プロローグ2
「いらっしゃいませ!」
「……え、ど、どちら様ですか?」
気が付いたら、目の前にとんでもなく美しい女性が立っていた。華美な着物を着ていて、見るからに高貴な生まれのお嬢さんって感じだ。
女性慣れしていない俺としては、こんな美女と話すのは緊張して仕方がない。いったい何者――
「神様です!」
「あ、間に合ってまーす」
一気に醒めた。たとえ絶世の美女であろうが、霊感商法の類であれば話は別だ。壺とかお札とか売られたくないんで。
「ち、違います! 本物の神様なんですぅ!」
「ええい、しつこい! うちは無宗教だから神棚とか飾らないぞ!」
「だから違いますって! ほら、周りを見てください!」
「周り……?」
言われて初めて気付いた。俺と自称神様がいる場所が、あまりにも異様であることに。
どこまでも続く――白。
前後左右、天地すらも曖昧になるほどに真っ白な空間。いや、そもそも……。
「影が、ない?」
視界はハッキリとしている。つまり光源があるはずなのに、あるべき影がどこにもない。アカン、脳がバグりそう。
「ここは
「はざま?」
「生と死の狭間。心当たりがあるでしょう?」
「心当たりなんて――」
――思い出した。ストーカーっぽいのに襲われかけてた女性を助けようとして……ナイフが腹に刺さったんだ。
「つまり、俺は死にかけてるってこと?」
「正確に言えば、避けられない死が目の前に迫っている……という感じですね」
「そう、なのか」
「思ったよりも冷静ですね」
「……まぁ」
「――え? じゃあマジで本物の神様?」
「だから、そう言ってるじゃないですか!」
未だ半信半疑だが、どうやら本物らしい。この女性を信じたというよりは、この不思議空間の説得力が勝ったって感じだけど。
「まだ言いますか」
「え、口に出してた?」
「心を読んだんです」
「マジすか」
確かに神様ならそれくらいできても不思議ではない。あくまでイメージだけど。
「あなたが神様だとして、神様というのは毎回死んだ人間とこのように会話するのですか?」
「まさか。一日にいくつの命が失われるとお思いで?」
「知りませんけど、ものすごい数だろうなぁくらいは」
「ええ、ものすごいんです」
「……じゃあ俺は何故?」
彼女の口振りからすると、いま俺と会話していることが例外という雰囲気だが。
「その通りです。本来であれば問答無用であの世へ送られ、イソギンチャク辺りに生まれ変わっていたことでしょう」
「ひでぇ」
「ですが、今回あなたにはチャンスが与えられました! イソギンチャク生ではなく、もう一度人生をやり直すチャンスが!」
「え、本当ですか?」
「ええ、もちろんですとも。あなたは自らの命を
神様は、いつの間にか手に持っていた小さなくす玉を割った。中から紙吹雪と、文字の書かれた垂れ幕が出てくる。
「異世界転生です! パンパカパーン!」
パンパカパーンは自分で言うんだ……って、異世界転生だと!?
「そ、それはもしやアレですか。ネット小説とかでよくある……」
「日本人はお好きなんでしょう……?」
ニチャア……と悪い笑みを浮かべる神様。いや、その通りかもしれないけど何故そんな笑みを浮かべる?
「様式美かと思いまして」
「わかるけども」
なまじ見た目は綺麗な女性なので微妙な気分だ。
「ええっと、ちなみにどういう感じの世界なんですか?」
「おおよそ想像通りかと。あなた方がいうところの中世ファンタジー風の世界ってやつです。もちろん、魔法だってありますよ」
「キタコレ!」
うおおぉぉ、今まで特筆すべきものが何もなかった人生がついに変わるかもしれない!
……あ、いや、もう人生は一度終わったのか。
だが、それでも構わない。だって異世界だよ、異世界! 転生チートで無双してハーレムでウッハウハですよ!
「あ、そういえば何か使命みたいなものがあったりします?」
こういう感じに神様と出会って転生する場合、何か使命を与えられることも多い。魔王を倒せとか、神の信仰を広げろとか。
「いえ、特にありませんよ。勇者でも魔王でも、お好きになってください」
「いや、なりませんけど」
そんな面倒なことはしたくない、特に魔王。なぜ好き好んで討伐対象にならねばならん。
そんなことよりハーレムですよ、ハーレム! ついに俺の彼女いない歴イコール年齢に終止符を打たんとする時が!
「では、異世界に転生することに異論はありませんね?」
「はい!」
「はい、どうぞ」
目の前に突然、開いた扉が現れた。その向こうには、この空間とは対照的にどこまでも黒い闇が広がっている。
……え、もう異世界に行くの?
「あ、あれ? お約束としては、ここで転生チートとかスキル選択があるのでは?」
ほら、よくあるじゃん。過酷な異世界を生きていくために必要なスキルをあげよう的な。
神様はにっこりと、見惚れるほどに美しい笑顔を浮かべ――
「ねぇよ、そんなもん」
「ドミ〇ク!?」
「さぁ、レッツゴー!」
「うわああぁぁ!?」
強引に扉の向こうへと押し込まれる。徐々に身体が闇に溶けていくような感覚、やがて意識も失っていき――
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