある分野で話しかけると無視はされなかった。
「僕、ヤマキさんのサイン入りの漫画本を持ってるんだけど、今回のお詫びって言ったらあれだけど、あげるから許してくれないかな?」
確か莉緒が友達とイベントに行って単行本にサインもらったとか言って喜んでたよな。
莉緒のものならあとで謝ったら許してくれるでしょ。
「ヤマキ西先生のサイン入り漫画⁉あの人、サインとか描くの嫌いだから全然出回ってないのに」
あれ?
思ったよりも貴重なものだったかな?
いや、莉緒ならきっと許してくれる。
莉緒もこれまで僕の持ち物を勝手に持って行ったりしてるし、条件は同じはず。
許してくれなかったら今度は優衣ぴょんに頼んで三人で一緒に遊んでもらおう。
あいつ、優衣ぴょんのことが大好きだし喜んで許してくれるだろう。
「本当にくれるのか⁉」
「う、うん」
あまりもともと好意的ではなかったと思っていたけど、趣味が同じだと違うのかな?
さっきまで僕を殺そうとしたような目つきだったのに今ではきらきらとした目つきで僕を見ている。
「やった!仕方ない。許してやるよ」
笑顔で漫画本をそろえてた僕の背中をバシバシと叩いてくる。
「あれ?こんなに気安い感じの人だっけ?」
さっきまでは孤高を貫く人的なイメージがあったのに。
てか、さっきからめちゃくちゃ背中が痛い。
僕の顔を殴った時も思ってたけど、運動不足の人の身体能力じゃない。
「佳那ちゃん、それくらいにしてあげて。亜樹、結構本気で痛がってる」
「おい、亜樹、お前は優衣さんの仲間なんだろ?これぐらいで痛がってるとかうそでしょ?」
そういいながらさらに力を強めてくる。
「ちょっと、痛い!マジで痛い!」
さすがに背中にエネルギーをためて身体能力を強化した。
内臓が傷ついたりしてないかな?
てか、別人すぎるでしょ!
てっきり箱入り娘で、一匹狼的な気質の人だと思ったのに。
この娘、いったいどうしてやろう。
ガキに大人というものの強さを教え込むというのも僕の役目だったりするのかな?
ならば、僕の最近学んだ柔道の寝技で完璧な抑え込みを披露して、どちらが強いのかを教え込んでやらないと。
「このガキ!僕が優衣ぴょんに誘われた理由を教え込んでやるよ!」
拾い集めてた漫画本をできるだけ離れた場所において、僕の背中をバシバシと叩いてた佳那ちゃんの方へバッ!と向き直し、僕をたたこうと振り下ろしていた腕をつかみ、同時に右脚を佳那ちゃんのまた下に足を入れ、左足を持ち上げる。
同時に佳那ちゃんの掴んでいた腕を僕の背中向きへ引き入れることで、佳那ちゃんの背中を地面に向けさせて、僕はそのうえで佳那ちゃんを抑え込む。
完璧な動きだ。
受け入れるだけで、一切反抗してこなかった僕の反撃に戸惑ったのか、佳那ちゃんは暴れるが、僕はびくともしない。
「ゆ、優衣さん!けだものが、けだものが私に襲い掛かって穢されちゃう!」
「おい!人聞き悪いこというなよ!」
「この私の純潔を奪おうってなら容赦しないからな!」
佳那ちゃんはそういうと、佳那ちゃんの体はだんだんと隠れ家に沈み込んでいってしまった。
どうしたものかと慌てて佳那ちゃんの体から飛びのくと、今度は背後から秘密基地の床や壁から生えてきた腕のような形をした触手のようなものにすごい力で地面に押さえつけられそうになる。
「え?ナニコレ」
「フフフ、私の力を甘く見たものの末路というものをその体にじっくりと教え込んでやるよ」
すごい力で僕を抑え込もうとしていた触手は形を粘土のように変形させ、僕の体に張り付くように僕の体全体に広がり、固定される。
先ほどの棚のような甘い硬度じゃない。
とんでもない硬さに加えて粘性がすごい。
力ずくで動くことができなくもないが、すぐに形を変形させてすぐに僕を固定させようとする。
「クソ、なんだよこれ」
「私の隠れ家の力を甘く見たな。ここは私の胃袋の中のようなものよ」
そういいながら僕の方に近づくと、僕の脇下の部分だけ固定してた素材をなくすと維持の悪そうな笑みを浮かべる。
「それで、お前が優衣さんに選ばれた理由を教えてくれるんだっけ?ほれ、教えてよ」
佳那ちゃんはそういいながら僕の脇をくすぐってくる。
「あっ!おい、クッソ!」
このクソガキが!
絶対に許さん!
僕がスターダスト相手に使うのと同じぐらいの身体能力で佳那ちゃんに使にかかろうとした瞬間、僕と優衣ぴょん、そして佳那ちゃんの三つのバッチから警報音が響いた。
僕たちの間で弛緩していた雰囲気が一気に霧散した。
この警報音は災害危険レベルB級だ。
「佳那ちゃん!早く亜樹を解放して」
「ああ、わかった」
無理やりにでも抜け出そうと思ったけど、佳那ちゃんが解放してくれたことで余計なエネルギーを使わずに済んだ。
「場所は?」
「ここからかなり近い。西に五キロ、ちょうどぴちぴち県の中心的な駅だよ」
まずいな。
一時間以内に倒さないととんでもない被害になってしまいそうだ。
「急ごう!ちょうどエネルギー補注もできてたしちょうどいい。優衣ぴょんもいい?」
急いで飛び出そうと優衣ぴょんに背中にくっつくように指示を出す。
「ちょっと待って、亜樹も行くの?」
急いで飛び出そうと気が焦っていると佳那ちゃんが僕を呼び止める。
「当然だろ?優衣ぴょんと僕は仲間なんだし」
「ダメだよ!亜樹、B級だよ!そこら辺のスターダストならまだしも、あれくらいの拘束も解けないのにいったところで意味なんかないよ」
佳那ちゃんが怒っているかの様に聞き分けの悪い子供をあやすかのように僕を引き留める。
「大丈夫、僕は強いから。それに、この敵は僕一人で戦うことにするよ。いいね優衣ぴょん?」
「え、でも、亜樹……」
「この前のようには負けるつもりはないよ。カルナクスの螺旋が僕たちの目標なんだからここは僕一人で倒す」
デカラビアに負けた時から考えてた。
次に来た大物は必ず僕一人で倒そうって。
「できるの?」
心配そうに優衣ぴょんが効いてくる。
だけど、どこか僕に対する信頼が見えたような気もした。
僕を鍛えてくれた優衣ぴょんに僕の成長を見せつけないと。
「必ずた――」
「――ダメだよ!絶対ダメ。亜樹は弱いんだからおとなしくしててよ」
必ず倒すと言いかけたところを佳那ちゃんにさえぎられてしまう。
「わかった。私は亜樹が死にそうになるまで一切手出ししないから」
優衣ぴょんは佳那ちゃんの言葉を無視して僕に返事をくれる。
「優衣さん!」
佳那ちゃんが責め立てるように優衣ぴょんの名前を叫ぶが気にした素振りも見せない。
「佳那ちゃん、全力で亜樹を拘束してみて。それで亜樹が抜け出せたら認めてほしい」
優衣ぴょんが今度は佳那ちゃんの方を向いて話す。
真剣に物事を話すゆいぴょんは本当に絵になるなぁ。
こんなどうでもいいことを考えるなんて、僕も緊張してるのかな?
「わかった。でも、やり直しは認めないかね」
佳那ちゃんは僕が抜け出せるわけがないと思っているようだ。
僕の周りから触手のようなものが僕に再びまとわりついてくる。
先ほどとは明らかに異なる硬度。
肌に触れただけでわかる。
それに今度は僕を握りしめてきて、ぎちぎちと縛り上げられていく。
「もういいかな?」
「ああ。ここまで縛り上げたらそれこそB級スターダストでも簡単には抜け出せないよ。ここはおとなしく、優衣さんが倒してくるのをそこで待っててよ」
これはいいことを聞いた。
B級スターダストでも抜け出すのに苦労するとは。
確かにこれはすごい硬度と力だ。
エネルギーの消費は最低限にしないと。
僕が一歩踏み出すと粘土を引きちぎるようにして僕の拘束がはがれていく。
「そ、そんな……」
「これでいいかな?」
佳那ちゃんが愕然としている。
「亜樹、急ぐよ」
優衣ぴょんはすでに赤ちゃん用のおんぶ紐を足に通して準備を終えている。
ちょっと滑稽な格好だ。
「わかった。じゃあ私も行く」
僕が優衣ぴょんをおんぶしようとしていると、佳那ちゃんが急に変なことを言い出した。
「え?」
「大丈夫、亜樹が一人で戦うっていうなら私も手出しはしない」
「いや、そういう問題じゃないんじゃない?」
ちらりと優衣ぴょんの方を見ると優衣ぴょんも驚いているようだった。
だけど、優衣ぴょんは何も言わない。
佳那ちゃんはB級スターダストとの戦いについてきても問題ないだけの実力があるってことか?
「いや、もう決めたよ。優衣さんも、そんなダサいのすぐ外して。連れて行ってあげる」
「だ、ダサい」
ちょっと優衣ぴょんがショックを受けているようだったが、今度は佳那ちゃんがそんな様子を気にしない。
なんだか二人は似ているなぁ。
「動くから舌を噛まないようにしてね」
佳那ちゃんがそういうと、ガタンッ!と建物全体が動き出す。
エレベーターどころではない急上昇はふいぴょんに重力をかけられているときとそっくりだった。
これが慣性力か。
きっと物理の試験に出るな。
「この隠れ家全体が私の専用武器、『守煌機カナリア』。すぐにつくから準備しててね」
佳那ちゃんがそういうとただの壁だったはずの白い壁が三百六十度ガラス張りの建物のように透けて外が見えるようになった。
同時に、この隠れ家本体も俯瞰した視線から見ることができるようになった。
――なんてこった。
こ、これは……。
「――超巨大ロボじゃないかー!」
遠くから見ても認識することができる大きな山を割って出てきたのは僕たち、男の子みんなが子供のころに乗りたいと思い描いたであろう人型巨大ロボ。
コックピットから映るモニターからは全身を覆う金属板が鋭い光を反射させていた。
カナリアは1990年代に大ヒットしたテレビアニメの初号機のような風貌をしたものだった。
「ふふ、こいつの武器はとんでもない威力の主砲だ。安全なコックピットの中から、さらに敵から距離を離れた状態で一方的に最強の一撃を放つのが乙なのさ」
こいつは精神面でいろいろ叩きなおしてやらないといけないなぁ。
動力源とかいろいろ気になるところがあるけど、そんなことが言葉に出てこないくらいに、僕の心は美しく、気高いロボットに奪われていた。
「佳那、行きます!」
某ロボットアニメで聞いたことがあるようなセリフをいい、佳那ちゃんがカナリアを動かす。
カナリアが一歩踏み出す。
足音だけで地面が波打ち、森の鳥たちは一斉に羽ばたいていった。
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