第三話 夜中の灯

 グランヴェル邸に太陽光発電システムを導入してから一週間が経った。私は今、グランヴェル領にいる領民の家に太陽光発電システムの設置をしている。領民の反応は凄まじく、私が用意した電化製品を全て買い占めるほどだ。もう手が回らないくらい大変である。

 

 「お父様、主都の郊外に太陽光発電所を設けてもよろしいでしょうか?」

 「郊外に? 別に構わないけど、水力発電所はどうするんだい?」

 「水力発電所は追々設けます」


 郊外に太陽光発電所を設け、発電量を確実なものにする。そして、太陽光発電所での発電が乏しくなったときのために水力発電所を設け、生活に支障が出ないようにする。まず、グランヴェル領で上手くいくかが肝だ。


 「それと、街灯を設けたいのですが、よろしいでしょうか?」

 「街灯? それは良いね。是非設置してくれ」


 この世界には街灯というものがまだ存在していない。ここで設置すれば、社会に大きく貢献することになる。さて、作業に取り掛かろう。


 「シルヴィ、頑張り過ぎないでね。倒れたら大変だわ」

 「分かっております。お母様」


 毎日作業をしているが、体力に限度があるので無理をしないようにしている。でも、一週間でだいぶ太陽光発電システムを導入することができた。敢えて言えば、現段階でグランヴェル領は近代化が進んでいる。この調子でいけば、グランヴェル領は近代都市として成立するだろう。


 「シルヴィ、太陽光発電システムを導入してから生活が楽になったよ。部屋に電灯が設けられたお陰で夜も仕事ができるし、生活習慣もガラリと変わった。これも全てシルヴィのお陰だよ」

 「お役に立てて光栄です。お父様」

 

 ロイ様の協力の元、仕事がスムーズに進んでいる。今思えば、ロイ様を助手にして良かった。領民への説明も上手だし、なにより国民から信頼を得ている。


 「では、ロイ様のところに戻りますね」

 「うん、気を付けて。無理はしないようにね」

 「はい」


 お父様の書斎から離れた。ロイ様は現在、郊外で太陽光発電所の設置をする為の準備をしている。労働者を集めて土地を整備しているのだ。


 「スレナ、お待たせ」

 「シルヴィア様、お父上とのお話は終わりましたか?」

 「現在の進捗状況を説明してきたわ。それでお願いがあるのだけど」

 「何でしょう?」

 「主都全体に街灯を設置したいの。護衛を頼めるかしら」

 「護衛ならお任せください。それと、ロイ様から伝言があります」

 「何?」


 ロイ様からの伝言。何だろう。


 「『現在、郊外の整備が進んでおりますが、一週間ほどかかる予定です。今しばらくお待ちください』、だそうです」

 「分かった。では、街灯の設置をしておきましょう」


 街灯と言ってもただの街灯じゃない。太陽光パネルで発電し、蓄電池に電気を溜め、暗くなったら発光するというもの。電球はLEDを使用する。まさに近代的な代物だ。


 「シルヴィア様、街灯の設計図は出来上がっているのですか?」

 「できているわよ」

 「抜かりがないですね。さすが、シルヴィア様です」


 屋敷の外に出る為、廊下を歩く。

 サラとマリアは今頃何をしているんだろう。畑仕事でもしているのかな。


 「スレナ。今度来るときは、サラとマリアも連れてきましょう」

 「そうですね」


 屋敷のロビーに辿り着いた。メイドが忙しなく仕事をしている。


 「シルヴィア様、体のお加減はいかがですか?」

 「セバス、お疲れ様。体の方はもう大丈夫よ」

 「そうですか。良かった」

 「今から仕事に行くけど、セバスも来る?」


 セバスが目を見開いた。思い掛けない誘いに驚いたのかな?


 「そうですね。護衛が多い方がやりやすいでしょう」

 「では、ついて来て」

 「かしこまりました」


 執事長のセバスチャンと護衛のスレナを連れて屋敷を出た。グランヴェル領の主都は結構広い。今日はメイン通りに街灯を設置しよう。


 「セバス、仕事の相談なのだけど」

 「何でしょう?」

 「街灯を設置するならどれくらいの間隔を空ければいいと思う?」

 「そうですね……。二軒置きに設置するのはいかがでしょう」

 「二軒置きね。よし、取り掛かろう」


 通りにいる人達が私達に注目している。

 一応、太陽光発電システムを設置した家の領民には、ロイ様から私の力のことを説明してもらっている。でも、一目でもいいから見てみたいという好奇心があるようで、こうやって人が集まるのだ。


 「では。いでよ、街灯!」

 

 一本目成功。次だ。


 二軒置きに設置していく。

 創造の力は純粋に体力を消耗する。昨日は十分に休んだから百本くらい大丈夫だろう。


 「シルヴィア様、無理はなさらないようお願いします」

 「分かったわ。途中で休憩してもいい?」

 「もちろんで御座います。その際は申し付けください」


 アノス・グランヴェル公爵の娘ということもあり、外食などをする際はお勘定を後払いできる。今日はセバスが同行しているから、その心配はない。

 さて、頑張るか。


 「スレナ、セバス、ちょっと試したいことがあるのだけど」

 「何をですか?」

 「街灯を一度に設置できるか実験したいの。やらせて?」

 「分かりました。では、お試しください」

 

 主都全体をイメージして、二軒置きに街灯を設置する。これは空間にある物質を把握する必要がある。

 よし、把握完了。いでよ、街灯!


 「主都全体に街灯が次々と現れています! 凄い!」


 ちょっと立ち眩みがする。力を使い過ぎたか。

 

 「シルヴィア様、大丈夫ですか?」

 「ちょっと力を使い過ぎたみたい。休んでもいい?」

 「もちろんです。さあ、喫茶店で休みましょう」


 本当だ。街灯が二軒置きに設置されている。あとは夜になるのを待つばかりだ。


 「すまない。シルヴィア様に紅茶とお菓子を」

 「はい、ただいま!」


 今、私はグランヴェル領で偉人として称えられている。そのせいか、神様として崇める人が後を絶たない。


 「シルヴィア様、甘いお菓子をどうぞ」

 「ありがとう」


 甘いシフォンケーキだ。これも私が作り方を教えたもの。凄く美味しい。


 「美味しい……」

 「そうですか? ありがとう御座います!」


 甘いシフォンケーキを食べたら体力が回復した。紅茶も美味しい。


 「シルヴィア様、少し休んでからお屋敷に戻りましょう」

 「そうね」

 

 喫茶店の店主に勘定をしたいと言ったら、お勘定はいらないと言われた。これも私の偉業のお陰である。


 「日が沈んできましたね。あっ、街灯が点いている!」


 主都全体が明るくなった。これは成功したと言える。


 「シルヴィア様、これで夜中でも安心して歩けます」

 「そうね」


 私はセバスとスレナに微笑み掛け、紅茶を飲んでゆっくりと体を癒した。

 

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