夢の話
猟犬
何かにつながるかもしれない?
私は最近よく眠れていない。
悩みがある、人生を決めかねないような。
布団をかければ熱い、放れば寒い。
こういう、晩春が呼び込んできた諸般の事情で碌々眠っておられず 、何度も目が覚め、何
時に寝ても必ず六時前には目が覚めた。
しかし、 毎朝、私の目を覚ますのは、寒さでも悩みでもなく、ガールフレンドからのメッ
セージの着信であった。
毎朝、枕元の携帯がヴヴとなって、寝ぼけ眼をこすりつつ、一言二言返信を返す 。
そのあとうっかり寝てしまうと、 私の甘えん坊な彼女はぷりぷりして拗ね出してしまうの
で大変である。
まあ、そこが可愛いところでもあるのだが。
今朝、 私はそんな可愛い彼女のメッセージで起きて既読を付けた後、 二度寝の禁忌を犯し
てしまった。
起きた後、 彼女をなだめるのも大変だったが、それ以上に、 もっとひどい夢を見てしまっ
たのである。
夜であった。
閑静な住宅街で暖色の街灯が穏やかに光ってよく整頓された四層建て程度の集合住宅の
横を歩いていた。
私はその中に入らなければならない事情があったらしい。
二重ロックの異様に背の高いガラス戸両開きの自動ドアのほうへ歩いて行った。
外から、 一枚目の自動ドアの先に大理石様のフロントの呼び出し機が置いてあって、 その
先、左に曲がったほうに二枚目の自動ドアがついていた。
どうやって突破したかは覚えていない。
次に見えた絵は、乱雑な部屋の中だった。
フローリングで一般的な洋室の一室だったと思う。
白い布だの洗濯用のかごなどが散乱していて散らかっていた。
それで私のそばに小学校中学年くらいの男の子が立っていた。
カマキリのような顔立ちの少年でその表情は非常に無機的なものだった。
なんというか、何か切迫した気持ちがあった気がする。
そして、 段々、 これが彼女の家であるということに唆されたわけでもないのに、 脳幹から
湧き出すように気づいた。
余計に抜き差しならない気持ちになった。
何か主張したい?逃げ出したい?気持であった。
ふと、 部屋のドアのほうに目をやると、 暗闇の廊下から奇怪な風貌の男がいつの間に
か現れて立っていた。
その男は平成の傾奇者のような金髪の長髪で遠めに見てもわかるほどの濃い化粧をして
いて、白いワイシャツをだらしなく裾まで出したまま着ていて黒いルーズなズボンをはい
ていた。
直感的に彼女の父親だと思った。
緊張の衝撃が私の頭蓋を瞬きの間もなく貫いた。
間違いなく恐れていた存在だった。
私と彼女の両親の間にはあったこともないのに確執があった。
彼女の両親は毒された思想の持ち主であり、普通に生きてきた私と娘が恋仲にあること
にかなり否定的な見方をしているということを彼女自身から聞いていたのである。
私も彼女も二人の間にこの話がぶちまけられたとき、人生有数の規模の憂鬱にさいなま
れた。
私はこの命を確実に削っていった憂鬱の、 今後つかみたい未来の大きな障壁として立ちは
だかる、その存在を蛇蝎のごとく嫌い、恐れていた。
そんな存在が目の前に突如として現れてしまったのである!私は為す術なく固まった!
すぐに目が合った。
私の喉の奥で言葉が沸騰し始めるよりも早く、彼女の父は口を開いた。
男にしては高めでじっとりとした声でいった。
「ごめんね、話し合う気はないんだ。帰って。 」
喉の奥でぐつぐつしていた言葉が、 それこそ、 ちょうど水を差したかのように静かになっ
た。
耳元で甲高い均一な音が鳴っていた
次の瞬間、私はもう玄関に飛ばされていた。
私は狼狽して何かもごもご言っていたが、 男は靴を履く私の背で何も言わず立ちはだかっていた。
「それでは…し、失礼します…」
そこまで言って私の悪夢は終わった
夢の話 猟犬 @kazamasouta
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