第十話 追求

 一晩過ごし、辺境の地に戻ろうとしたときのことだった。


 「シルヴィア、やっと会えた」

 

 なんと、グランヴェル邸にクリフォード様が現れたのだ。私は気が動転し、サラの後ろに隠れた。


 「何の御用ですか?」

 「シルヴィア、話がある。そのままでいいから聞いてくれ」

 

 私はサラの後ろに隠れたまま、耳を傾ける。

 

 「君はエレナの素性を知っていたのか。なら、何で警告しなかったんだ。教えてくれ」

 「クリフォード様がエレナのことばかり見ていたので言えなかったのです」

 「では、何で辺境の地にいるんだ? 実家を離れている理由が分からない」

 

 辺境の地に家を構えたのは、自由気ままなスローライフを送る為だなんて言えない。クリフォード様は私が辺境の地にいる理由を知りたがっている。なら、傷心を癒すためと言うしかない。


 「傷心を癒すためです」

 「それは認める。だが、辺境の地での行いはどう説明する」

 

 辺境の地での行い? 

 分かった。ロイ様から電化製品などの情報を聞き出したんだ。それに私の口から直接聞き出そうとしている。この際だから言わせてもらおう。


 「辺境の地での行いについてなのですが、傷心を癒すために快適さを追求した結果、便利な道具を発明することに至ったのです」

 「その便利な道具はどうやって作った?」

 

 ベネディクト国王陛下は他言していない。クリフォード様は私から直接聞き出して真相を明らかにしようとしている。これは私が秘密を打ち明けるまで終わりそうにないな。


 「私の特殊能力で作りました」

 「特殊能力? どんな能力だ?」

 「紙に描いたものを創造する力です」


 クリフォード様が笑っている。私を利用して快適な生活を手に入れようとしているのか。なんて奴だ。ここまで性根が腐っているとは……。婚約破棄して良かったかもしれない。

 

 「何故その力を国の為に使わないんだ?」

 「力を使うことで私の体力が消耗します。大量生産なんてできませんよ」

 「シルヴィア。私が何を許せないでいるのか分かるか?」

 「分かりません」

 「では、教えてやろう」


 何を許せないでいるんだ?

 エレナの素性を知った上で婚約破棄したから?

 それはクリフォード様の勝手だ。私のせいではない。


 「俺が許せないでいるのは、君がすんなりと身を引いたことだ。君には未練がないのか。何なんだ、辺境の地での生活は」

 「クリフォード様。私に未練がないのは、ロイ様に気があるからですよ」


 ロイ様、ごめんなさい。貴方を利用させていただきます。


 「ロイを? 何があったんだ?」

 「ロイ様は私の身を案じてくれました。そして、私の力にもなってくださいました。私としては、ロイ様と結婚した方が良いのです」

 

 クリフォード様がまた笑った。何なんだ。


 「ロイと結婚? 冗談も休み休みに言え」

 「冗談ではありません。本気です」

 「……諦めないぞ。俺は絶対諦めない!」

 

 往生際の悪い人だ。今更何を諦めないんだ。


 「シルヴィア。俺と婚約してくれないか?」

 「嫌です」

 「そうはっきり言うな。俺は本気なんだぞ」

 「私も本気です。もういいですか?」


 サラがオドオドしている。壁にしているから余計か。

 

 「……分かった。今日のところは引く。だが、また訪ねるからな」

 

 クリフォード様がグランヴェル邸から出ていった。

 やっと終わった……。


 「サラ、ごめんなさいね。壁にして」

 「いっ、いえ、大丈夫です」

 「さあ、我が家に戻りましょうか」

 

 セバスが馬車の準備を済ませて待っている。よし、帰ろう。


 「セバス、帰ります」

 「かしこまりました」

 

 私はサラを連れて馬車に乗り、辺境の地にある我が家に戻った。




                  *




 辺境の地にある我が家に到着してすぐに、スレナとマリアが駆け寄ってきた。

 

 「シルヴィア様、おかえりなさい!」

 「ただいま。ちゃんと家を守った?」

 「守りましたよ。さあ、こちらへ」


 家の中に入ってリビングのソファーに腰掛けた。

 スレナが冷蔵庫からアイスティーを取り出してグラスに注いでいる。気が利くな。


 「どうぞ」

 「ありがとう」


 スレナとマリアにも事情を説明した方が良いよね。よし、話そう。


 「スレナ、マリア、聞いて」

 「はい」

 「お父様に創造の力について説明したわ。ベネディクト国王陛下にも話したそうだけど、他言無用にしてくれている。でも、クリフォード様が……」

 「クリフォード様に何か言われたのですか?」

 「復縁を申し込まれたの。当然、嫌だと断ったけどね」

 

 スレナとマリアが胸を撫で下ろした。そうした方が正解ってことかな。


 「とにかく、また来訪者がやってくるかもしれない。注意しておいて」

 「分かりました。この家は私達が守ります」

 「頼んだわよ」


 アイスティーを飲んで喉を潤す。

 やっぱり、この家にいた方が落ち着く。電化製品はある程度揃っているし、エアコンだってある。快適だぁ。


 「シルヴィア様、新しい家の方に電化製品を置いてほしいのですが……」

 「そうだったわね。作ったら置いていくから待っていて」

 「よろしくお願い致します」

 

 一応、新しい家にもエアコンの室内機と室外機を設置した。あとは電化製品が揃っていない。スレナの為に早めに置くとしよう。


 「スレナ、シルヴィア様は疲れているんだ。電化製品をせがむんじゃない」

 「せがんでいませんよ。ただ時間があったらお願いしたいと言っているだけです」

 

 今日中にしたいこと、新しい家に電気湯沸かし器と洗濯機を設置する。それをしないと、スレナの生活が送りにくくなる。よし、やるか。


 「スレナ、お風呂の電気湯沸かし器と洗濯機を設置するわね」

 「無理しなくてもいいですよ。明日でも構いません」

 「いや、今日させてもらうわ。明日はゆっくりしたいの」

 「分かりました」

 

 私は自室に戻り、新しい家用の電気湯沸かし器と洗濯機の設計に取り掛かった。

 

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