第10話 上級魔法
「さて、これからお前に上位魔法を教える」
「ああ、よろしく頼む」
サーシャはそう言いながら森の奥の開けた地面に座った。
「と言っても、上位魔法も発動方法は今までとそう変わらん」
「呪文を唱えるだけで発動すると言うことか」
「そうだ。だからこそ危険度が高いとも言える。簡単に、誰にでも発動できてしまうからこそ、上級魔法の呪文は秘匿され細々と受け継がれてきた」
俺はその言葉を聞きながらサーシャの正面に座る。
「その危険性は以前伝えた通り、素養素質才能、もしくは経験、そういったものがない人間に容赦なく牙を向く。まあ要するに、凡な人間にはどうやっても辿り着けない領域なわけだ。その分、大きなリスクを伴うことになるわけだな」
「それはもう聞いた。覚悟の上だ」
「そう急くなよ。これは上級魔法を発動するのに必要な工程だ。自分の使う技術を十全に理解しなければ、その技術を習得したとは言えないのだからな」
確かにサーシャの言うことも一理ある。
俺は黙って聞くことにした。
「でだ。呪文というのは魔法の発動工程を全自動で処理する仕組みのトリガーであり、一度呪文を口にしたら最後、完全に処理が完了するまで強制的に処理を続ける。発動者の脳の処理能力が足りずに焼き切れようとも全ての工程を終えるまで止まらない。上級魔法は処理工程が中級以下に比べて圧倒的に複雑であるため、処理が追いつかずに簡単に脳が焼き切れて発動者を死に至らしめる」
そこまで言ってサーシャは一旦言葉を区切るとコチラを見た。
俺はその瞳を見つめ返す。
「ここまではこの間話した通りだな?」
「ああ。すでに聞いた」
「さて。ここからが重要な話だ。その小さい耳をかっぽじってよく聞くように」
確かにエルフの耳に比べたら俺の耳は小さいけれども。
そんな冗談とも分からないようなセリフを一切表情を動かさずに言った後、サーシャは真剣な眼差しでこう続けた。
「つまり、もし上級魔法が発動できれば、お前はより複雑で難解な魔法の処理工程を知り理解することになる。これは無詠唱への道に近づくことと同義であり、さらにその先、オリジナルの魔法の発明への道を一気に開かせることとなる。中級以下の魔法は単純な処理しか行われない。そこに拡張性や応用性はほとんど存在しないが、上級以上になってくると、処理に拡張性や応用性を持つようになっていき、例えば処理工程を減らしたり、新しく工程を増やして別の魔法に変えることもできるようになってくる。私がお前に最終的に求めるところは、この、魔法の処理を完全に理解して、自在に操れるようになることだ」
オリジナルの魔法……。
その言葉に俺は思わず冷や汗を垂らす。
そんなもの聞いたことがない。
魔法というのはすでにある完成した技術である。
それが一般的な人間の認識だ。
それを自分勝手に変えたり作ったり出来るだなんて……。
まさしく、夢のような話だった。
「だから——絶対にお前には上級魔法を乗り越えてもらわなければならない」
「任せろ。乗り越えてみせるさ」
サーシャの言葉に頷いてそう言った。
それからサーシャに上級魔法の呪文を教わった。
「では、覚悟はいいな?」
「当たり前だろ。何度も聞くなよ」
俺はそう言ってから、息を大きく吸うと、呪文を唱えた。
「魔力よ、呼応せよ、アトミックブラスト——ッ!」
瞬間。
俺の脳内に圧倒的な物量の情報が入り込んでくる。
……これが上級魔法の処理工程なのか。
現状では脳内で何が行われているのかさっぱり理解できない。
一瞬で高熱になった時のような頭痛と気怠さに襲われ、吐き気すらも催してくる。
しかしその苦痛は一秒に満たない一瞬で過ぎ去っていき、俺の目の前の森が、文字通り爆ぜた。
爆風が巻き起こり、強烈な熱気で肌がひりつく。
目を開けておくことすら困難なレベルだ。
しばらくして爆風が収まり、目を開くと、目の前の森がほとんど消滅してしまっていた。
以前、サーシャが赤猿を消し去った時の魔法と同じ程度の威力が出ているようだった。
「なんだこれ……。これを俺がやったのか……?」
俺は呆然とそう呟く。
この現象を自分が起こしたという事実が受け入れられなかった。
しかし隣に立っていたサーシャはニヤリと笑って言った。
「ああ、そうだ。これはジン、正真正銘お前自身の魔法で引き起こした現象だ。……よくやったな」
サーシャのその言葉を聞いて、俺は思わず乾いた笑いを溢すのだった。
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