コンビニバイト

口一 二三四

コンビニバイト

 学生の頃やってた変なバイトの話聞いてくれる?


 コンビニの深夜帯のバイトなんだけどさ、やることが接客とか品出しとかじゃなく『店に入ろうとする動物を追い払う』って内容なの。


 んでその追い払い方も変わってて、店長が用意してきたなんかの肉? の入った布の人形を遠くに投げるって方法だったの。

 時間は深夜十一時から朝五時まで。

 空いた時間はなにしてても良くて店内のことも「しなくていい絶対にするな」って言われてた。


 それで日給一万円。

 変だなと思ったけど当時どうしても欲しいカバンがあってお金欲しかったし、まぁそのコンビニ建ってるの田舎でイノシシが畑荒らすとかも聞いてたからコンビニとかも被害受けてんのかなってあんま深く考えなかったの。


 でもやっぱ気にはなるから初日に軽く聞いたんだよね。

 そしたら店長「お客様は神様で店のモノは全て商品だから」とか意味不明なこと言ってきてさ。

 いや、そんなの当たり前じゃんって思ったんだけど見るからに疲れてるっぽいからあんま追及しなかったんだよね、かわいそうだし。


 やっぱ店長って仕事大変なのかなって思いながらバイト始めたんだけど、田舎だからか思ってたより結構動物来るんだよね。

 畑荒らすイノシシもそうだし犬、猫、へび、ハクビシンってやつ?


 とにかく色んな動物が来るから最初ビックリしたんだけど、別にこっち襲ってくるとかなかったしみんな肉入った人形投げたら咥えてすぐどっか行くから慣れてくると結構楽しかった。

 サルが来た時は「この辺りにいるんだ」って妙に感動とかもしたっけ。


 追い払う以外は好きなことしてていいからスマホ触って、なんか動物来たら人形投げて、たまに人来たらいらっしゃいませーなんて言って。

 特になにも起きず気づいたら朝五時になってて出勤してきた店長に手渡しで日給一万円もらえるからマジでいいバイト見つけたなって当時は思ってた。


 そんな感じで二週間ぐらいやってたかな?

 日給渡す時店長絶対「バイト続ける?」って聞いてくるんだけど、大体いつも二つ返事で「続けます」って言ってた。

 その時もう欲しいカバン買える額貯まってたんだけどこんな割りいいバイト辞めれないってなってたんだよね。


 同じぐらいの時期にずっと深夜帯店内の仕事やってたおじいちゃんがギックリ腰やっちゃって臨時で新しい人が入ってきたの。

 四十ぐらいのおっさんなんだけど見るからにエラそうって言うか、年下だからって理由だけで店長にもタメ口使うようなヤツだった。


 当然あたしにもエラそうな態度取ってきて「お前はいいよな仕事楽で」「なんで俺の方がやること多いんだよ」ってバイト中ぐちぐちぐちぐちずっとうるさかった。


 バイト自体は楽なのにコイツのせいで気分悪いな、おじいちゃん早くギックリ腰治して戻ってきてほしいなって思いながら続けてたんだけど、一週間経ってもそんなだったからあーもう無理だ今日終わったら店長に「あのおっさんが深夜帯の間はバイト休みます」って言おって決めたの。


 四時半過ぎたぐらいかな?

 そのおっさんに「品出し手伝え」って言われてさ。

 店長から「店内の仕事はするな」って言われてるって説明してんのに「俺も聞いてる」「お前に気があるから甘やかしてるだけだ」とか言って全然聞いてくれなくて、まぁ。


 あたしも疲れてたし、この時間に動物あんまこないし、店内の仕事しないのに負い目みたいなの感じてたからちょっとぐらいならいいかって品出し手伝うことにしたの。

 おっさんが満足そうな顔してたのが腹立ったけど、これで静かになるならいいやって黙々と慣れない品出しやってた。


 そしたら「うわっ」ってレジの方から聞こえたから「もしかして動物入ってきた?」って顔覗かせたらさっきまでヒマそうに立ってたおっさんの姿が消えてた。

 あたしに仕事押し付けて奥に引っ込んだのかなって見に行こうとしたんだけど、その時目に入ったんだよね。


 おっさん咥えて山の方に駆けてく大きな鹿の姿が。


 人間変なことあるとマジで身動き取れなくて、その時のあたしもなにが起こったのかわかんなくてしばらく茫然としてた。

 出勤してきた店長に声かけられてようやく頭動き出して説明したんだけど、あたしが店内にいるのとおっさんがいないのでなにか察したみたいだった。


 それがなんかめちゃくちゃ怖くてどういうことなのかって詰め寄ったら「キミは悪くない」「キミじゃなくてよかった」って慰めてくれて「お客様は神様で店のモノは全て商品なんだ」って初日に聞いたのと同じことを言われた。

 初めて聞いた時は意味不明だったけど実際に見たからかすんなり理解できて。


「あたしが追い払っていたのは『動物の姿をした神様』で、投げてた人形は『店の者』を取られないようにするための『供物の代わり』だったんだ」


 あたしの言葉を否定も肯定もしなかったけど「あの人にも説明してたんだけどな」ってぶつぶつ言いながら事後処理をする店長の様子から外れてはないんだろうなとわかった。

 日給一万円渡された時いつものように「続ける?」って聞かれたけど、あたしは「辞めます」って言って逃げるようにコンビニ出た。


 これが学生時代あたしがやってた変なバイトの話。

 おっさんは行方不明者として未だ見つかっていない。

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