読む人、タイミングによって捉え方が変わる短編
- ★★★ Excellent!!!
決裂していた親子が、父親の死の間際にようやく和解する、そんな穏やかな始まりから一転、父親の恐ろしい独白に、主人公は戦慄します。
父親の言い分は、まあ身勝手でしょう。
まるで道理が通っていない上、妻を突き落とすその瞬間まで、自分勝手なフィルターを奥さんにかけている。
だけどそんな身勝手で弱いのが、人間なのではないか。
そんな風にも思えてきてしまうのは、静々と進む文体だからでしょうか。
そして最後。
死んだはずの母親と対面する主人公。
──あなた達にはがっかりよ。
──何を言ってもどうせ分からないでしょう。
──いい加減、そんなくだらないもの。さっさと捨てなさい。
このセリフに何を感じるのか。
自分(死んだ母)のような存在に執着するのではなく主人公自身を大切にしなさいと優しい叱咤激励か、そんな執着しかできないお前はもう先がないという絶望の宣告か。
読む人、あるいは読んだときの精神状態で結構変わりそうです。
ちなみに私は後者、ダンテの神曲にある地獄の門を開けたような気分になりました。
心を揺さぶってくる短編、オススメです。