第5話

―――――――………





頭がぼーっとする。


何度も何度も、日和が泣きじゃくる姿が浮かぶ。



あんなに泣く日和を見たのは初めてだったからだろうか。



「あー…」



頭を冷やしてくると言って家を出たはいいものの、マンションの前のベンチに座ったまま重い腰をあげることができず1時間が経った。


日和は今部屋で何を考えているだろうか。



「どうしよ…」




すごい追い詰められてる。


っていうかまだ24の俺に結婚せまるか普通。



確かに日和は29で、もういい加減身を固めないと周りの目線も気になってくるころだっていうのはわかるんだけど。


わかるだけどさ…、これでいいのかってすごい迷ってて。


こんな迷ってる状態で日和と結婚していいのかって。





「あーめんどくせー」




なにこの選択。


無理。

本当に無理だ。



「っ、」




…ってかこんなに迷ってる時点で駄目じゃん俺。



「駄目じゃんね…」



頭を思いっきりくしゃくしゃに掻いた。


ふわふわした感覚のまま腰を起こし部屋の前まで戻る。


汗ばんだ手でドアノブを引くと、奥の部屋に日和がいるのが見えた。

日和は目を真っ赤に腫らせたまま、生徒たちのテストの丸付けをしていた。



「日和…」


「ん…」



こんな状況ですら、首を立てに振ろうと思わない。



本当に好きなら、愛してるなら、今すぐにでも結婚しようと言える。




でも…それができない俺はどう考えたって日和のそばにいていい存在じゃない。



本当に好きなのに、本当に愛してるはずなのに。





「ごめん…。日和」





29歳の日和。




24歳の俺。




5つ違いなんて、なんてことないと思ってた。

そんなのどうにかなるって。



だけどそれはどちらも若かったころの話だ。




俺たちはいつの間にか大人になっていた。





「俺と、別れて」





――生徒と教師だったあの頃には、もう戻れないんだ。

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