第15話

フロアに行くともうすでに練習会は始まっていた。



「お疲れ様です」



声をかけると、集中しているせいかまばらに挨拶が返ってきた。

明らかに気まずそうな雰囲気が流れていた。


アシスタントは全部5人。


各々が練習をしていて、それぞれやっていることが違う。



カット練習にブロー練習。

一番新人の柏木さんですら、もうパーマの練習に入っていた。


ただもうすでにその練習に入ってから2ヶ月が経っていると聞いていたのにどうも手元がおぼつかない。



「柏木さん、もっとテンションかけて」


「…はい」


「角度よく見ないと曲がるよ」


「………」



自分が新人の頃、よく注意されていたことだった。



私も不器用だったからロッドを巻くのには苦労して、パーマが全部終わるのに半年以上かかったのを覚えている。



「柏木さん、ちゃんと角度見て」


「………」


「面が汚いでしょ?引き出す方向が違うんだよ」


「………」


「聞いてる?柏木さん」


返事のない柏木さんの顔を覗くと、柏木さんは少しだけ泣きそうな顔をして私を睨んだ。



「怒ってます?池田さんのこと」


「え?」


「だからそうやって私にばっかり言うんですか」



そんなに強く言ってるつもりはなかった。


だけど柏木さんは少しヒステリックになる自分を抑えきれないみたいだった。



「私、悪くないですから!いつも撮影ばっかり行って忙しいときに全然いなくて!私たちがどれだけ苦労して仕事してるか知ってますか?!」


「やめろよ、柏木っ」


「それなのにこういう時だけいい先輩ぶって!言いたいことがあるならはっきり言えばいいじゃないですか!!ムカつくんですよ!!」


「柏木さんっ!!」



…他のアシスタントやスタイリストが止めに入ってくれるけれど、柏木さんの言っている事は、ごもっともだった。


だから私は何も言えず、ただ私を罵倒する柏木さんを見つめることしかできなかった。



柏木さんの気持ちに気づいてあげられなかったのは、撮影に感けていた自分の責任だ。


きっと他の人だって、同じように思っているかもしれない。



「ごめんね、柏木さん」


「っ」


「でも私、怒ってないから」


「なっ」


「こういう世界ではね、そういうのは当たり前にありえることなんだよ。1つのミスが何年も築き上げてきた信頼を簡単に失うことだってある」


「………」


「でもそれは、仕方のないことだから」



私は、驚くほど冷静で淡々としていた。



今日の撮影が終わってからずっとそうだ。


表情が、感情がなくなってしまったみたいに口角をあげることも下げることもできない。





おかしいな、私。


いつもならどんなに辛いときでも、仕事なら簡単に笑えてたはずなのに。



それだけは、忘れなかったのに。



この4年で、強くなったはずだったのに――。

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