第24話
脱出は、サンドラがここを抜け出す為に掘ったのだろう穴を通って、むしろそれを忍術で埋めながら、僕も坑道を抜け出す。
それから一人で歩いて里まで戻った僕は、死人が妖怪として生き返ったんじゃないかとか、敵の忍びが化けてるんじゃないかとか、色々調べられはしたけれど、最終的には喜びを以って迎え入れられる。
特に若様は僕の無事を喜んで、それ以上に凄く安堵してた。
あぁ、安堵してたって言えば、小一もか。
小一は、あの場ではそれが最良の判断だったとはわかっていても、僕を置いて行った事を気に病んでいたらしい。
全く、忍びだというのに、若様も小一も甘いなぁって思うけれど、彼らがそんな風に思ってくれるなら、僕も帰ってきた甲斐があるというものだ。
頭領には、舶来衆の幹部が妖怪だという根拠はあるのかと問われたので、僕はサンドラとの戦いで、彼女に負わせた傷の量を語った。
人間なら即死する傷を負わせたが、それでもサンドラには足止めにしかならず、彼女は閉じ込める為の壁を破壊して、坑道を脱出してる。
だから少なくとも、サンドラが人間でない事は確実だと。
いや、僕は彼女が人狼だって確信してるし、それはサンドラの反応からも明らかだったが、それは前世の記憶に基づく知識で判断したものだから、あまり詳しく言及したくはない。
しかし人間でないなら、大体の場合は妖怪だって言ってしまっても、多分間違いじゃないから。
「……ふん、だとすれば連中の狙いは、大蜘蛛様か」
僕の話に、頭領は小さく、そんな言葉を呟いた。
なるほど、確かにそうかもしれない。
三猿忍軍が浮雲の里を狙うのは恨みからだろうけれど、元々全ての忍びの勢力に喧嘩を売ってた舶来衆が、三猿忍軍と組んでまで浮雲の里に敵対したのは、大蜘蛛様の存在があるからだって考えれば納得がいく。
つまりは妖怪同士の縄張り争いだ。
しかし……、サンドラは確かに並の妖怪とは比べ物にならないくらい、僕にはどうしようもない程に強かったが、それでも守り神として祀られる大蜘蛛様、大妖怪程の実力があった風には思えなかった。
いや、大妖怪に及ばないから、複数の妖怪が舶来衆の幹部として協力しているのか。
或いは舶来衆のボスは、そうした複数の妖怪を束ねられる、大妖怪クラスなのかもしれない。
まぁ、存在するかどうかもわからないボスはさておき、強力な妖怪を相手にするなら、今のままの戦い方では無駄に犠牲が増えるのみ。
戦力を集中し、妖怪を殺し切れる布陣を敷かねばならないだろう。
尤もそれを考えるのは僕じゃなくて、頭領の役割だった。
将来、若様が頭領になったなら、側近として意見を出す機会があるかもしれないが、今の僕がそれを口にする事は許されない。
ただ沈黙して、頭領の思考を邪魔しないようにするのみだ。
「わかった。貴重な情報だったな。よくやった。まずは十分に休むといい。では下がれ」
頭領の言葉に、僕はやはり黙ったまま頭を下げてから、その場を離れる。
毎回、頭領とのやり取りは色々と肝が冷えるけれど、今回はその甲斐もあって、どうやら暫くの間は休みが貰えるらしい。
力を蓄えたい、忍術の習得を進めたいと思ってた僕には、それはとても好都合だった。
頭領の屋敷は、浮雲の里でも一番大きく、また一番高い場所にある建物だ。
浮雲の里は森と山に囲まれたなだらかな丘にあって、麓では普通の忍び達が、一見すると他の人里と大して変わらぬように暮らしてる。
もちろん浮雲の里に生まれた者は、全員が忍びになる運命ではあるんだけれど、ずっと現役で死ぬまで活動しているのかといえば、そうじゃない。
全盛期を過ぎるまで生き延びた忍びには、引退して里を維持する生活が待っていた。
例えば、吉次なんかはそろそろ引退も近い筈だ。
他にも任務で大きな怪我を負った場合も引退が許されるし、子を産むという男にはできない役割がある女には、女房衆という任務には出ずに里で暮らすという道が選べる。
丘の中腹辺りには、里の名家、上忍の屋敷が並ぶ。
この上忍の屋敷は、もしも里に敵が攻め込んできた場合、要塞として機能するように、かなり頑丈な造りになってた。
尤も僕は、若様の側近候補に選ばれた関係から、上忍の屋敷に入った事がないので、その中がどうなっているかはあまり知らないけれども。
あぁ、普通の忍びは頭領ではなく、上忍から任務が下りてくる場合も多いらしい。
浮雲の里の忍びは数が多いから、頭領だけで任務の割り振りができる筈もないから、当然なのだろう。
時には、上忍の直属として囲われる忍びもいるんだとか。
そのように、浮雲の里では上忍の権力はかなり強かった。
頭領の屋敷は、丘の上だ。
なので頭領の屋敷から外に出ると、里の様子が一望できる。
この世界に生まれたばかりの頃はわからなかったけれど、浮雲の里は人口がかなり多い。
恐らく五千人以上は、この里で暮らしてるんじゃないだろうか。
これは外で言えばちょっとした町くらいはある。
いや、前に生きた世界の感覚だと五千って少ないから、下忍として外に出るまでは、この世界の感覚が掴めなくて、これが多いってわからなかったのだ。
そして恐ろしい事に、その五千人の殆どが、現役であるか否かは別にして、高度な戦闘訓練を積んでいた。
実に歪な場所だなぁって、そう思う。
どうしてこんな場所ができたのか。
里の開祖は、何と戦う為に、そんなにも多くの戦力を求めたのだろうか。
気になるところではあるけれど、その意図を確認する術は、今の僕にはない。
もしかすると、頭領の家にはそれが言い伝えとして残ってたりするのかもしれないけれど……。
若様が頭領になったら、こっそり教えてくれないかなぁ。
いずれにしても、そんな場所に僕は自分の意思で戻ってきた。
自分で決めて選んだ道なのだから、今はできる事を精一杯に、里に貢献しようと思う。
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