第11話 世界の脅威

 僕も優衣さんも超能力が使える。

 だが、その力の由来は異なるものだ。

 僕の場合、僕は生まれつき超能力が使えた。


 生まれた時からしっかり栄養補給をしていたし、転んでしまいそうになった時には無意識に身体能力を強化して怪我を未然に防いでおり、特に注射を刺されるときには針が通らなくて大変だったらしい。

 僕のように生まれつき超能力を使える人間はコスモスという組織が誕生しているくらいには数がいる。

 しかし、能力の強度については幅広い。


 僕の力ぐらいになると統計学でいうところの外れ値に近い、圧倒的な力であり、多くの生まれつきの超能力者は僕よりもよっぽど力が弱いらしい。


 一方で優衣さんの場合、優衣さんは神様に力を貸してもらっているらしい。

 もちろんこれは比喩でもなんでもないし、優衣さんの頭がおかしいというわけでもない。

 僕も初めは頭に変な虫でも湧いてるのかと思ったけどどうやら本気らしい。

 そっちがその気なら僕もそれに沿った対応をしなければ失礼に当たるというもの。


 優衣さんが言うには優衣さんの一族は代々とんでもない美少女と美男子が生まれてくるようだ。

 優衣さんの一橋家に伝わる言い伝えでは戦乱の世にひときわ目立って心の美しい青年がいた。

 体も弱く、とても優れているとは言えない容姿、両親の身分、すべてのスペックにおいて当時の平均を大きく下回り、毎日困窮した生活をそれ以下の水準に下げないよう努力していた。

そんな真摯な努力も、当時の戦乱の世は許さない。

 ある日優衣さんのご先祖様が森に山菜を取りに出向いた際、森の中に放置されていた狩りの罠に引っかかり歩けなくなったシカを見つけ、保護した。

 周囲の人間はそのシカを何とか食べようと画策したが、常日頃から心優しく、細々とした恩のあるその青年の懇願でシカの怪我が治った後、きっちり森の中に返した。

 それからは元通り困窮した毎日を過ごしたが、ある日再び山菜を取りに森に入ろうとしたところ、その青年が治療したシカに再び会い、その際、とある神様から自分の半身を助けたお礼としてその青年に大量の食糧とその美しい心に見合った美しい身体を贈った。

 大量に戴いた食料を村人全員に分け与えたり、顔が変わったりしてしまったことでその後は豊かな生活を送ることができるようになる。


 ――そんなわけでもなく、戦乱の世の激しい殺し合いは青年の村にまで波及していた。

 その戦乱の最中、友人たちの死に直面していくにつれて友を守ることができる力を求めるようになり、とある神社に訪れたそこで参拝をすると以前とは別の神様が彼の願いにこたえる。

 その神様は彼の美しい容姿と引き換えに莫大な力を与えた。

 しかし、その後彼の容姿はひどいものとなり、その後の戦争で莫大な戦果を挙げたものの周りから避けられるようにして古くから世界に訪れてたびたび大きな厄災をもたらせていた地球外生命体、今でいうスターダストを狩る仕事が与える。



 確かになんの面白味のない話だ。

 だからこそ、わざわざこんななんの教訓もない話が残っているという信憑性が生まれてしまう。

 世代が交代していくにつれていろいろなことがわかってきたが、とある儀式を経ることで神様に与えられた力とは引き継ぐことができ、一定期間その身に神様の力を宿すとほかの人に神様の力を移してもその力が残るようになるらしい。


 世代が進んでいって何百年も神様の力をその身に宿した一橋家は生まれつき容姿に関してはその本人の心の綺麗さによって決まるようになった。

 また、もう一つの神様の力である戦う力についてはその容姿がどれだけ優れているかによってどれだけ力を得られるかが変わる。

 だから、心の持ち方ひとつで容姿と力、二つを手にすることができた。


 一橋家に関してはこれまた特別でほとんどの家は次の世代に神様の力を引き継がせることができず、たまたま才能を持った人が神様に見初められて力を与えられることがあるくらいらしい。

 このタイプの力は平均的に生まれ持った才能を持つ人よりは力が強くなるが、とびぬけて強い人はなかなか現れないらしい。

 優衣さんに関しては小さなブラックホールや隕石を落とすことができるくらいに強度と長い射程を兼ね備えており、僕の身体能力を強化したときの力を兼ね備えている。

 正直勝てる気はしない。


 神様に特別寵愛を受けた人間はただ、加護を与えられた力に加えて、更に大きな力が与えられる。

 さすがの優衣さんも神様からは寵愛は受けてないらしい。

 今では優衣さんの家は神様から、力を与えられた一族として認知されているが、同時に、世代を超えていくにつれて、神の力を受け取るためのハードルが上がっていく。

 次の世代に神の力を引き継がせる場合、引き継がせる先の人の条件によって与えられる力が変化する。


 例えば優衣さんに力を与えた神様の場合、月9の主演女優並みの容姿でようやく力が強くなるレベルで、僕レベルの容姿の人間に神の力を引き継がせようとした場合逆に貧弱になる呪いと転じ、もしも性格の悪い子が一橋家に生まれたらとても醜い容姿で生まれることになるらしい。

 それでも周りは性格のいい人たちに囲まれて育つのでだんだんと垢ぬけていって普通くらいになるらしいが恐ろしいことだ。



「美しい、美しくないの評価は人それぞれですからね。僕は健康的な体つきの女性が好みです。具体的には胸と尻の大きい女性ですね」


 とりあえず真面目に返しとくか。

 この前に多様な会話をしてた時に僕の男友達が割り込んで話してた内容を参考にして会話を進めてみた。

 これなら大丈夫だろう。

 そいつ、クラスの人気者だし。


「……は、はぁ~」


 少し困ってる様子だ。

 もしかして優衣さんも会話があまり上手じゃないのかなぁ?

 それならあいつがその時、会話して他グループから追い出された後に僕に語ってくれた内容を話せば……


「尻と胸ってすごいですよね。僕、人見知りであんまり初対面の人とうまく話すことができないんですけど、尻と胸だけはしっかりと凝視できるんですよ。やっぱり引き寄せる不思議な引力が働いてますよね」

「……は、はぁ~……私もこれからはスクワットとベンチプレスを頑張ってみることにします……」

「いいですね!応援してます!」



 ポテトLサイズのセットを十個ほど食べ切ったころだろうか、僕のいつ死んでもおかしくない風貌は三日ぐらい断食した後のやせ型の人ぐらいのものとなった。

 あれから僕たちの会話は驚くほど発展しなかった。

 どうしてだろうか?




「そろそろですかね?一週間スターダストたちを倒してきて、コスモスに入るかどうか決まりましたか?」

「ぼ、僕が……」


 一週間も二人で一緒にスターダストを倒してきて、今更僕にこの誘いを断ることができると思ってるのだろうか?

 命の恩人でとんでもない美少女だぞ!

 それにこれまでの食事代を結構負担してくれているし……

 これで断れる奴がいたら僕は尊敬するぞ。


「……僕がコスモスに入った場合って優衣さんと一緒に戦うということになるんですよね?」


 ここで即答するというのも自分のこれからについてあまり考えてないちょろいやって思われてしまいそうでやだなぁ。

 という考えのもと適当に返事を伸ばしてみる。


「ええ、もちろんそのつもりです。亜樹の単体の最大攻撃力は私のものをはるかに上回りますし、私が亜樹に重力をかけるとさらに重いパンチができるようになる。その破壊力が私の欲しいものでしたから」


 「僕たちって相性いいですね」ということ言葉がのどから出かかったが、何となくだが、これを言ってしまうとキモがられてしまうと感じた僕は必死に言葉を飲み込む。


「――なりましょう!これからも一緒に平和を維持していきましょう!」


 これなら僕も軽い男だと思われないだろう。

 何となく満足する。

 僕もこれからずっと優衣さんという誰もがうらやむような美人さんと一緒に過ごすことができるようになるんだ。

 大満足!


「よかった~!ここまで強く身体能力を強化できる人って全然見つからないから断られてしまったらどうしようって思ったよ!」


 優衣さんも満足してくれたようだ。


「そういえば最近自然災害の話題が毎年のようにありますけど、あれってどれくらいがスターダストによるものなんですか?」


 スターダストが一体だけならまだしも、たくさんのスターダストが現れてしまったらさすがの僕でも厳しくなってくる。

 僕ですら厳しいんだ。

 ほかの人ならさらに厳しいものになるだろう。


 僕たちは県をまたいでいたとはいえ、この一週間毎日スターダストと戦ってきた。

 それでも僕たちがほかの能力者に遭遇したのは二、三回ぐらいしかなかった。

 こんなにたるんだ組織なのにこんなにも僕たちの日常が平和であったのに驚きを隠せない。


「こういったらあれだけど、ここ最近の自然災害は大体がスターダストが暴れたせいだね。だから私もこれまで一人で戦ってたのを仲間を集める方針に変えたんだし」


 まぁ、今日の戦いを見る限り、一人でもあの数を封殺できそうではあったなぁ。

 だからといって何があるかわからない中で信頼できる仲間が欲しいというわけか……

 それで人のために命を懸けれる僕を誘ったということかな?


「ここだけの話っていうか、コスモスの中では確定的な話なんだけどね、今ってこの惑星の周期的にスターダストたちの源流の惑星、ディオファントスと近づいて行ってるんだよ。だからここ最近はスターダストの数は跳ね上がっているし、十年前の大災害を引き起こしたような強力なスターダストも現れるようになってきたの」


 あれ?

 なんだかきな臭い話になってきたぞ?

 僕としてはできるだけ多くの人の命を助けたいという気持ちで入っていることは確かだけど、なんだか重要そうなことを言ってるし僕がコスモスに入るって宣言する前にそういうことは教えてほしかったな。


「なんだかハンバーガー食べながら話す内容ではないくらい重要な話をしているように思えるんですけど……」

「まぁ、何を食べても話の内容は変わらないんで……ソフトクリームとシェイク追加で注文する?」


 そういいながら財布をもって席を立とうとする優衣さん。

 これは完全に僕はヒモだな……

 僕はこれまでの人生自分が不細工ではないと確信しながら生きてきたけど、さすがに優衣さんに並び立つことができるほどかっこいいと思っているわけでもない。

 だからだろうか?

 優衣さんと一緒にいるところを周りに見られてなんでこんな男と?と疑問に思ってそうな人たちを見かけると少し足がすくんでしまう。


 僕基準でなくてもやっぱり優衣さんはあり得ないくらいの美人さんだ。

 それに気が利くというか他人を思いやる気持ちがすごいし……

 ちょっと時々抜けてるところがあるけど、きっとワザとではないだろう。

 優衣さんが追加の注文をしている間に僕は机の上に並べられた大量のハンバーガーのセットを急いて胃に詰め込む。

 どれくらい食べただろうか?

 何度追加で注文しただろうか?


 僕にはとても思い出せないけど、机の上に散らかっている残骸は嘘はつかない。

 周りに迷惑がかかるかもしれないと思いながらも六人で座る席を占領していたが、正解だった。


「……お待たせ、亜樹。もうこんなに食べたんだ。もうだいぶ体も元に戻ってきたんじゃない?すごい体だね」


 いくら僕の容姿が優衣さんと釣り合わないからってそれが原因で僕が優衣さんと距離を取らないといけない理由にはならないか。


「ありがとう」


 そういいながらソフトクリームとシェイクを受け取る。

 ソフトクリームに関しては自分用にも買ってたようでおいしそうにほおばっている。


「まぁ、さっきの話の続きになるんだけどね、最近だとコスモスに所属する人たちでチームアップして今後くるって予想される十年前の大災害を引き起こしたスターダスト、カルナクスの螺旋に備えようって動きが盛んなんだよ。私もそのビックウェーブにあやかって仲間探しをしてたんだけどね。私たちがこれまで戦ってきたスターダストは知性のない獣だったわけでしょう。だけど、カルナクスの螺旋みたいに個体名がつけられたスターダストには人と同等かそれ以上の知恵があるらしくて、さらに重要なことなんだけど、私たちに大被害をもたらしたカルナクスの螺旋ですらディオファントスの先兵の可能性が高いってことだね」


 …………?

 ……あれ?

 僕には理解できなかった。

 言いたいことは理解できるんだけど、もう少し情報を整理してほしかったな。


「……それで、結局言いたいことは?」

「強い敵が攻めてくるかもしれないから、一緒に協力して倒そうよ!」

「うん!頑張ろう!」


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