白衣の勇者! ──どうやら美人看護師(超cute♡)が異世界を魔王から救うようです──

冬 秋

1滴目 白衣の天使

「マックバァーーーニッッ!!!」


禍々しい暗霧が漂う城内に、美しくも恐ろしい、女性の声が響く。


刹那


「██▇█▇█──!!」


耳を切り裂くような轟音と暴風とともに、咆哮が轟く。


声の主は黒く禍々しい竜。

名称は《ブラックドラゴン》

既に大きな死骸になっている。

上に10m、尾にかけて20mもの巨体。その腹部には風穴が空いていた。


そしてその風穴をブチ開けたのが、


「私!ほんっとに強い!そして可愛い!だって私は──」


竜の足元に立つ女性。この場には似合わない、清潔感溢れる服装。


そうしてこう掲げた!!


白衣の天使ナースなんだから!!」



𝓷𝓾𝓻𝓼𝓮 𝓼𝓽𝓪𝓽𝓲𝓸𝓷──



「はーい、今行きますね」


専用の携帯電話に向かってそう伝える。

相手はナースコールを押した患者さん。どうやらトイレに行きたいようだ。


「ちょっと612号室行ってきます」


ステーションにいる、2人の先輩看護師に伝えてからステーションを出る。


「中島さん、入りますね」


そう言って70代の男性患者をトイレにつれていく。


ご覧の通り、私こと白衣しらごろも 天子てんしは看護師。今年の四月から勤務2年目になりました!

年齢は、、、秘密。


やっと業務に慣れて、ちょっと早いけど新人看護師の面倒も見るようになりました。


そんなことはどうでも良くて、


私はとても可愛いです。すごくべりーきゅーとです。とても。

いや本当に。


厨二病を拗らせてゲームと二次元の世界に走っていた中学の頃の記憶は消し飛ばし、高校生から美人になった私は、看護師になりました。


「それじゃあまた何かあったら、ナースコールで呼んでくださいね」


優しく声をかけると、中島さんも笑顔でありがとうと言ってくれる。


これがやり甲斐のあることで、患者さんからの笑顔で、私はなんとか厳しい仕事も続けています。


ステーションにてくてくと戻っていく。


「中島さん、大丈夫だった?」

「大丈夫でした!トイレが最近近いみたいです」


先輩看護師にそう伝えると、


クラシックの音楽が、備え付けの機械から鳴る。

ナースコールの呼出音だ。


「私、行きま──え?」


先輩に、自分が行きますと伝えようと思った時、変なことに気がついた。


「この部屋、、、患者さんいませんよね、、」

「また鳴ってる、よくあるんだよね、でももしかしたら他の部屋の患者さんが間違って入っちゃってるかもしれないから、一応見てきてくれない?」


今は夜勤帯で、時刻は2時45分。

いわゆる、怖い時間ってやつです。ひぃ。


「え、私ひとりでですか!?」

「てんちゃんもしかして怖いー?」

「そういうわけでは、、、ない、、ことも無いですケド」


けらけらと笑う先輩。


「大丈夫、機械の不調だと思うから、ボタンだけ押してきてくれる?」


困ったことにうちの病院のナースコールは、患者側の手元にあるナースコールのボタンを1度押さないと鳴り止まない。


「、、わかりました、、、」


納得してないけど仕方ない。


発信源の病棟の一番端の部屋に1人で歩く。


「くらっ!こわっ!もうなに!」


響くのはナースシューズの音だけ。


廊下がやけに長く感じる。

こつこつと足を進めて奥に進む。


こんなに長かったっけ。


暗い廊下からは光が無くなったみたいで。


やっとの事で、1番奥の病室の前にたどり着く。

ゴクリと固唾をのんで。


意を決して発信源の病室に入る。


「何もいないよね、何もいないよね」


──あるのはチカチカと光っているボタンだけ。


ふぅ、安堵の息を漏らしてボタンを押す。


すると──


「え──」


急に足元に感覚が無くなって、足元を見る。


そこには床がなかった。


「うわ、え──いやぁぁぁ──!!」


落ちていく。暗い暗い闇の中にどんどんどんどん落ちていく。


やばいやばいやばいやばいやばい!


あー、でもだめだこれ、


落ちていく中で頭が急に冷静さを取り戻し始める。


かと思ったらいきなりの眠気。今までに感じたことないぐらいの。


全身麻酔全麻ってこんな感じなのかなあ」


馬鹿なことを呟いて、眠気に身を任せた。



𝓷𝓾𝓻𝓼𝓮 𝓼𝓽𝓪𝓽𝓲𝓸𝓷──



『職業を選択してください』


暗い中で声が聞こえた。


夢だと思った。

看護師は今なってるからなぁ。

ここはファンタジー的に行こう


「冒険者とかいいかも、前から憧れてた」


『第二職業 《冒険者》を取得』


機械的な声がするけど放っておく。てかなんで第二?


「あーあと、魔法使いも、僧侶も巫女もいいなあ」


『《魔法使い》《僧侶》《巫女》を取得』


「あ、ソードマスターとかもいいよね。剣を沢山振り回して」


『上級職 《ソードマスター》を取得』


上級職かぁ、じゃあもっと強いのも。


「ハイプリーストとか、クルセイダーとかハイウィザードとかもいい!」


中学の頃はゲームばっかりやってたからなあ、どばどば出てくる。


『上級職 《ハイプリースト》《クルセイダー》《ハイウィザード》を取得』


もっと極めつけには──


「神様!」


神職ゴッズを取得。残りスロットは1つです』


あとひとつかあ。


でもやっぱり私は──


「看護師!!」


小さい頃からの夢だった。

お母さんを最後まで笑顔にしてくれた看護師さんみたいになりたかった。


『《看護師ナース》は既に与えられている第一職業です。ナースとナースの同職業を合成し新たな職業を獲得しました。

《白衣の天使》』


何それ可愛い。


そんなことを思いながら、また眠くなる。


「これ、夢じゃないの──」



𝓷𝓾𝓻𝓼𝓮 𝓼𝓽𝓪𝓽𝓲𝓸𝓷──



はっ!!


目を開けたそこは──


木!木!木!!

見渡す限りの木!!


つまり森!


「どこ!?え!どこ!?」


目を瞑って思い出す。


「私、そういえば病院で、、、あ」


暗闇の中に落ちたんだ。あのナースコールで。


夜勤で、あの奥の部屋。誰もいない病室で。


「で、ここはなに──?」


すると、ガサガサと近くの叢が揺れる。


「わ!?なに!?」


一応、身構えて警戒する。


すると──


「僕は悪いナスじゃないよ!」


そういって、紫のナスが飛び出してきた。結構でかめの。50センチぐらい。

ちなみに羽が生えてる。

目もついてる。


「ぎゃ!!」


私は驚いて尻もちをつく。


これは──、異世界かもしれない!!!





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