宗介って誰なんだよ
しお しいろ
第1話
「ほら、
「あのさぁ……」
目の前のおばあちゃんはせっせともちをすすめてくる。
「ああ、緑茶冷めてしまったねえ、今、温かいの淹れなおすから」
「だからさあ、ばーちゃん」
ゆっくりと立ち上がるおばあちゃんを見上げながら、
「俺は泥棒!宗介なんて知らないんだってば」
くだらない人生だった、と透は思う。
小さい頃親に捨てられて、施設を転々として、十五歳になる頃には立派にグレていた。
高校は途中で行かなくなって、コンビニやカラオケ屋でバイトをしたけど寝坊してすぐクビになって、次は住み込みでキャバクラの黒服になったはいいもののすぐに誰かと揉めて、そんなことを繰り返してたらどこも雇ってくれなくなった。
ありがちといえばありがちだし、可哀想といえば可哀想なのかもしれない。
自業自得といえば自業自得だし、努力が足りないといえば努力が足りないのかもしれない。
でも、もう考えるのが面倒だった。
自分が悪いのか、親が悪いのか、環境が悪いのか、何かのせいにしてしまうこの性格が悪いのか。
もうどうでもよくなってしまった。
死ぬなら見晴らしのいいところにしようと思った。
そこで、最初にいた施設の近くに山を思い出した。
観光客で賑わっていた山だがそれは表向きのコースで、裏側は整備されておらず木々も生い茂っており、「勝手に遊びに行くな」と当時先生からはきつく言われていたのだ。
自分は人生で「高いところ」にいたことがない。いつでも底辺で、何かを見上げてばかりだった。
だから、あらゆるものを見下ろしながら死にたい。
その山がちょうどいいんじゃないかと思った。
そして。
電車とバスで三時間。
思いついて来たものの、どうにも腹が減っていた。
まあどうせ死ぬしこのまま登ろう、と思ったのだが、空腹でぐるぐるとずっとお腹が鳴っている。
そういえば、ここ数日金がなくてろくなものを食べていない。先日働いていたキャバクラの女とつい寝てしまったらそれがヤクザの女で、ボコボコに殴られた挙句金も全て取られてしまったのだ。
このままでは先に餓死してしまうかもしれない。それは望んだ死に方ではない。
……仕方ない。
小銭くらいはあるだろう。コンビニで弁当でも食ってからにしようと思って財布を見て、驚いた。
……三十五円しか入っていない。
これにはさすがにびっくりした。まさか百円玉も入っていないだなんて。俺、本当に貧乏だったんだな。
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