愛して。

木場篤彦

第1話揺るがない想い

 ベッドに扇風機の風が届いている。壁際に身体を横たわらせた三栖深ナユタは瞼を閉じ、私の呼吸のリズムに耳を傾けている。

「ねぇナユ、そろそろシよっ?勿体無いって、何もしないって」

「ユナってほんとせっかちなんだから……もう少し待って」

 三栖深に急かす私は、恋人の相手の呼吸のリズムを聴いてなにが楽しいんだろうと趣味に首を傾げたくなる。

 私は三栖深が肌を重ねようとしないことに焦れて、ベッドから脚を投げ出し、スリッパを履いて立ち上がる。

「もうぅ……トイレ行ってくる」

 私は一言言い残し、自室を出て、トイレに向かった。

「うぅ〜んっ……」


 スッキリして、トイレから戻ってきた私がドアノブを握り扉を開けると、ベッドの上で上体を起こし、疑惑を抱く瞳を向けてきた。

「なっ、なに?怖いよぅ……」

「ユナぁ、私以外の誰かと付き合ってる?」

「へ?いきなり、どうしたんナユ……?ナユだけだよ、付き合ってるの」

「とぼけないで!ユナ、私に隠れて知らない人と付き合ってんでしょっ!?浮気……しないって言ったじゃん、ユナはぁッ!!裏切ったの、私を!」

 彼女が唐突にキレて、声を荒げながら傍らに置いてあった化粧水の容器や化粧ポーチ、テレビのリモコン等を片っ端から私に向かって投げつけてきた。

「いっ……痛ぁっ、うぅ……痛っ……ねえ痛いってナユぅッッ!!なんでキレてんの、急にぃッッ!?やめてよ、やめてぇナユっっ!!浮気なんてしてないって、ナユ!!」

「嘘だァっっ、嘘付かないで!!!私はユナを裏切ったことないのに!!ユナは私をぅっ……謝って!!!謝って、ユナぁあぁぁ!!」

「身に覚えのないことなのに謝るなんてしないよぉッッ!!なんなのッッ、ちゃんと説明してナユ!?」

「説明するのはユナだよッッ、はやく納得できるように説明してぇッッ!!」

「いっ……投げないでって言ったやつ投げないでよ、ナユ!!」

 抱き心地の良いアリクイのぬいぐるみを最後にぶつけられ、床に落ちたのを見て、声量を上げて叫んだ。

 裸の恋人に容赦なく角のある物や危険な物を投げてきた彼女に、説教しようと顔をあげた私は、傍まで来ていた三栖深に右腕の手首を力強く握られベッドに引きずられた。

 私が彼女にベッドへ押し倒される直前に勉強机の上にあったある物を掴んだ彼女を正気かと疑った。

「ちょっちょ、あぅぶぁっ……ちょっと——イっっ……恋人ぅ……こぅ、殺す気?ナユ……?」

 私は彼女にベッドへ背中から倒れるように脚を引っ掛けられ、押し倒された。

 私は後頭部にベッドが触れた瞬間に私へ馬乗りになった彼女の顔が至近距離にあり、彼女が握り締めたカッターナイフから刃が出ており、自身の頬にカッターナイフの刃先が刺さり切り付けられていた。

「はぁはぁ……ふぅー、はぁはぁ……殺す気なんてない、よぅユナ……教えて、私のことがどれだけ好きか?」

「教えるから……はぁはふぅ……その物騒なカッターナイフを遠くにやって、お願いナユ」

「浮気、してない?」

「してない、ナユに誓ったんだから信じてよ」

「そう……」

 彼女が漸くカッターナイフの刃先を頬から抜き、刃をしまい遠くに投げた。

「何があったの、ナユ?」

「ユナのスマホにメッセが来たのを見た……デートをいつにするかってのが……それで不安になった」

「デートね……それが勘違いした理由か。ナユとスるようなことはその子としてないってほんと。あの子はそーいう勘違いされるようなこと言うだけ。ナユのことが好きなのは揺るがないよ……それにナユ以外を愛するのって想像出来ない。それでも信じらんないなら、陰で見てていいから」

「勘違いしてごめん……頬まで切っちゃって、ごめんなさいユナ」

「良いよ、私も不安にさせてごめん。気を取り直してシよ、ナユ」

「ほんとにごめんね、ユナ。うん、シよ」

 顔に彼女の涙が落ちたが拭わずに、彼女が溜めていた涙を拭い、彼女の両頬に両手の掌を添え、彼女の唇に自身の唇を近づけ、キスをした。

 そのまま肌を重ね、セックスした私達だった。

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愛して。 木場篤彦 @suu_204kiba

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