『俺達のグレートなキャンプ16 白熱・新選組で一番強い剣士論争会』
海山純平
第16話 白熱・新選組で一番強い剣士論争
俺達のグレートなキャンプ16 白熱・新選組で一番強い剣士論争
「新選組で一番強いのは誰か」
キャンプ場に突如、石川の声が響き渡った。
周囲のキャンパーたちが一瞬、自分たちに話しかけられているのかと振り返る中、テントサイトの中央に陣取った石川は満面の笑みを浮かべていた。
「いや、マジでさ。考えたことある?新選組最強の剣士って誰なのよ?」
千葉と富山は顔を見合わせた。また始まった。石川の「グレートなキャンプ」シリーズの新作だ。
「いきなり何言ってんの…」富山がため息をつく。「キャンプに来てまで歴史談義?」
石川は両手を広げ、まるで壇上に立つ講師のように振る舞った。「いやいや、それがキャンプの醍醐味でしょ!自然の中で、時間を忘れて、歴史を語り合う。これぞロマンよ!」
「でも、なんで新選組?」千葉が首をかしげる。
「だってさ、キャンプといえば火の周りで怖い話とか、侍の話とかするじゃん!そこで思いついたんだ」石川は目を輝かせて言った。「俺たち、今からここで『白熱・新選組で一番強い剣士論争会』を開催する!」
「論争…会?」富山は眉をひそめた。
「そう!みんなで討論するんだよ。新選組最強の剣士は誰か!土方歳三か?沖田総司か?それとも斎藤一か?」
千葉は意外にも食いついてきた。「おー、面白そう!俺、幕末好きだからいけるよ!」
「そうそう!千葉、わかってるね!」石川は満足げに頷いた。「でさ、まずはみんなの意見を聞きたいんだけど」
富山は呆れながらも、薪に火を入れ直した。「まあ、いいけど…でも少しは周りに配慮しなよ」彼女は声を潜め、「他のキャンパーさんたちに迷惑かけないでよ」と注意した。
「大丈夫、大丈夫!」石川は手を振り、周囲を見回した。「むしろ、みんなも参加してくれたらいいじゃん!ね?」
隣のサイトでくつろいでいた中年の男性が、思わず苦笑いを浮かべた。「いや、すみません。聞こえてましたけど…」
「あ、すみません!うるさくしてて」富山が慌てて謝る。
「いえいえ」男性は手を振った。「実は私、幕末が趣味でして。新選組なら少し詳しいんですよ」
石川の目が輝いた。「おお!なんというグッドタイミング!」
「私も参加していいですか?」反対側のサイトから若い女性が声をかけてきた。「土方さんのファンなんです」
「もちろん!」石川は両手を広げた。「新選組愛があれば誰でもウェルカム!」
富山は呆れつつも、これが石川の持つ不思議な力だと思った。彼のポジティブさは、いつも人を巻き込んでいく。
「よーし、じゃあまずは簡単な自己紹介と、誰を推すか言ってみようか!」石川が拍手して言った。「俺から行くと、石川、28歳、フリーランスのデザイナー。推しは沖田総司!神速の剣の使い手、天才剣士ってのがカッコいいだろ!」
「俺は千葉、27歳、会社員です。推しは斎藤一!左利きの鬼剣士、いわゆる『鬼の斎藤』ってやつっす!」
「私は富山、27歳、編集者。えーと…特に推しはいないけど…」
「そんなのダメだろー!」石川が突っ込む。
「もう、じゃあ永倉新八で!」富山が適当に言った。
中年男性も続いた。「山口と申します。48歳、高校教師です。私は土方歳三推しですね。鬼の副長、その名は伊達じゃない」
「私は加藤、25歳です!会社員です!」若い女性が元気に言った。「土方さん一択です!カリスマ性が違います!」
すると、さらに別のサイトからも声がかかった。「俺も参加していい?藤村、31歳。天然理心流の道場では近藤勇が最強って言われてたけどな!」
「あれ、こんなに増えるとは」富山が驚いた。
石川は満足げに手をこすり合わせた。「これはグレートなキャンプの予感しかしないね!さあ、論争スタートだ!」
「まず基本情報を共有しようか」石川が言った。「新選組の主な剣術使いといえば、近藤勇、土方歳三、沖田総司、斎藤一、永倉新八あたりが有名だよね」
「そうですね」山口が補足する。「彼らはみな天然理心流の使い手でした。特に沖田総司は『神速』と称され、道場破りにきた剣士を瞬殺したという逸話もあります」
「沖田さんといえば」加藤が目を輝かせて言った。「池田屋事件での活躍が有名ですよね!敵の背後から一刀で斬り伏せたという…」
「それ、実は土方さんの活躍だったっていう説もあるんですよ」山口が指摘した。
「え?」加藤が驚く。「でも教科書にも沖田さんって…」
「いや、池田屋での活躍は土方さんの方が大きいっていう資料もあるんだ」藤村が割り込んできた。「沖田は肺病で弱ってて、あんまり動けなかったって」
「そんなことない!」石川が立ち上がった。「沖田は確かに病弱だったけど、池田屋では最初に突入したグループにいたはずだぞ!」
「いやいや」山口が首を振る。「記録によると、突入したのは土方隊で…」
「おいおい、突入隊の隊長は近藤勇だろ!」藤村が声を荒げた。
千葉が手を挙げて「ちょっと待って、みんな。その前に各剣士の代表的な活躍を確認しようよ。俺から斎藤一の伝説的な話を…」
「ちょっと、みんな落ち着いて」富山が焚き火に薪を追加しながら仲裁に入った。「順番に話そうよ」
石川は興奮気味に「そうだそうだ!じゃあ順番に、まずは沖田総司の伝説から!」
「沖田総司といえば」石川が立ち上がり、即興の殺陣を披露し始めた。「天才剣士と呼ばれ、試衛館道場時代に『神速』の異名を取った男だ!道場破りが来るたび、一瞬で勝負を決めたという…」
「おいおい、そんな大げさな演技いらないから」富山がツッコミを入れた。
石川は構わず続ける。「特に有名なのが三条河原での逸話!京都三条大橋の河原で、浪士たちに囲まれた沖田が、一人で何人もの敵を瞬時に倒したんだ!」
「それ、証拠あるの?」藤村が疑問を投げかける。
「どうだったっけ…」石川が首をかしげる。「まあいいじゃん、カッコいいから!」
千葉が笑いながら「石川、歴史談義なのに『カッコいいから』はダメだろ」
「いやいや」加藤さんが熱く割り込んできた。「土方歳三こそ実力者です!天然理心流の教授代も務め、多くの試合で勝利を収めています。そして何より、組織を率いる副長として、現場でも指揮を執りながら戦った実力は本物です!」
「土方さんの伏見寺田屋での活躍は有名ですよね」山口が続いた。「周囲を敵に囲まれながらも、見事に脱出した話は…」
「それ、マジでそんな話あった?」千葉が疑問を投げかける。
「いや、土方が寺田屋にいたかどうかは…」藤村が首を振った。
「じゃあ池田屋事件での活躍は?」加藤が反論。「土方さんは最初に突入して…」
「だから、それは近藤隊長だって!」藤村が声を荒げた。
両者の間に緊張感が走る。石川が急いで間に入った。「まあまあ、どっちも素晴らしい武士だったことは間違いないでしょ!次は斎藤一の話を聞こうよ!千葉、お願い!」
千葉はニヤリと笑った。「斎藤一、別名『鬼の斎藤』。左利きの剣士として恐れられた男だ。彼の最大の活躍は、やはり『一番隊組長』として数々の暗殺任務をこなしたことだろう」
「あ、暗殺はちょっと…」富山が心配そうに言った。
「いや、歴史的事実だから」千葉は熱くなって続けた。「特に有名なのが、『壬生村浪士組』時代、京都の治安悪化に対して『粛清』を行った逸話だ。闇に紛れて悪人を斬る、まさに影の剣士!」
「でもそれって、ただの暗殺じゃ…」加藤が眉をひそめた。
「いやいや、当時の京都の治安は最悪で、彼らの行動は必要だったんだ」千葉は身振り手振りで説明する。「そして斎藤は独自の左手による『平手打ち』という技を使い…」
「それの証拠は?」山口が尋ねた。
「えっ、いや…史料的には曖昧かもしれないけど…」千葉が言葉に詰まる。
「ほらみろ!根拠のない話をしてるじゃないか!」藤村が指を指す。「近藤勇こそ最強なんだ!彼は道場破りと呼ばれる坂本龍馬の盟友・力石徳松を打ち負かした記録がある!」
「いやいや、沖田の方が強かったって天然理心流の記録に…」石川が割り込む。
「土方さんの方が組織力を含めれば…」加藤も負けじと主張。
火を囲んだ論争は、徐々に白熱していった。
「このテーブルをドージョーに見立てて実演しよう!」興奮した石川が、キャンプテーブルに飛び乗った。
「おい、危ない!」富山が叫んだ。
「沖田の神速の剣はこうだ!」石川がプラスチックのスプーンを持って振り回す。
「いやいや、土方さんならこうです!」加藤も負けじと割り箸を持って立ち上がった。
「斎藤一はこんな感じで左から…」千葉も加わる。
「近藤勇の剣術はもっと力強く…」藤村も参戦。
テーブルの上でプラスチック製カトラリーを剣のように振り回す4人。富山は頭を抱えた。
「ちょっと!テーブル壊れるよ!」
「沖田が最強だ!」
「いや、土方さんだ!」
「斎藤一に決まってる!」
「近藤勇を忘れるな!」
四つ巴の論争は、いつの間にか口論からプラスチック製の「刀」を交えた即興殺陣に発展していた。
「永倉新八も忘れないでー!」富山も思わず熱くなって叫んだ。
「そもそも戦いの状況によって強さは変わるだろ!」石川が主張する。
「その通り!一対一なら沖田、集団戦なら土方さん!」加藤も譲らない。
「斎藤は奇襲に強かった!」千葉が言い返す。
「近藤は…」藤村が言いかけたとき、テーブルから「バキッ」という不穏な音が響いた。
一瞬の静寂。
「あーっ!テーブル折れた!」富山が叫んだ。
4人がバランスを崩し、テーブルとともに派手に倒れる。薪の一部が崩れ、火の粉が舞った。
「うわっ、危ない!」山口が急いで水をかける。
「大丈夫か!?」隣のキャンプサイトからも心配の声。
木々の間から、キャンプ場の管理人らしき人物が懐中電灯を照らしながら駆けつけてきた。
「どうしたんです!?火事ですか!?」
富山は真っ赤になって頭を下げた。「すみません!友達がバカなことを…」
倒れた4人は、床に転がったまま目を合わせて…
突然、爆笑が起きた。
「はははは!沖田VS土方VS斎藤VS近藤、決着つかず!」石川が腹を抱えて笑う。
「勝負は…引き分けということで!」千葉も笑いながら言った。
管理人は呆れた表情で「騒ぎすぎないように。他のお客さんもいますからね」と注意して去っていった。
収まったテーブルの代わりに、地面に敷いたレジャーシートを囲んで座り直した一同。
「ごめんなさい」石川が頭を下げた。「テーブル、弁償します」
「マジで盛り上がりすぎた」千葉も反省の色を見せる。
「あんたたち…」富山はため息をついたが、微笑みも浮かべていた。「でも、久しぶりに笑った」
「実は」山口が静かに口を開いた。「新選組の強さって、個々の剣の腕前だけじゃなかったんですよね」
全員が耳を傾けた。
「彼らの強さは、志を同じくする仲間との絆。それぞれが持つ個性と技を合わせて、一つの『組』として機能したからこそ、幕末という激動の時代に名を残せたんだと思います」
「なるほど…」石川が感心したように頷いた。
「土方の統率力、沖田の剣技、斎藤の冷静さ、近藤の人望…みんなが違う強さを持ち寄って、一つの組織になった。それが新選組の本当の強さかもしれませんね」
「なんだか、俺たちのキャンプみたいだな」千葉がぽつりと言った。
「え?」富山が首をかしげる。
「石川の発想力、富山の思いやり、俺の…まあ、何かあるでしょ」千葉が笑う。「みんな違うけど、一緒にいるからこそのグレートなキャンプになるんじゃない?」
石川は目を輝かせた。「そうだ!これこそ俺が目指す『奇抜でグレートなキャンプ』の神髄だ!」
周囲のキャンパーたちも笑顔で頷いた。「面白かったです。歴史を学びながら、こんなに楽しめるなんて」
「テーブルは壊れたけど」富山がクスリと笑った。「今回のキャンプは確かにグレートだったかも」
「よーし!じゃあ次回の『俺達のグレートなキャンプ17』では…」石川が新たな企画を思いついた様子で言いかけた。
「もう考えてるの?」富山が呆れた表情を浮かべる。
「次は『幕末志士イケメン総選挙』はどうだ?」石川が提案。
「それやったら絶対また殴り合いになるから!」富山が真顔で制止する。
千葉は「でも面白そう」と興味津々。
夜空には星が煌めき、焚き火の炎がゆらめく。歴史を語り合い、テーブルを壊し、絆を深めたこの夜は、確かに「グレートなキャンプ」の新たな一ページとなった。
爆笑と反省と感動が入り混じった、これぞ石川流の奇抜なキャンプの真骨頂だった。
次回の「俺達のグレートなキャンプ17」では、どんな奇抜な企画が繰り広げられるのか。それはまた別の物語。
【おわり】
『俺達のグレートなキャンプ16 白熱・新選組で一番強い剣士論争会』 海山純平 @umiyama117
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます