【書籍化】転生冒険者、ボッチ女神を救う ~もふもふ達とのんびり旅をしていたら、魔法を極めてた~
黄昏
幼馴染の二人
トーアレドにあるダンジョンの一角で、二人組の若い冒険者が魔物と戦っていた。
彼らは男女で組んでいるようで、唸り声をあげ今にも飛びかかって来そうな魔物に、緊張した様子の男性は剣の柄を握りしめ、中段に構えた切っ先を向け対峙している。
その背中に守られるように、少し離れて立つ小柄な女性冒険者は、集中力を高め攻撃の隙を伺っている。
その時魔物が動き出した!
しかし、四つ足の内どこかを痛めているようで動きに精彩を欠いている。
男は剣の切っ先を向ける事で、魔物が攻撃してくる箇所を上手くコントロールし、弱った魔物が無理な体勢から突進して嚙みつこうとする不自然な動きを搔い
━━ザンッ!
「ギャンッ!」
力強いその一閃は、襲い来る魔物の首筋に吸い寄せられるかの如く、流れるような一刀の下に倒れ伏した。
「フィールズ、お疲れ様」
「メイリアこそありがとう。グレイウルフを先制攻撃の魔法で弱らせてくれたから、隙が多くて倒し易かったよ」
心地よい声音で答えるフィールズは、屈託のない眩しい笑顔を見せる。そんな彼を労うメイリアは頬を染め、ますますフィールズに思いを寄せるのであった。
「あっちで動けなくなっているグレイウルフに止めを刺して来るね」
「うん、気を付けて。こっちで魔物を回収していくね」
メイリアは他の冒険者から視線を向けられていないか周囲を確認し、懐からマジックバッグを取り出し、倒れているグレイウルフを収納する。
二人でトーアレドダンジョンに潜るには、できる限り隙を見せないように気を配る必要がある。
グレイウルフの解体も、倒した場所では行わず回収するに留め、比較的安全な一階層に戻ってから人目を避けて解体作業をしている。
「やっぱりこの武器は切れ味が鋭くて使いやすいよ!」
フィールズは嬉しそうに死闘の末に得た、ブレードドールウルフの素材で作った剣を掲げる。
「素材を譲ってくれたエルには感謝しないとね」
「……そうだね」
エルの事が話題に上ると声を落とすフィールズ。表情にも影が落ちる。
小さな頃から一緒に冒険者をすると約束していたのに、方向性の違いから別々の道を歩むことになったのを今も悔やんでいる様子。
「そんなんじゃエルが心配しちゃうよ! 心残りなく旅立てるように、わ…、わたしにプ、プロポーズしたんでしょ!」
自分から口にするのは恥ずかしいのか、言い淀むメイリア。
「エルのためじゃなくて、メイリアが大好きだって気付いたからだよ!」
フィールズのその一言で、一瞬の内に耳まで赤らめるメイリア。逆に元気を取り戻すフィールズ。
「そ、それは、ありがとう」
辛うじてお礼はいえたメイリアだが、しどろもどろになって収拾がつかない。
「ダンジョンでするような話しじゃないから、清算を済ませてゆっくりと話そう」
「ええ、そうよね。行きましょう」
二人は一層でグレイウルフの解体を済ませ、魔石や素材を冒険者ギルドに持ち込み、上々な成果に二人は相好を崩し家路へと急いだ。
◇◆◇
長期滞在で利用している角ウサギ亭の一室に帰った二人は、ソルジャーアントの防具を解いて楽な姿勢を取って一息つく。
二人が並ぶと大人と子供ほどに背丈に差が出るが、いまはベッドに腰かけていてその差も少ない。
隣に座るフィールズにしなだれかけ身体を預けたメイリアは、胸元に乗せた顔を上げ、上目遣いに目を合わせる。
互いの鼓動が高まるのを感じ、言葉は要らないとばかりに顔を近づけた。
「……んっ、……はぁ」
長く影を重ねた二人はリップ音を鳴らし、ようやく離れると熱い吐息がもれた。
離れても見つめ合う互いの頬は上気し、身体は激しい熱を持つ。
「赤ちゃんができちゃうよ?」
「ふふっ。キスくらいじゃ子供はできないわよ」
「どうしたらできるの?」
「そ、それは……フィールズにはまだ早いわっ」
フィールズの素朴な疑問に狼狽するメイリア。王立賢王養護施設にいた年上の女の子に聞いたのか、耳年寄りになっているようだ。
「それに……。子供ができたら、フィールズがダンジョンで一人になるもの。心配よ」
「う~ん。やっぱりずっと二人でという訳にはいかないかぁ~。仲間を増やす必要があるね。流星の欠片に入れてもらうのはどうかな?」
「騎士を目指すジェレイミがいつか抜けるものね。あちらも人数が減る予定があるから、一緒に冒険するのも良さそうね」
「明日、声をかけてみよう!」
顔見知り且つ、二人の性格も概ね知られている。
互いにパーティーメンバーとして迎えられるには良い条件が整っている。
「二人でもそれなりに稼げるけど将来を考えると……、助け合う仲間は必要よね」
「エルが居た時みたいにね!」
自分から言って、また気落ちするフィールズ。
「エルが居なくても大丈夫だと話し合っていたところなのに、思い出さないでっ!」
エルの存在は楽しかった幼少期の思い出として、二人の心に深く刻まれていた。
気の置けない仲間としてエルに心配をかけないよう、将来を見据えた新たなパーティーの形を模索するのだった。
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