第5話


俺はリコの問いに答えたいと思った。全力で「そうだ」と言いたかった。しかし、俺の身体には声を出す機能なんて存在しない。もどかしい感情が渦巻き、意識が暴れ回る。俺がどれだけ彼女に向かって言葉を発しようと試みても、その努力はただの沈黙に飲み込まれる。


リコはしばらく俺を見つめていた。まるで俺の沈黙が何かを語っているかのように。その目には一瞬だけ、探るような、もしかすると期待するような光が宿った。だが彼女はすぐに目をそらし、鼻で笑った。「何よ、やっぱりただのクソじゃない。」


そう言いながらも、リコの手つきは何かしらの躊躇を含んでいた。彼女が俺をテーブルの上に戻すその動作には、わずかながら優しさが感じられる。俺は答えられなかったが、それでも何かが伝わっているような気がした。いや、そう信じたいだけなのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る