第24話 西山佳那

 佳那ちゃんに作ってもらった専用武器の苗を開花させるためには僕でいうところのエネルギーを供給し続ける必要があるらしい。

 これが花を育てるときに言う水やりに該当するそうだ。

 それからというものの、僕は優衣ぴょんとおそろいのブレスレットと指輪を肌身離さずに身に着けている。

 仲間で同じものを身に着ける。


 なんだか仲まで縮まったような気持ちになるのは僕だけだろうか?

 この間見せてもらった優衣ぴょんの指には三つの指輪がしてあった。

 僕が思うに優衣ぴょんはわざわざ自分を飾るような性格ではない。

 飾らなくてもきれいだからというのが正解なのだが、おそらくゆいぴょんはたくさんの専用武器を持っているということなんだろう。

 本気を出した優衣ぴょんってどれくらい強いんだろ?


「亜樹、専用武器を起動させてみてよ。エネルギーをある程度籠めたら簡単に起動できるよ」

「専用武器って、もう使えるの?てっきりエネルギーを籠め続けてようやく出来上がるものかと思ってたんだけど」

「そんなことないよ。初めてだと確かにエネルギーは結構使うかもしれないけど、すぐにでも作れるよ」

「そうなの⁉」


「うん、せっかくだし佳那ちゃんにも初めて使う所見せてあげようよ」

「いいの?なんか佳那ちゃん専用武器に対してあんまりいい印象持ってなかったような気がするけど」

「確かに佳那ちゃんは専用武器のことがあんまり好きじゃないけど、自分の仕事には誇りを持ってるから亜樹が喜んでる姿を見せたらきっと喜ぶよ」


 そうかなぁ?

 そうなのか。

 僕としてもまだ幼い女の子にさみしい思いをさせたまま帰るなんてことはしたくないし、もう少しくらい付き合ってもいいか。




「なんだ?まだ私に用でもあったか?」


 僕たちが佳那ちゃんの私室に戻って、ゲームをしていた佳那ちゃんのすぐ後ろに立つとすぐにゲームをやめてこちらを振り返ってくれた。


「いや、せっかく僕の専用武器を作ってくれたんだから僕の専用武器がどんなのか一緒に見てもらおうと思って」

「興味ないな」


 てっきりかまってちゃんなのかと思ってたけど、思ったよりも僕に対して興味がなさそうだ。

 僕が一度突き放してるから意固地になってたりするのかな?それともそこまで専用武器が気に入らないとか?

 僕には判断がつかない。


「佳那ちゃん、亜樹も結構ブレスレットとか指輪に感謝してるみたいだし、お礼を言わせてあげてよ」


 優衣ぴょんがどう反応すればいいかよくわからない僕に助け舟を出してくれる。


「佳那ちゃん、すごくセンスいいね。これって佳那ちゃんがデザインしてるってことでいいのかな?本当にありがとうね。僕、こういう恰好良いやつを身につけるのにあこがれてたんだ」


 促されるようにお礼を言ってみたけど、佳那ちゃんはそこまで嬉しそうにしてない。


「お礼なんて言う必要はない。これが私の仕事だ」


 まだ年齢的には中学生くらいのはずなのにずいぶんと大人びたことを言うものだ。


「仕事なんて関係ないよ。こんなにかっこよくて優衣ぴょんとおそろいのものをくれたんだから」

「ふん、専用武器に期待しすぎないことだ。あれはお前が思ってるほど万能でもないし、高尚なものでもない」


 ふてくされたそうにそう言う佳那ちゃんは再びパソコンに向き合ってしまった。


「まぁ、見てあげてよ。亜樹もかなり楽しみにしてるみたいだし」


 ゆいぴょんはそういいながら佳那ちゃんの座っている椅子に手をかけてこちら向きに回してくれた。

 佳那ちゃんも机に手を突きながら抵抗をしていたけど、優衣ぴょんにはかなわなかったようだ。


「クソ、かわいいからって調子に乗りやがって!誰の武器のおかげて強敵と戦えてると思ってるんだ?」


 佳那ちゃんが恨めしい目で優衣ぴょんをにらんでいるが、優衣ぴょんは気にしてないようだ。

 さっきまであそこまで下手に出てた人間とは思えない。


「さぁ、亜樹、専用武器を起動しちゃって」


 なんか、ここまでおぜん立てされると逆にやりずらいなぁ。


「うん、エネルギーをブレスレットと指輪に籠めたらいいんだよね?」

「そうだよ。初めは結構多めに必要かもしれないけど、我慢してね」


 まぁ、それくらいならいつものことだし。


「まかせてよ」


 そういえば、エネルギーを物に籠めるって言ってもどうやってやるんだろ?

 いつも何となく身体能力をあげたい部分に力を込めてたら上がっていってるけど、自分の肉体以外にエネルギーなんて籠めたことないや。

 そんなことをここまでおぜん立てされた状況で言えるはずもなく、とりあえずやってみる。

 エネルギーを籠めるかぁ。

 もし、体外に放出させたりすることができるようになったら、僕にも初めての必殺技ができるかもなぁ。

 そんな妄想をしながら、コツとしてはブレスレットと指輪を僕の体の一部として認識することだろうか?

 思っていた以上に簡単にエネルギーを体外に放出することができた。


「おお、体のエネルギーが移っていく変な感覚だ」


 僕のエネルギーは黄金色となってブレスレットと指輪に籠められていき、金色を纏う。


「……珍しいな。色付きか」


 感心したように佳那ちゃんがつぶやく。


「色付き?」


 優衣ぴょんも知らなかったようだ。

 佳那ちゃんの珍しいというのは本当だったらしい。


「別に大した意味はない。意味があるのかすら知らないが、ただ、色付きの専用武器を持つ人間は時代を切り開く器を持っているといわれている。ただそれだけだ」


 なお、神から力を与えられた人間から色付きの武器ができた前例はないらしい。


「亜樹……優衣に選ばれた人間はやはり特異か」

「さすが亜樹」


 時代を切り開く器かぁ。

 そんなに褒められることなんて滅多にない。

 やはり僕は選ばれた人間だったんだ。

 さすがにうれしいな。

 とはいえ、そんなにすごい人間だと言ってくれたことはうれしいけど、そんなことを言われても僕自身としては困惑してしまう。


「そんなことを言っても、なかなか僕の専用武器、武器にならないんだけど」


 僕としてはかなりエネルギーを籠めたと思ってる。

 それでも、僕のブレスレットと指輪は黄金色に光るだけで一向に武器の形をとってくれない。

 県をまたぐ移動に初めから結構エネルギーを消耗していることもあって、僕の頬はどんどんしぼんでいく。


「おかしいね。そろそろ武器になってもおかしくないと思うんだけど」


 優衣ぴょんからしても普通のことではないらしい。


「もしかすると亜樹自身に欲しい武器の構想が一切ないからかもしれんなぁ。専用武器は開花するとき、持ち主の深層心理から求める武器を作り出す。珍しいものが見れたからよかったが、どんな武器が欲しいかもう少し考えておけばいつか形作るだろう」


 佳那ちゃんが訳知り顔でいろいろ教えてくれる。

 てっきり佳那ちゃんに作ってもらえるものと思っていたからなんも考えてなかったけど、他人任せにしていいことではなかったようだ。


「なんかお腹すいちゃったから食べ物ないかな?」


 脂肪が一切なくなってガリガリに近づいた僕のお腹をアピールする。


「選ばれた人間とはマイペースな奴なんだな」


 そういいながらかいがいしくも僕の目の前に倉庫からカップラーメンを取り出してお言ってくれる。

 倉庫を開いたとき、チラッと大量のお菓子に大量のジュース、大量のカップラーメンが見えた。

 本当にここは男の子のあこがれの部屋そのものだ。


「ごめんね。あとでお礼はするから」


 優衣ぴょんがそういいながら僕のためにお湯を沸かしてくれる。





「なんかごめん……いろいろ食い荒らしちゃった」

「……ここまで胃の中にものが入る人間を初めて見た」


 佳那ちゃんが僕を人間としてみてくれない。

 悲しい。


「亜樹、今日は見逃すけど、こんなに塩分が高いものばかりダメだよ」

「いや、僕もこんなにインスタント食品を食べたのは初めてだよ。申し訳ないけど、心配するべきは……」


 そういいながらちらりと佳那ちゃんに目線を送る。

 佳那ちゃんが僕に『恩知らず!』と憤ったような表情をしていた。


「佳那ちゃんは……お礼として送らせてもらう品に関しては私が選ばせてもらうことにするよ」


 ゴメンね!

 ウインクしながら目線を送ると結構真面目にキレてた。


「わ、私の理想の秘密基地が……現実的なものになってしまう……」


 うなだれるように佳那ちゃんが下を向く。


「こうやって人は成長して大人になっていくんだね」


 総括するように真面目な声音で締める。


「でめぇ!この恩知らずが!ぶっ殺してやる!」


 ギンッ!と目を吊り上げた佳那ちゃんが僕にとびかかってくる。

 椅子からとび降りて勢いをつけて僕に拳を振り上げてきた。

 仕方がない。

 僕にも悪いところがあるし、仕方がないからここはおとなしく殴られておこう。


「――ぶべっ!」


 左頬にガードもせずに拳をぶち込まれると、あまりの威力に地面を踏み知れる余裕もなく吹き飛ばされる。


「亜樹‼」


 僕が吹き飛ばされてしまった衝撃で佳那ちゃんの自慢であったであろう漫画本の棚が一つ壊れてしまった。


「ギャー!私のコレクションが!」


 これ、僕のせいかな?

 かなりよさげな素材で作られてた棚だったけど、これってコスモスの保証で何とかなるかな?

 僕がこの一か月ぐらいでスターダストと戦ってもらえる報酬って振り込まれるのはもう少しあとらしいし、弁償できないんだけど、どうしよ。


「亜樹、大丈夫⁉身体能力強化してなかったよね!」


 佳那ちゃんが自分のコレクションを見て絶叫しているが、そんな佳那ちゃんのそばを通り過ぎて僕に駆け寄ってきてくれる。


「ああ、ほれふらひへんへんほふはいはいお」

「え?なんて?」


 あ、顎が外れてる。


「あへ、ほへへはふはいはい」


 両手を使いながら顎をはめようと格闘するけど、初めての経験だから思ったようにうまくはまらない。


「ほへふはふははふぁは――あ、はまった」

「亜樹、大丈夫だった?」

「まぁ、大丈夫ではあるけど。棚壊しちゃった」


 僕の下敷きになってる大量の漫画本と棚であった破片を指さす。


「よくわかんないけど、確か佳那ちゃんって同じ漫画本を三冊ぐらい全部そろえてるってこの前自慢してたし大丈夫だよきっと」

「僕が言いたかったのは主にこの棚のことだったんだけど。床とかもかなり傷ついちゃったし」


 そういいながら僕が指をさした先にはきれいなフローリングにかなり大きな傷ができてしまっていた。


「大丈夫だよこれぐらい」


 えー。

 さすがに申しわけないや。


「ここまで私不利益をもたらした人間はお前が初めてだ」


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