第五話 ミックスジュース

 ある程度の電化製品をそろえることができた。これも創造主様から頂いた力のお陰だ。でも、まだ物足りないでいる。今度は何を作ろうかな。


 「スレナも農作業を手伝うようになったね。どういう心境の変化?」

 「マリアだけにさせるのは仲間として駄目だと思ったんです。だから、苗作りや種まきを手伝おうと」

 「良い心掛けね。でも、無理をしては駄目よ」

 「分かっております」


 現在、リビングに四人集まり、休憩をしている。

 エアコンが効いた部屋でこうまったりするのも悪くない。だけど、喉が渇く。乾燥しているのかな?


 「サラ、たまには違う飲み物が飲みたいわね」

 「アイスティーばかりだと飽きてしまいますよね。何か美味しい飲み物があればいいのですが……」


 今、頭の中に何かが浮かんだ。

 そうだ。ミキサーを作ればいいんだ。果物を買ってきて混ぜれば、美味しいジュースができるはず。早速準備しよう。


 「サラ。今、とっても便利な道具が思い浮かんだの」

 「どんなものですか?」

 「ミキサーという電化製品よ。果物を細かくして飲み物にできるの」

 「それは良いですね。早速果物を調達に」


 

 コンコン。



 玄関からノックする音が聞こえた。マリアとスレナが警戒態勢を取っている。誰だろう。

  

 「シルヴィア様、ちょっと見てきます」


 マリアが剣を持って玄関に向かった。スレナもあとを追う。


 「誰だ?」

 『白薔薇騎士団、副団長のレーナです。スレナ団長はいますか?』

 

 サラと一緒に陰に隠れて様子を見ている。

 白薔薇騎士団、副団長って聞こえた。スレナの部下か。


 「スレナです。レーナ、開けますよ」


 スレナが玄関の扉をゆっくりと開けた。そこには、果物がたくさん入っているバスケットを持ったレーナが立っている。

 

 「レーナ、お疲れ様です。今日は何用ですか?」

 「ロイ様からシルヴィア様にお届け物です。それより、凄い家ですね」


 レーナからバスケットを受け取った。りんごやみかん、パイナップルや桃が入っている。牛乳とお砂糖はあるから、これらと混ぜればミックスジュースが作れる。

 ロイ様、ありがとう。


 「シルヴィア様、少しレーナとお話してもいいですか?」

 「構わないわよ。上がる?」

 「では、失礼致します」


 レーナをリビングに通した。

 私は紙と鉛筆、定規を使ってミキサーの設計図作りに取り掛かる。


 「シルヴィア様。取り敢えず、果物は冷蔵庫にお入れしてもいいですか?」

 「うん、お願い」

 

 レーナとスレナが近況を報告し合っている。

 私はサラとマリアの前で設計図を描き、具現化の準備に取り掛かる。


 「よし。いでよ、ミキサー」


 紙が黄金に輝き、中央からミキサーが出てきた。それをレーナが目撃し、驚いた。


 「いっ、今、何をされたのですか?」

 「何ってミキサーをお作りになったんだ。どうしたんだ? 驚いた顔をして」


 驚く方が正しくて、驚かないマリアが異常なんだよ。と言いたい。


 「今、何もないところから出てきましたよね。どうやって作ったのですか?」

 

 スレナがレーナを制止する。


 「レーナ、このことは極秘事項です。絶対、他の者に教えたら駄目ですよ」

 「わっ、分かりました」


 紙は白紙に戻っている。量産するなら何枚も同じものを描かないといけない。結構面倒臭いのだ。


 「シルヴィア様、これがミキサーですか?」

 「そうよ。早速果物を入れてみましょう」

 

 果物を冷蔵庫から取り出し、皮などをいてミキサーに入れる。


 「サラ、牛乳とお砂糖と氷を準備して」

 「分かりました」

 

 果物の他に牛乳と砂糖、氷を入れてふたをする。そして――――。


 「さあ、かき混ぜるわよ」


 電源プラグをコンセントに差し、電源ボタンを押してミキサーを起動させた。


 これは凄い。果物が物凄く細かく切られている。しかも、色がミックスジュースっぽくなってきた。美味しそう。


 「もういいかな。止めるわよ」


 皆が見守っている中、ふたを外した。次にグラスを用意し、皆の分を注いでいく。

 さて、お味はどうだろう。


 「皆、一斉に飲みましょう」

 「では!」

 

 皆一斉にミックスジュースを飲んだ。レーナの目が見開いている。


 「これは……、美味しい!」

 「本当に美味しいわ。これなら何杯でもいけるわね」

 「シルヴィア様、もう一杯欲しいです。果物の準備をしてもいいですか?」

 「いいわよ」

  

 マリアが果物の皮をいている。

 次が欲しくなるほど美味しかった。これは成功したと言ってもいい。


 「スレナ様、シルヴィア様は何か特殊な力をお持ちなのですか?」

 「そうです。でも、極秘事項なので教えることはできません」

 

 レーナが部屋中を見渡している。

 ここにはこの世界で見たことがないものがたくさんある。それらを模範して作ろうとする輩が現れるかもしれない。その為の対策として極秘事項にしたのか。スレナ、本当に良い人だ。


 「私はてっきり厳しい生活を余儀なくされていると思っていました。でも、実際は違った」


 レーナがスレナと目を合わせた。


 「スレナ団長。貴女は何を隠しているのですか?」

 「……事情を話します。実は、シルヴィア様の特殊能力は公開されていないのです。あと、本人のご希望で口外禁止となっております。何故、極秘事項なのか分かりましたか?」

 「つまり、誰にも知られたくないということですか?」 

 「その通りです」


 口外することはしないだろうけど、誰かにこの暮らしぶりを伝えたら、噂が広まって大変なことになる。そうなると、国の為に力を振るえと言われてしまう。口止めをするのは、そうならない為の対策だ。 

 私はこの人を信用してもいいのだろうか。


 「なるほど。だから、スレナ団長からこの近況が報告されないのですね」

 「そうです。絶対に口外しては駄目ですよ」

 「分かりました。でも、気になってしまいます」


 今度は私と目を合わせてきた。何が聞きたいんだ。


 「シルヴィア様、あちらの箱は何ですか?」

 「冷蔵庫よ。食べ物や飲み物を冷やして腐らないようにするの」

 「少し中を覗いてもいいですか?」

 「いいわよ。でも、早く閉じてね」


 レーナが冷蔵庫を開けた。その途端、冷気がレーナに当たった。

 

 「本当に冷たい。中にたくさん食材がありますね」

 「そうよ」


 ミキサーに牛乳と砂糖、氷と果物を入れて再度ミックスジュースを作った。

 

 「マリア、どうぞ」

 「ありがとう御座います!」


 スレナがレーナの後ろに立っている。何か言うつもりなのだろうか。それとも、監視しているのか。どちらにせよ、目が離せない。


 「レーナ、それくらいにしなさい」

 「……分かりました」


 レーナにミックスジュースを手渡した。

 初めて見るものばかりで興味津々なのだろう。スレナとマリアもそうだった。


 「あの、シルヴィア様」

 「何?」

 「夜になりそうなので泊まらせていただいてもよろしいでしょうか」


 外が薄暗くなっている。仕方がない。泊めてあげるか。

 

 「良いわよ。奥の和室を使って」

 「和室? どんなお部屋ですか?」

 

 スレナが溜息を吐いた。

 色んなことを聞いているから気疲れしたのかな。でも、案内しようとしている。

 

 「レーナ、案内します。こちらへ」

 「ありがとう御座います」


 それより、レーナが電化製品を持ち帰らないよう気を付けなきゃ。一個でもなくなったら、すぐにボディチェックをするようにしよう。


 「シルヴィア様、大変なことになりましたね」

 「そうね」


 私はマリアとサラとミックスジュースを飲みながら、ふたりが戻ってくるのを待った。

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