第2話 希望はまだ見えず

 疲労感に耐えながら歩き続けるアルフとアビーの前に、野盗らしき男女が現れた。


「命が惜しければ金をよこせ!」


「あたしたちは本気よ!さあ、お金を出しなさい!」


 寝不足のアルフとアビーは野盗の相手をするのも面倒だと感じ、彼らにお金を渡そうと無言でポーチに手をかけようとした。しかし、そこにあるはずのポーチが無くなっており、二人はスリにあったことを悟る。


「くそっ……あの街に立ち寄らなければよかった……。」


「もう嫌……何なのこの国……。」


 野盗たちは、二人の反応に少し驚いた様子だった。彼らが想像していたのは、もっと必死な抵抗か、怯えた反応だった。しかし、目の前の二人はただ疲れ果て、絶望の表情を浮かべている。


「お、おい……まさか、もう何も持ってないのか?」野盗の男が少し戸惑いながら尋ねた。


 野盗の女も言葉を失いつつ、アビーとアルフの憔悴した姿に同情の色を見せた。


 アビーは力なく頷いた。「あの街で、スリに遭ったみたいなの……。お金も、食べ物も、何も残ってないわ。」


 アルフも続けた。「俺たちはただ休む場所を探してただけなんだ。だが、この国じゃ誰も信用できず、結局時間も金も、体力も奪われるばかりで……」


 その言葉に、野盗たちは一瞬顔を見合わせた。彼らもまた、この国の荒んだ状況に生きている者たちであり、同じように何度も裏切られ、傷つけられてきたのかもしれない。


「……俺たちも、楽しくてこんな生活をしてるわけじゃない。」男の野盗が呟いた。


「だけど、どうしようもなくて……生きるためには、こうするしかないのよ。」女の野盗が視線を落としながら言った。


 二人の言葉には、哀しみと諦めが混じっていた。彼らもまた、この国の犠牲者だった。しばらく沈黙が続いた後、男の野盗が深いため息をつき、追い払うように手を振って二人に背を向けた。


「もう行ってくれ……お前たちから奪えるものは何もないだろう。命なんて奪ったところで買い物も出来やしない。」


「そうね……あたしたちも、もういいわ。」女の野盗も肩を落として言った。


 アビーとアルフは、思いがけない展開に驚きながらも、頭を下げてその場を立ち去った。彼らの足取りは重いままだったが、少なくとも今は、無意味な争いを避けられたことにほっとしていた。


 歩きながら、アビーはぽつりと呟いた。「奪う物がないからって見逃してくれる野盗なんて、今まで見たこと無かったよね……」


 アルフも同意して頷いた。「ああ……街の人々にも、少しだけでいい……優しさが残ってるんじゃないかって思いたいよ。」


 二人は再び歩き出した。この国の未来はまだ見えないが、少なくとも希望の光を見出すために、彼らは諦めないことを決意した。

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