追放された少年、神獣契約と古代魔法で密林最強になった件
☆ほしい
第1話
俺の名前はナラヤン。
このアユータヤ王国の南端、クンプン村という小さな農村で暮らしている。
朝は鳥の声で目が覚め、昼は田んぼを耕し、夜は焚き火を囲んで飯を食う。
そんな変わりばえのしない日々の中で、俺はずっと「何者にもなれない」まま生きてきた。
「ナラヤン、また水牛に餌やり忘れてただろ!」
村の広場で、叔父のソックが怒鳴る。
彼は俺の父の弟で、この村の“まとめ役”をやってる人間だ。
「ごめん、すぐやるよ」
頭を下げるしかない。
理由は簡単。俺には、何もないからだ。
力も、知恵も、技術もない。
家族は皆、村の中でも尊敬されている人ばかりだった。
父は王都の軍で勇士として名を馳せた男。
母は村一番の薬師として、遠くの村からも頼られていた。
兄はまだ十五なのに狩りの腕がすごくて、ギルドに推薦されるほど。
それに引きかえ、俺は十六にもなって、まだ何の役にも立っていない。
「……また怒られてたな、ナラヤン」
声をかけてきたのは、同い年の幼なじみ、ミンだった。
黒髪を肩で切り揃えた、くりくりとした目の少女。
赤い布の腰巻と、手作りの藍染めシャツがよく似合っている。
「まあ、いつものことさ」
俺は笑って肩をすくめる。
ミンはそれを見て、ふっと眉をひそめた。
「本当は、怒ってるくせに。ナラヤン、昔からそう。いつも笑って、心の中じゃ泣いてる」
「そんなこと、ないよ」
でも、図星だった。
俺は弱いから、誰にも本音を見せたくないだけだ。
村の大人たちは言う。
「お前は駄目だ」「兄に比べて価値がない」「母の薬草を無駄にするな」
それでも、俺はこの村で生きていくしかなかった。
──あの日までは。
*
その日も、俺はいつも通りの一日を過ごしていた。
早朝、ぬかるんだ田んぼで苗を植え、日が高くなれば近くの川で桶に水を汲み、午後は薬草を採って母に届ける。それが終われば、兄に頼まれた罠の点検だ。
でも、罠には何もかかっていなかった。
そもそも、俺が仕掛けるときは大抵そうなる。
兄の言葉を借りるなら、「動物にも見抜かれてる」んだとさ。
日が傾く頃には、身体中が泥と汗でべたついていた。
だけど、それも慣れた。
どうせ誰も期待してないし、褒めてくれる人もいない。
村に戻ると、広場では男たちが椰子酒を飲んでいた。
焚き火の煙が青く立ちのぼり、その向こうで、ミンが小さな子供たちに水牛の歌を教えていた。
俺はその光景をぼんやり眺めながら、自分がこの村の何になれるのかを、また考えた。
答えは、出ない。
「ナラヤン、お前、明日の神祭りには出るのか?」
後ろから聞こえたのは、同じ村の青年グループの一人、チャットの声だった。
「いや、どうせ俺が行っても邪魔だろ」
祭りとはいっても、実際は“若者の競技会”だ。
弓の腕、木登りの速さ、火起こしの技術、そして最後には“召喚試験”がある。
召喚試験──それは、村の中でもごく一部の才能ある者だけが挑める、神霊との交信儀式。
神獣ナーガや森霊キナリーといった、伝説級の精霊と契約できる可能性がある儀式。
だが、俺のような凡人が呼ばれることはない。
呼ばれないどころか、名前さえ書かれていない。
「お前、子供の頃は『ナーガと話す』ってよく言ってたじゃんか。夢だったんだろ?」
「夢だよ。夢だったさ。でも、今は現実を見てる」
チャットは黙った。気まずそうに笑って、背中をぽんと叩いて去っていく。
あいつはいいやつだ。ただ、俺にどう接していいか分からないだけだ。
そんなときだった。
突如として、地面が揺れた。
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