第2話

朝の7時45分。都心とは反対の電車に乗り、5駅。扉が開く、降りる人はいない。

電車とホームの隙間を確認して、足を踏み出す。視線を上げる。

反対の扉に寄り掛かって、外を見ながら小さく欠伸をして目を擦る、同じ学校の制服に身を包んだ男子。それは私が電車に乗って初めて見る、目の前の景色。


「……あ」

無意識に出た小さい声に1人で驚き、顔を伏せる。顔を上げるのが恥ずかしいけど、上げたくなった。


―――名前も知らない彼と、目が合う。


私はいつも、胸がキューって苦しくなる。


―――前に本で読んだ。

『恋をすると、胸がキューって苦しくなる』って。


―――――鈴木紗世すずきさよ、高校1年生。この気持ちが恋なのか、分からなかった。



「恋をすると、どうなるの?」

「…は?」

高校で初めてできた、友人の高坂千夏こうさかちなつちゃんに質問すると、呆れた声が返ってきた。

「だ、だって千夏ちゃん、悠哉くんと付き合ってるでしょ? それって恋したってこと…だよね?」

千夏ちゃんとその彼氏、皆川悠哉みながわゆうやくんは中学2年生の頃から付き合っていて、もう熟年夫婦のようだ。

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