空の箱庭

sui

空の箱庭


風も、音も、色もない場所。

そこに、小さな箱庭が浮かんでいました。


土はなく、草もなく、水も流れていません。

ただ、透明な空気だけが静かに満ちていて、誰もいないのに、どこか懐かしい。


ある日、その箱庭に、一枚の羽根が降りました。

それは、羽ばたきの音もしない、小さな白い羽根。

まるで、誰かがそっと「ここにいてもいいよ」と言ってくれたみたいでした。


羽根が落ちたところに、ぽつんと花が咲きました。

名前もにおいもない花。

けれど、見る者の胸に、ふわりとあたたかい何かを残しました。


それから少しずつ、箱庭に色が増えていきました。

ほんの少しの水音。かすかな風の手触り。

誰のものでもない、やさしい居場所。


けれど、それはとても静かな変化で――

空っぽのままのように見えて、空っぽじゃない。

その箱庭は、ただ「そこにある」ことを選びました。


もしも誰かが迷い込んだとしても、

きっと何も尋ねず、ただ寄り添ってくれるでしょう。


名前も意味も持たないけれど、

そこに咲いた花は今日も風に揺れています。


あなたがまた来る日を、

静かに、待ちながら。

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空の箱庭 sui @uni003

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