トイレの日

大島奈桜

個室の中

 私の中の異物がすっかり出て行ったことを確認して、私は個室から出た。


 可愛いアイドルだってこの作業をこなしているのだと思うと、やはり彼らも同じ人間なのだと思う。


 その姿を想像することは犯罪になるのだろうか。でもこれは頭の中にふと湧いてきた疑問なので仕方がないだろうなどと、誰にともなく言い訳をする。ボヤケた想像を打ち消しながら、私は両手の平に冷たい水をかけた。


 まだ湿った手の平で髪の毛をかきあげ、私は済まし顔で席に着いた。

が、椅子に腰を下ろした途端にまた腸内がゴウンと動くのを感じた。


「そうだ、そうだ」

 用事を思い出したとカモフラージュしながら、私は急いでひとつ下の階へ降り、個室の鍵を閉めた。


 この苦しみを乗り越えた先に遥かなる快感が私を待っている。あのかっこいいアイドルだって、この苦しみを乗り越えているはずだ。


 私の中の異物が再び出て行ったことを確認して、私は個室から出た。


 流れていく音を聞きながら手を洗い、濡れた部分が黒くなったタイルの床を歩く。席に戻ったらメールに返事をして……いや、まだ落ち着かない。これで終わりじゃない。


 私はチョロチョロとまだ水の音が残る個室へ戻った。今日は仕事にならないな。


 まあ、こんな日があっても良いだろう。人間なんだから。

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トイレの日 大島奈桜 @oosimanao

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