第五話 ベネディクト国王陛下の夢

 ベネディクト国王陛下を客室に案内し、話をすることになった。

 

 「シルヴィア。私がこれほどまでにそなたを信用している理由が分かるか?」

 「公爵令嬢だからでしょうか」

 「それもあるが、そなたが自分の力を悪用していないからだ。今は領民のために尽くしているだろう?」

 「はい、領民の生活水準を上げています」

 「これは単なる甘えかもしれないが、私の夢を叶えてくれると信じている。シルヴィアよ、この国を豊かにしてくれ」

 

 この国を豊かにすることが夢なのか。国王らしいと言えば国王らしい。

 

 「分かりました。この国をもっと豊かにしてみせます」


 公爵令嬢である以上、国のために働かないといけない。国を近代化させるくらいお安い御用だ。でも、何で私をこれほどまでに信頼しているのだろう。絶対やってのけると信じているのかな。なら、その信頼に応えないといけない。


 「シルヴィア。クリフォードの件だが、本当に申し訳ないと思っている」

 「ベネディクト国王陛下、お気になさらないでください」

 「だが、今でも辺境の地で静養しているのだろう? 本当に大丈夫なのか?」

 

 仕方がない。本当のことを言おう。


 「辺境の地に住んでいるのは、静養のためと私の力を存分に振るえるからです」

 「力を存分に振るうため……。なら、王都で存分に力を振るってもいいぞ」

 「本当によろしいのですか?」

 「王都を豊かにしてくれるなら存分に力を振るってもらって構わない。なんなら、許可証を発行してもいいぞ」


 許可証か。もらっておいて損はない。

 

 「では、許可証をいただけますか?」

 「アノス、話は聞いていただろう。紙と筆を用意してくれ」

 「分かりました」


 許可証を貰えば、誰かに聞かれた際に提示することができる。持っていて損はないけど、できれば国王直々の命令だと記入してもらいたい。そうでないと、またクリフォード様に文句を言われる。私としては、もううんざりだ。


 「ベネディクト国王陛下、国王様直々のご命令ですよね?」

 「そうだとも。許可証にはそう記すつもりだが?」

 

 ベネディクト国王陛下の前で安堵の表情を浮かべた。

 それを察してか、ベネディクト国王陛下がクリフォード様を凄い目で見つめている。

 そう、私が脅威と思っているのはクリフォード・ヴァリアント。エレナと婚約したときのように私を責める可能性があるからだ。私としてはいわゆる邪魔者だ。


 「クリフォードよ、何故そこまでシルヴィアに執着する?」

 「シルヴィアは自分勝手にしたいだけです。何故それが分からないのですか?」

 「自分勝手に? 私の願い通りに仕事をしているだけなのに?」

 「それは……」


 ベネディクト国王陛下の堪忍袋の緒が切れそう。大丈夫……、じゃない。


 「いいか? よく聞け。シルヴィアはこの国、ヴァリアント王国の文化を発展させているのだぞ。何故そこまで否定する? 何が気に食わないのだ?」

 「シルヴィアが俺のことを愛していなかったのが気に入らない。だから、婚約破棄された時に平然としていられたんだ」

 「それは違う。お前が本性を露わにしたからだ」

 「俺の本性? そんなの分かっていたはずだ」

 「それも違う。シルヴィアはお前の本性を知らなかった。そして、利用されたくなかったのだ」


 クリフォード様がベネディクト国王陛下に否定されている。でも、私は助けない。何故なら、クリフォード様は私を裏切ったからだ。

 婚約破棄をする際に見せた本性。私は一生かかっても忘れられない。


 「なら、俺にどうしろと?」

 「黙って見ていろ。そして、邪魔をするな」

 「……分かりました」

 

 これで終わりだと思っていない。ベネディクト国王陛下の目の届かない場所で何かされるかもしれない。やはり、護衛としてスレナを連れてきて正解だ。


 「兄上。これ以上、シルヴィア様に関わらないでください」

 「ロイ、シルヴィアと婚約できたからって調子に乗るな」

 

 クリフォード様が凄い剣幕で客室から出ていった。これで少しは大人しくなるだろう。


 「シルヴィア、嫌な思いをさせてすまない」

 「クリフォード様はどうして私に拘るのですか?」

 「恐らくだが、シルヴィアが美人だからだと思う。愛想はあまり良くないがな」

 

 愛想がないのは生まれつきです。と言いたいところだけど、それは美人でいる秘訣を知っているからであって、本当に愛想がないわけではない。笑うときは笑うし、泣くときは泣く。感情がないロボットではないのだ。


 「ベネディクト国王陛下。シルヴィア様は愛想が良くないのではなく、感情表現が乏しいだけです」

 「そうなのか? スレナ」

 「はい。辺境の地にある家ではいつも可愛らしいお姿を見せていますよ」


 それは否定できない。スレナ、余計なことを言うな。


 「ロイ、シルヴィアと幸せにな」

 「はい、父上」


 お父様が紙と筆を持って立っている。そう言えば、許可証を発行してもらうんだった。


 「シルヴィア、少し待っていてくれ」

 「かしこまりました」

 

 ベネディクト国王陛下が許可証の作成に取り掛かった。これで誰にも文句言われずに仕事ができる。


 「シルヴィア様、良かったですね」

 「はい。これもロイ様のお陰です」

 

 ロイ様の多大な功績を評価したい。王都での仕事が始まったら、ロイ様に付き添ってもらおう。その方が絶対に捗る。


 「ロイ様、お願いがあるのですが」

 「何でしょう?」

 「これからも側にいてくれますか?」

 「もちろんです! ずっと側にいます!」

 

 なんでこんなにも真っ直ぐなんだろう。ロイ様に裏表がないのは、純粋な心があってのことだ。これからもずっと側にいたいな。


 「ロイ、シルヴィアを支えてやってくれ」

 「分かっております、父上」

 

 ベネディクト国王陛下の夢は絶対に実現させる。王都を近代化させ、国民の生活を豊かにし、笑いの絶えない国にする。私にできることはこれくらいしかないけど、頑張ろう。


 「シルヴィアもロイを支えてやってくれ」

 「分かっております。ベネディクト国王陛下」


 さて、これからどんな仕事をしていこう。この先が楽しみだ。


 


 

 

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