第九話 ロイ・ヴァリアントの訪問
騎士クラウドの視察から一ヶ月の月日が流れた。私は相変わらず、創造の力を使って便利な電化製品を作っている。
「必要なものはこれくらいか。あとは贅沢品ね」
サラやマリアも慣れたのか何も言わなくなった。これは良い方に向かっていると思っても間違いない。
「シルヴィア様、贅沢品とは何ですか?」
「生活に直接必要がないものよ。例えば、高級自動車が贅沢品かな」
「自動車? どんなものですか?」
「馬より早く走れるものよ。しかも、色んな機能が付いている」
自動車を具現化するには多くの知識が必要になる。小さい部品から大きな部品まで様々だ。一晩で完成させるのは不可能に近い。
でも、自転車はできた。バイクから先に作った方がいいかな?
「そう言えば、シルヴィア様宛にお手紙が来ております」
「誰から?」
「第二王子のロイ・ヴァリアント様からです。お読みになりますか?」
「頂戴」
そう言えば、婚約破棄になったらアフターフォローをすると言っていたわね。でも、今更感が半端ない。今まで何をしていたんだろう。身内にバレないようにしていた?
「……近々、この家に来ると書かれているわね」
「どうしますか?」
「ロイ様は悪い人ではないわ。この家に来られたら、丁重におもてなししましょう」
サラが冷えた紅茶を持ってきた。
この紅茶はいつ飲んでも美味しい。温かいものより冷えたものの方が断然良い。
「サラ、分かった? ロイ様が来たら、丁重におもてなしするの」
「分かっております。お料理もお出しした方がよろしいですよね?」
「この家に泊まることになればお出しした方が良いわね。あと、お菓子も用意しておいて。お茶するときにお出ししたいから」
「分かりました!」
サラが冷蔵庫の中の食材を確認し始めた。
来ると書かれているけど、いつ来るか分からない。はっきりした情報が欲しいな。でないと、おもてなしの準備をしようがない。
「マリア、ロイ様宛に手紙を出して。いつ来るか知りたいの」
「分かりました」
いつ訪問されるのか分かれば、それに合わせて準備ができる。ロイ様に最高のおもてなしをしよう。
「サラ、準備は少し待って。手紙を出して聞いてみるから」
「分かりました。では、私は洗濯物を片付けますね」
私達はいつも通りの日常を過ごした。
*
――二週間後。
ロイ様が護衛を数人連れて我が家にやってきた。
「これは……何だ?」
私の家を見てロイ様が驚いている。それもそうだ。見たこともないものが置かれているのだから。
「ロイ様、お待ちしておりました。さあ、中へ」
「失礼します」
ロイ様を玄関の中に入れた。
「ロイ様、この家は土足禁止となっております。靴を脱いでお上がりください」
「わっ、分かりました」
護衛も靴を脱いで家に上がった。リビングはエアコンでキンキンに冷えている。居心地が悪い筈がない。
「何だ? この心地良さは!」
「エアコンで涼しくしているんです。いかがですか?」
「悪くないです。それより、見たこともないものがありますが、何に使うものですか?」
ロイ様が護衛の脇に肘打ちをした。そして、コホンと咳払いをし、私に目を向けた。
「シルヴィア様。貴女様はこの地で一体何をなさっているのですか?」
「個人的な力を使って裕福な生活を送れるか試しているのです。同居人のサラやマリアも住みやすいと言っておりますよ」
「個人的な力とは、これらの道具を作る能力ですか?」
「そうです。いけませんか?」
ロイ様が黙り込んだ。どうしたんだろう。
「…………素晴らしい」
「え?」
「素晴らしいです! 僕もこの家で生活してみたい!」
いきなり何を言い出すかと思えば、生活してみたいとは……。ロイ様も変わっている。
「ロイ様。数日間、この家で生活してみますか?」
「良いのですか?」
「ええ、構いませんよ。でも、この家のルールに従ってもらいます」
ルールと言っても簡単だ。お風呂の順番とか各自室に入らないとか、そんなものだ。
「分かりました。従います」
護衛が困惑している。ロイ様、護衛をどうするんだろう。
「よし、そうと決まれば――――。お前達、二日間だけでいい。プリム村で待機しておいてくれ」
「プリム村で待機ですか? 構いませんが、本当にこの家に滞在されるのですか?」
「もちろんだ。駄目なのか?」
「いえ、駄目ではありません。それでは、私達はプリム村に向かいます」
護衛がお辞儀をして立ち去ってしまった。
さて、ロイ様をどうやっておもてなししよう。ちょうど昼食時だから料理をお出しするか。
「サラ、昼食の準備は進んでいる?」
「あともう少しでお出しできます」
ロイ様は――――。なんか電気ケトルを手に取って眺めている。
「シルヴィア様、これは何ですか?」
「電気ケトルと言って、電気を使ってお湯を沸かすものです」
「火を起こさずお湯を沸かすのか。凄いですね」
まるでマリアがもうひとり増えたような感じだ。目に留まったもの全てが新鮮に思えるのかな。なんか無邪気な子供みたい。
「この皿を入れているものは?」
「これは食器乾燥機です。濡れたお皿がすぐに乾くんですよ」
ロイ様の目が輝いている。
さて、この家のルールの説明を。
「ロイ様、少しよろしいでしょうか?」
「はい、何でしょう?」
「この家のルールなのですが、ふたつあります。ひとつ目は、お風呂は先に入ること。ふたつ目は、各自室に無断で入らないようにすること。このふたつだけお守りください」
「分かりました。ところで、僕の部屋は?」
今のところ、和室しか空いていない。この際仕方がないか。
「こちらへ」
ロイ様が後ろを追い掛けてきた。私は一階の奥にある和室に案内する。
「こちらになります。布団は押し入れにありますので、敷いてご利用ください」
「なんか独特な香りがしますね」
「い草の香りです。お気に召しませんでしたか?」
「いえ、そんなことはありません。素晴らしい部屋です」
取り敢えず、寝床は案内できた。あとはお風呂場と洗面所を案内しよう。
「お風呂場と洗面所にご案内します」
ロイ様って好奇心旺盛だな。私が作ったものを目を輝かせて眺めている。
盗まないよな?
「お風呂も申し分ないくらい素晴らしいです。ところで、お湯はどうやって出るのですか?」
「家の外に電気湯沸かし器がありまして、このレバーを上げるとお湯が出ます」
「ここも火を起こさずお湯が使えるのですね。凄い」
さっきから凄いしか言っていない。この世界の住人からすれば、私の作ったもの全てが凄いんだろうな。まあ、悪い気はしない。
「因みに洗面所もお湯が出ます」
「ここもですか? 凄い」
サラが奥にやってきた。昼食ができたのかな。
「シルヴィア様、ご昼食の準備ができました!」
「今から行くわ」
ロイ様に視線を向け、改まる。
「ロイ様。ご昼食の準備ができましたので、ダイニングへ」
「分かりました。行きましょう」
先に戻っていたサラが椅子を引いて待っていた。私はロイ様に座るよう促す。
「どうぞ、こちらへ」
「失礼します」
当たり前の如く、マリアとサラが着席した。異様な光景である。
「では、頂きましょう」
「はい。では、頂きます!」
私達は、サラお手製のオムライスをお腹いっぱい食べた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます