第18話
忍び達が血で血を洗う争いをしていても、お構いなしに依頼は来る。
いや、来てくれなければ困るのだ。
未来を食い潰すように戦う三猿忍軍はともかく、浮雲の里の忍びはこの戦いが終わった後も生きていかなきゃならない。
当然それはこの戦いに勝利すればの話だけれど、浮雲の里の忍びは誰一人として負ける気なんて毛頭ないから。
戦いで忙しかろうと請けられる依頼は請けておく必要があった。
忍び同士の潰し合いにばかりにかまけて依頼を断り続けると、それまで忍びを必要としていた依頼主も、別の手段を講じるだろう。
するとやがては、その別の手段が主流となって、忍びは必要とされなくなる。
戦いを勝利で終えたとしても、忍びは生きる糧を得る手段を失ってしまうのだ。
すぐにそうなるって話ではないが、この戦いに勝つ心算なら猶更に、依頼を疎かにする事はできない。
まぁ、要するに今日も、僕は依頼に駆り出されていた。
しかし今日の依頼が何時もと違うのは、任務の為の班を率いるのが若様だってところだろう。
任務にあたる班の忍びは、リーダーである若様を含めて八人。
うち五人は、若様と年頃の近い優秀な下忍で、要するに側近候補達だ。
もちろん僕もここに含まれる。
そして若様の補助、もとい護衛の中忍が二人。
初めて見る中忍だったけれど、若様の護衛に付けられるくらいだから、腕が立つのは間違いない。
そこに若様を加えて計八人で、今回の依頼にあたる。
正直なところ、若様を加えて動くには班の人数が少なすぎる気はするんだけれど……、三猿忍軍や舶来衆との戦いのせいで、動かせる忍びの数に余裕がないのだろう。
浮雲の里は忍びの勢力としては大きな方みたいだけれど、人手に限りがあるのは仕方ない。
側近候補達は、流石は選りすぐられた優秀な下忍だけあってか、今の状況をよく理解してる様子だった。
即ち、他の側近候補に対抗心はあるけれど、今はそれを剥き出しにして足を引っ張り合える状況ではないと。
何しろ今回の任務で若様の身に万一があれば、僕ら全員の首が物理的に飛びかねない。
いや、戦いが続く状況だから、単に首を刎ねるよりも、死ぬまで過酷な戦いに投入し続けられる可能性の方が高いだろうか。
正直に言うと、僕の挙げてる功績は側近候補の中でも頭一つどころじゃなく抜け出してるだろう。
密書の入手に関わったのはもちろん、その後の三猿の忍術を解明、再現したのがとても大きい。
こうした特殊な功績でついた差は、普通に任務をこなすだけじゃ中々に埋められるものじゃないから、他の側近候補から僕に向けられる目は複雑だ。
しかし胸の内で何を思っていても、彼らはそれを表には出さずに、協力する道を素直に選ぶ。
「坑水の排除は、アカツキ、任せたぞ」
若様はそうした側近候補達の感情を知ってか知らずか、役割の一つを僕に任せるとの言葉を口にする。
しかも側近候補の中から、誰かを率いてだ。
今回の任務は六山の国で開発の進む銀山で、その坑道を破壊する事だった。
依頼主は、敢えて聞いた訳ではないけれど察するに、下流にある幾つかの国のどれかだろう。
この世界では経験則として金属の毒、鉱毒の害が知られてる。
故に六山の国が銀山を発見し、その開発を始めた時、下流の国はその開発に抗議をしたらしい。
けれども六山の国はその抗議を聞き入れず、毒に関しては領内で適切に処理をするって答えたそうだ。
まぁ、当たり前である。
銀山を開発して得られる利益は莫大で、他国に抗議されたからってその利を易々とは手放せない。
実際に下流で何らかの害が出てならともかく、銀山の開発は始まったばかりで、被害はまだ存在していなかった。
また名前通りに六つの山に囲まれた六山の国は田畑を作るのに適さず、主な産業は山で切った木を川に流して運び、下流の国に売るくらいだったが、売れねば食料も買えぬ為、足元を見られて安く買い叩かれる事も少なくはなかったそうで、常々不満をため込んでいたから。
だが下流の国にしてみれば、被害がまだ出てないとか、六山の国が鉱毒を適切に処理するかなんてのは関係ないのだ。
鉱毒が適切に処理されず、被害が出るかもしれない。
そうした不安があるだけで、六山の国を非難するには十分だった。
何しろ、六山の国が銀山を開発したところで自分達には何の益もなく、ただ不安だけを押し付けられるのだから、そりゃあ文句も出るだろう。
お互いの意見は交わらず、でも下流の国が六山の国に力で言う事を聞かせるには、山に囲まれた六山の地は攻め込むのがあまりに難しく、経済的に追い込みをかけたところで、そうなると六山の国は益々それを打破する為に銀山の開発に力を入れるだけ。
打つ手に困った下流の国は、ならば忍びを雇い、事故に見せかけて坑道を破壊してしまおうと、そういう結論に至ったのだ。
僕も下忍になって一年以上も経てば、そんな依頼の背景を読み取れるくらいには、世情に通じるようになっていた。
鉱毒の害は、金属の溶け込んだ坑道内に溜まる水、坑水によって引き起こされる事が多いという。
確か、特に銅の採掘は害が酷いだっけか。
今回の任務は下流の国からのものだろうから、坑道の破壊によってこの坑水を外に漏らし、川に流してしまう訳にはいかない。
そこで若様は、坑道の破壊とは別に、坑水を安全に排除しろと僕に命じたって訳だ。
人の争いの多くはすれ違いから発生するという。
この問題も、ちゃんと話し合えば解決はする可能性は十分にある。
六山の国で銀が採れれば周辺での商業が活発化し、下流の国にも益はあるのだと、しっかりと説けば争いは避けられたかもしれない。
その場合、実際に適切に坑水を処理してるところを公開する必要もあるだろうけれども。
しかしそうなると忍びの仕事がなくなってしまうので、忍びは雇われた側に立ち、ただ破壊を撒くだけだ。
破壊は恨みを残し、また次の忍びの仕事を作り出す。
僕は今、その連鎖の中に生きていた。
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