7 使者もそりゃ全員女性ですので

 太陽が高く登る頃、使者の方々が到着されたと言伝があった。

 とりあえず泊まった部屋で椿さんと千咲さん2人に挟まれて待っていることになった。


 千咲さんはこっちをじっと睨みつけてるし椿さんは息が少し荒い。緊張してるのだろうか?

 守り人が男性を護る立場なら那の津から来る使者の人も守り人かそれに近い役割になるわけか。そうなら当然先輩の立場のような人になるわけなので緊張もするだろうか…。


 しばらくすると廊下から声が近づいてきて、扉が開かれる。ババ様とその従者が2人。そして使者と思われる人が三人いた。

 全員がぴっちりとしたスーツで、元の世界ならボディガードの服装だろうか?日焼けした短髪金髪ツインテドリル、赤髪ロングの女性が入ってきた。

 1番手前の赤髪ロングの女性が正面に座るいくつかの資料を広げながら口を開く。


「あらためまして、私は那の津より使者としてやってまいりました兎陽うようあかねと申します。我々は普段男性様の巡業の護衛にサポート、マネジメントを行っています」

「男性の巡業?男性は普段特区内で生活していると聞きますが、特区内の外出等に護衛が必要なんですか?」

「いえ、この場合の巡業は特区付近の衛生都市に存在する企業等に男性が訪問することを指します。これは男性の義務となっておりますので、純一様にも今後関わってくることだと思います」


 受け取った資料に目を通す。そこには歴史や暮らしに関する事が載っている。

 例えば男性特区は男性を保護するとともに色々な義務も発生する。説明のあった巡業はいわゆる象徴的存在義務に当たるらしい。生殖義務や教育、能力継承の義務。健康診断等含めた遺伝子検査も義務にあたる。


 このような背景には以前は遺伝子検査で男性のクローンまで作ろうとした国があったが、失敗に終わっていたり、男性をめぐっていくつも国が無くなったことがある。世界は自然妊娠、もしくは人工授精等に大きく頼らなければならなくなった。

 希少な男性をこれ以上減らさないようにしつつ、女性の願望をなるべく叶える形を取らなければならないのはたいへんだろう。


「一応これから事情聴取を行わせていただきます。護衛の方は一旦下がっていただきます」

「…!それは、私達の任務に反することになるのでは?」

「現在、この家には男性監禁の容疑がかかっているのは理解できるでしょう?我々は平等に審査しなければならないのです」

「それは守り人として務めてきた当家の信用を疑うと──」

「椿、お黙り。今回はこちらに不手際があった。それだけだよ」


 ババ様が場を諌めて、古賀家の人達全員を部屋の外に連れだす。部屋に残っているのは使者の三人と俺だけになった。


「それでは、事情聴取と言いましたがそう緊張なさらず、どちらかといえば確認するだけです。古賀家からの連絡によりますと、自分の名前以外は記憶が無いとなっておりますが……」

「生きるのに必要な知識はありましたけど、この世界のこととか、時分がどのように生きてきたのかまではハッキリしません」

「そうですか。では野薔薇のばら、お願いします」


 金髪ツインテドリルの女性が横に来て手を握ってくる。目を瞑って集中するみたいだ。特に逆らわずに流れのまま手を握り返す。この距離まで近づくとまつ毛の先まで見える。顔も整っていて綺麗な人だ。手入れも大変だろうし、髪も整えるの時間かかるだろうなぁ。


 なにか能力を使ってるのだろうか?と大人しく握られていたが、野薔薇さんがキュッと手を強く握る。握り返す。またキュッと握り返してくる。それを3回ほど繰り返していると目の前にいる野薔薇さんの顔がどんどん赤くなってきた。ここで、ああしまった!となって勢いで離してしまう。野薔薇さんは離した手を少し見つめたあと、リーダーと思われる赤髪の女性に耳打ちでなにか報告していた。


「一応貴方が言ってることは真実のようですね。それに女性に寄られても拒否反応が出なかったこともあります。男は本能的に女性に恐怖していると通説がありましたが、やはり環境の問題なのでしょうか…」


 そういい残し1人で扉から出ていってしまった。多分ババ様達と話をつけに行ったのだろう。


「純一様だっけ?少し話してもいいかい?」


 ええ、いいですと返事をしてみる。褐色の女性は俺を野薔薇さんと挟むように座る。なんで?


「ねぇ野薔薇っち、男性に触れるの久しぶりだよね?」

「え、ええ。こんなにすんなり触れられたのは初めてですけど」


 わざわざ俺越しに話をし始める。両サイドからいい匂いがするのはちょっと困る。


「あの人から説明なかったと思うけど、野薔薇っちは思考や記憶が読めるPSYサイを持ってるわけ。テレパシーならともかく、記憶まで読もうとすると触れないといけないわけよ」

「あの、PSYサイって?超能力みたいなもんですか?」

「そうそう国際的な場ではそう表現されるわけだから私達も合わせてるわけ〜。あ、私は智子ともこ新島にいじま智子ともこね。もしかしたら長い付き合いになるかもだからよろしくね」

「わ!ワタクシ森川もりかわ野薔薇のばらです!」

「朝凪純一です。……ところで俺は何故挟まれてるんでしょうか?」

「いや?なんでだろうね?なんでだろうね?!」


 まるで2人は弄ぶようにどんどん距離を近づけてくる。肩が触れそうなくらいの距離スレスレで止まる。


「ねぇ、野薔薇っちのPSYサイ使ってる時さ、なんで握り返したの?」

「え、野薔薇さんがこう、キュッと握りしめてこられたので」

「握り返したんだ」

「握り返しましたね」

「…で興奮したわけだ」

「?!?」


 おいまてまて!何だこのお姉さん!めちゃくちゃ攻めてくるじゃん!ちょっと困るよ!困っちゃいますよ俺!


「ちょ、智子さん!それは失礼では!」

「けどさ、野薔薇っちはそうゆうのも分かるわけなのよ。てことは少なくとも嫌じゃなかったわけだよね?」

「あの、そりゃそうですけど…」

「本当ですの!?」


 野薔薇さんが今度はオーバーリアクションをする。ここまで来てやっと、本来男性は女性に深層心理では苦手意識がある事を思い出す!今目を通した資料にも載ってたじゃないか!


「まぁ怖がらせようとかは思ってないよ?けど普段男性を警護してると、溜まってくるわけ。私はそうゆうPSYサイ持ってないけど、野薔薇っちは合法的に男性に触れる機会もあるわけ!」

「ちょっと!その言い方はワタクシに失礼でしょ!」

「まぁまぁ。まぁ何が言いたいかというとさ。そっちから触れてくれるのは私全然いいよ?ってこと」

「──」


 おいまてまてまて、何だこの状況?!ラブコメか?!エロ同人の導入じゃねぇのか!いいのか本当に?!

 ついに距離が無くなりピタリと肩がくっつく。しかも両側。野薔薇さんも肩で挟んでくる!この人も満更じゃないのかよ!全員もう顔真っ赤でしょ!


「戻りました。失礼なことはやってないでしょうね?」

「なーんも??」

「ええ、してませんわ。隊長、方針は決まりましたの?」

「智子、その軽い口の利き方を殿方の前でするなと毎度言ってるだろう?」


 ババ様達と共に茜さんが部屋に入ってくる頃には素早く元の位置に戻っていた。気配とか足尾とが分かるのかこの人たち……。


「これから純一様を那の津にお連れします連れします。同席する護衛はここにいる智子、野薔薇、私と千咲、椿の5人です。賊に勘づかれる前に急いでここを発ちます」


 突発のドキドキイベントを乗り越えて、俺は那の津へ護送されることに。

 自分の荷物は何も持ってきてなかったが、古賀家の従者の方から弁当や必要なものと荷物を預かった。本当にお世話になってしまった。暇があったらまたお礼にきたい。


 中庭には既に黒塗りの自動車が止めてある。これに乗って那の津までおおよそ2時間程かかるとの事。中はそんなに狭くないし、普段男性の移動手段として使っているとのことで外装はトテモ頑丈との事。


「本来は避けたかったのです。男性が乗っているとアピールするようなものなので。ですが一刻を争う状態であること、仮にも古賀家の行いは政府に公にして良い事だった事へのアピールとして賊に伝わるようこの車での移動となりました」

「囮用の車も考えたのですが、万が一襲われた時守れないかもしれませんから」


 促されるまま車に乗り込む8人ほど乗り込める車内の広さ、後ろの座席は対面式の座席になっている。なるべく中央に近いところに俺が乗り込み、周りを囲うように女性陣が固める。


 部屋と違ってなかなか女性の距離が近くなる。一応人一人分と少し隙間が空いているが、女性のいい匂いが立ち込める空間でドキドキしてくる。


「いやー分かる分かる。萎縮しちゃうよねこんな狭いところで女性に囲まれちゃってさぁ。困っちゃうよね?」

「ああ、確かに、異性にここまで囲まれるとドギマギしちゃいますね」

「だからウチが連れ出しちゃう」


 いつの間にか隣に座っていた女性が俺の肩を組むように隣に座っていた。昨日の夜に見た忍者のような格好、マスクで口元を隠し、スラリとした手足にしっかりと筋肉があるのが分かる。

 と、そんな場合ではない!この女性はだ──


「しまった!もうぞ──」

「ばいばーい!」


 謎の女と朝凪純一は一瞬にして車内から姿を消した。

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